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キルライフ  作者: 沼郎
第2章 嘘を吐いた自己正義達
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第二章 57 心火の過程

ジョニー視点。


 泥酔して酒に溺れて紫煙を肺に取り込み、押し潰されそうな程の罪悪感を押し殺し続けた。


 昔から俺は人一倍罪悪感を感じやすかった。少年時代は一日を夜、寝る前に振り返って間違い続けた分岐点を悔やむ。その分岐点の正解かは何処かもわからないというのに何となく後悔をする。人にしたからかいなども重く罪悪感として心に残り続けた。


 他にも昔、一度言い争いになって喧嘩になって負けた事があった。身長が200cmあった自分にとって、それが悔しくて悔しくて仕方がなかった。だからそれ以来自分の身体を追い込み続けて驚異的な身体を手に入れた。だがその体を手に入れた所で、相手を屈服させたことで何かが変わることはなかった。やられたことは必ずやり返すという信念もあり、起こるのは無限のスパイラルだった。


 こんな性格なものだから『恨み』や『呪い』が恐ろしかった。そして何よりも『死』を恐れた。そしてその死に直面する事態に陥った。オールディという男に為す術もなく敗北したのだ。体格差がこんなにもあるのに『能力』の差だけでここまで圧倒される。 


「腕っぷしの強い男を数人集めている。目的を達成したら解放するから加われ」と言われた。


 俺は「はい」としか言えなかった。断った時点で殺されるから。加入した後はもっと地獄を味わうとも知らずに。オールディは仲間たちに亜人達を集めるよう指示した。必ず2人で行動をすることも決められた。俺はシェネントハープと言う奴と一緒にそれに割り当てられた。彼も俺と同じ感じで加入した人物だ。


 彼は生きる為に仕方なく亜人を拉致する。俺も同じく生きる為に亜人を拉致する。他のメンバーの中にはそんなイライラを亜人に八つ当たりする者もいる。オールディはそれに対して注意はしていたのだが、俺は我慢できず度々そんなやつらと対立する。けど結局俺も亜人を拉致して生を稼ぐ卑しい生き物なのだ。


 拉致しては罪悪感に苛まれ酒を飲み、泥酔し記憶を飛ばす。葛藤のストレスや積もり続ける憎しみを紫煙の煙幕でひた隠す。抗うこともせず、ただ惨めに泥水を啜って生きている。汚らしく生き延びている。そして罪悪感に呑まれ続けたとき、こんな思いをするくらいなら死ねばよかったなんて思うようになっていった。

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 路地裏で煙草を吸い、虚ろに空を眺めていた。亜人拉致のノルマは一日一人。いままでは順調に集めていたのだが最近はさっぱり拉致できない。連日の亜人拉致の報道もあり、巡回している兵や警戒する亜人も増えている。オールディも事が順調に進まない事に苛ついている。


 このままじゃ文字通りクビを切られるのもそう遅くはないだろう。でももう俺がこの世にしがみつく精神力はない。手は泥塗れで視界も真っ暗。最早この罪悪感を背負ってまで生きていたくない。煙草を吸い終えそう思って立ち上がった矢先に女の亜人が少女を背負って急いでいる。


 俺に気付かない程後ろを気にして走っている。案の定俺にぶつかった。そして俺の顔を見るや絶望の表情を浮かべる。女は来た道を急いで戻る。だがその道を塞ぐように化け物が壁を突き破り出てくる。女はこの怪物に追いかけられていたのだ。


 俺は咄嗟に女の肩を掴み、こちらに引き寄せた。そして「行けェ!追われてんだろ!!」と叫ぶ。


 女は目に涙を浮かべながら走り去っていく。怪物はその女を追いかけようとするので肩を掴んでこの場にとどめさせた。だが次の瞬間大男の腹部に強烈な拳が命中する。久々に味わった激痛だった。だがこんな痛みも…積もりに積もった罪悪感よりは全く痛く感じられない。


「お前からよォ…手ェ…出したんだぜ」


 俺は笑いながらそう言った。俺が行うのは生にしがみ付く為の亜人拉致ではない。一人の亜人を救うために行うのだ。ジョニーも拳を握り締めて甲冑着込んだ怪物の腹部を全力で殴る。怪物は血を吐いてよろけて後ろに倒れる。


「来い怪物!力の差を思い知らせてやるぜェ!!」


 ジョニーがそう叫ぶと怪物は転んだままジョニーの両足を薙ぎ払い、ジョニーもすっころばせる。そして両者同時に立ち上がり、両者とも右拳で顔面を殴る。怪物の甲冑は剥がれ口だけののっぺら面が晒される。


 顔面の攻撃にひるまなかったジョニーは立て続けに怪物の顔面に拳を叩き込む。あまりにも強力な攻撃に怪物が壁にしていたコンクリート塀も壊れる。怪物は咄嗟にコンクリートの破片を投げるがジョニーは避け、足を掴み、今度は反対側の壁へと怪物を投げる。


 怪物が当たった反対側の壁も崩し、全身から血を流し続ける。


「正義を盾にしてこの力を振りかざす時!俺はなァーー!最も俺を実感するんだぜェーーッ!!」


 立ち上がってこない怪物に向かってそう叫ぶ。それは己にも向けた叫びだった。悪事を強いられてきたこの数日間。今まで封じてきた怒りの感情。それと決別するための決断の叫び。焚き付ける様に怒りの感情は爆破する。


「マイ・オールディ…俺はお前も許さない。」


 憎悪が加わり低く、唸る様な声でそう呟く。


 怪物はいつの間にか消えてはいたがジョニーにとってそんなことは最早どうでもよかった。もう揺らぐことのない罪悪感の上に輝く正義は闇を打ち払う。死すら恐れるに値しない。


 私憤、慨然、燃える大男のそう至るまでの進化。これが、心火の過程。


 

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