第二章 55 告白
文字数多めかも
アースは怪物がミラを追って進んだ道を辿っていた。ミラは怪物が通りにくい細い道をあえて通っていたみたいだが壁を破壊しながら通っていた怪物にとってはあまり意味はなかったようだ。
暫く進んでいくとひと際激しく戦闘があった個所にたどりつく。それ以降の道に怪物が通った痕跡がない為にここで怪物は死んだのだろうと推測される。少なくとも俺の知る限りミラに戦闘能力はない。つまり誰かが助っ人に入って助けたのだろう。もしかしたらあの時俺を助けてくれた警備兵なのかもしれない。
そのまま路地裏を進んでいくと広場へと出る。アースにとってそこが最も忘れない場所だろう。最初に褐色の青年を捕まえた場所、何度も東の王都へ出発した地点。今現在がある為の理由もここで生まれた。巡回警備騎士兵団事務所の在るところ。
アースが息を切らして事務所へ入ると少女がソファーに寝かせられており、ミラはその横で椅子に座っていた。ミラはアースに気付くとホッとした表情で名前を呼ぶ。
「アースさん…!よかった…無事だったんですね…」
「その子は大丈夫でした?」
アースがそう問うと受付の男…好青年のゲルが此方に近づいてくる。
「大体はミラさんから事情は聴きました。今現在近くの巡回兵が現場に向かってます。それと、意識はないですが治療をしたので大丈夫ですよ!」
その言葉を聞くと安心して体の力が抜けて近くの椅子に座る。消えるはずだった4つの命の内1つでも救えてよかった。ミーナはその様子を見ていたが一言も言葉を発さず猫耳をぴくぴくと動かしていた。
「一安心した?アース、本当にありがとう。」と、聞きなれた声がする。その声の方向に顔を向けるとステラが優しい笑みを浮かべて此方に語り掛けていた。ステラも遡行に乗じて先にここまで来たのだろう。そして拉致されるはずだったミラの運命を変えた事に対する意味での感謝もした。
これが最後だ。この問題を解決する最後のチャンスだ。
亜人拉致組織、ボルボロスの襲来、深夜屋敷の襲撃、それに対処する為に必要な民衆の避難。戦力を増やし、祖たる神の迎撃用意。この山積みだらけの問題を解決するには俺だけで抱えるわけにはいかない。
『もう誰も悲しまない』と宣言し、完遂する為に、俺は全てを告白する。
「ミーナ、俺は未来を知っている。俺はアストレア女王の行く末を知っている。」
余りにも脈絡がなく唐突過ぎる告白に誰もが驚いた。ステラはその事実を告げる意味があるのかと、ゲルはその事実自体に。ミーナは表情を崩さずに「唐突すぎー」と笑い、此方に注目する。そして立ち上がり、アースに問いかける。
「えーそれは本当?」
アースは即答で「アンタなら分かるだろ?」と。
それじゃあわからない。その回答はズルいのだとミーナはアースの回答を拒否した。アースはそんなミーナに「アンタは俺に嘘を見破ることが出来るといった」と続ける。
「嘘を吐いているかどうかなんて、私にはわからないよ。私は心理学者でもないしただの獣人だから。」
ミーナは嘘を吐いていた。自分が嘘を見破れるのだと、アースに向かって言い放ったのは嘘だった。でも何となくわかっていた。薄々気づいていた。指摘しなかっただけかもしれないが俺が所々吐いていた嘘をスルーしていたから。でもアースは聞き返す。
「それは嘘?」
ミーナは「本当」と即答した。遠まわし、遠まわし、進まない会話にゲルはしびれを切らして結局未来から来たのかどうなのか教えてください!と声を荒げる。
「未来を知っているのは本当です。正確に言えば時間遡行ですね。」
回答したのはアースではなくステラだった。それに便乗してアースも喋る。
「ステラの言う通り、時間遡行で計2回、失敗している。その失敗でアストレア女王も死んでいる。一度目は皆殺しにされ、二度目は抵抗も虚しく蹂躙された。」
「…」
ミーナはステラからもそれが真実なのだと言われて答えに迷ったのか黙り込む。
「お前が信じようが信じまいが…協力しないというなら俺は勝手にやらせてもらう。これが最後だ、時間遡行はこれ以上起こらない。」
「…ふーん。じゃあさ、なんでステラやアンタにはあって私には未来の記憶がないの?」
「この能力に影響されない人間は一定数いる。抵抗が起こるのだろう。お前は影響される側だったってだけだ。この差の差別化は後でするとして、元々お前は喉から手が出るほど人手が欲しかったわけだ。お前にとって俺の協力を断固拒否する理由なんてないだろ」
「いやー、ステラから言われたから信用最低ライン到達してるけど、唐突に妄言吐いて怪しすぎるでしょ?まー別に協力しないなんて言ってないよー。」
「妄言じゃないって未来的確に当ててんだろ?」
「未来知らないしー。…アース?だっけー?まぁちょっと奥の部屋で話そうよ」
「ああ」
ミーナは奥の部屋に向かう。アースはそれについていった。そして扉を閉めて鍵をかけるとミーナは深く声交じりのため息を吐く。
「はぁぁぁ…それってさアース。東の王都壊滅くらいの地獄絵図が起こるってこと?」
「間違いなくそうだろうな。祖の神ボルボロスの襲撃、屋敷強襲者2名。お前にとっての問題はその程度。俺にはそのうえ拉致組織αも相手にしなきゃならない。」
「…αも知ってるんだ。…ってかボルボロス襲いに来るのかー……じゃあ屋敷で行った作戦はどうだったの?」
「無意味だった。強襲者2名、オーファンとリアナ。リアナの方が3つ能力を持っている。空間を短縮する能力、針を飛ばす能力、擬態する能力。バラバラになったことをいいことにやられた。」
「アースはそいつらにやられる前に時間遡行してきたわけ?」
「そいつらを殺して戻る為に死んだのさ。」
「…私が倒せなくてアースが倒したの?」
「倒したよ。俺には深淵化があったから」
「深淵化?なにそれ」
「…なんでもない。(深淵化は一般的に認知されていないのか?)とにかく、ボルボロスの力が未知数なんだ。俺は一度も戦っていないからさ。情報によるとまあ相当強いらしい。」
「だから戦力が必要なんだねー。でも多分無理。」
「…それは東の王都が他の国に嫌われているからか?」
「そんなのは本当に上層部だけ。今、『暗黒龍』って国を脅かす龍を倒す討伐隊も出来てこの国も今喉から手が出る程戦力を欲しているからねー。本当は私にも声がかかったけどこっちを優先した。私だけだよ唯一この国で戦力になれそうなのは。誰だって自分の国より他国を優先する馬鹿な国なんて存在しないでしょ?」
「…そうだな。」
「だからいざとなれば東の王都は滅ぶつもりで亡命するか、全滅覚悟でボルボロスに挑むか、北、西、南の王都に協力を要請するか。でも要請は間に合わないでしょー?はぁ~レアの泣き顔は見たくないんだよなぁ…あそこに執事は東の王都にこだわりそうだし…」
『もし面倒事があるなら名誉英雄のウィーズという方に頼ってみてはどうでしょう。』
打つ手がないと落ち込む前にルザの爺さんからのアドバイスを思い出した。
「なあ、老人会の連中や名誉英雄ウィーズとか協力してくれないかな?」
「えー?何言ってるの?老人会はそもそも上層部の人間だってば。最も他の王都を嫌ってる人たちだよ。」
アースの可笑しな質問にミーナは目を丸くする。そういえばまだ俺は記憶喪失とかの話とか一切していないもんな。老人会が上層部の人間ってのは常識か。
「…ならウィーズは?」
「…まぁ…連絡手段はあるけど…お兄ちゃんの元で剣術ならってるみたいだし」
「じゃあ頼むよ」
「でも英雄こそ4人とも暗黒龍討伐隊に編成されてると思うけどなぁ…」
英雄は4人もいたのか。ならなんであの爺さんはウィーズ一人を名指ししたんだろう。あの爺さんだって暗黒龍の討伐のことぐらい上層部の人間なら知ってるだろう。英雄が4人ともそっちに行くことぐらい分かる筈なのに。…もしかして何か理由があるのか?
「ウィーズだけは可能性がある。彼を動かすことが出来るかもしれない。」
「…わかったよ。ウィーズ君が苦手だからあんま関わりたくないな~とは思ってたけどそんなこと言ってる場合じゃないもんね」
「ウィーズが苦手なら俺が直接話を付けにいくからとりあえず話がある男がいるらしいってだけ伝えてくれればいい」
「はーい」
ミーナはアースに部屋を出るように催促して部屋から出した後、扉に鍵を掛けて携帯電話を取り出して耳元に当てた。




