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キルライフ  作者: 沼郎
第2章 嘘を吐いた自己正義達
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第二章 54 ヒーロー失格

ミラ視点の話です。

見直してないので誤字脱字あるかも

 

 母親は眼球を抉り取られ、腸がお腹から飛び出している。 


 父親は娘を庇おうとして娘に覆いかぶさったまま頭部を遠くの方へ転がしてお腹も突き破られている。


 少女は父親に押しつぶされ片方の眼球が抉り取られている。


 少年は顔の皮を剥がされ眼球や骨がむき出しになり、両腕の骨が皮膚を突き破って出ている。


 その衝撃の光景に吐き気を催していた。その家の窓は閉め切っており、死体から放たれる異臭は最高度まで達していた。その臭いに思わずその場で嘔吐してしまう。アースはその光景にただ立ち尽くしている。ショックだったのだろう。そう、ミラは察した。嗅覚など感じられない程に驚いたのだ。


 アースさんはこの家族を助けて明日へ進んだはずなのにこうして惨殺されているのは…きっと私以外にも時を戻すことに耐性がある人なんだ。これに影響される人間とそうじゃない人に分かれていたのはアースさんと出会ったあの日に理解できた。何度も拉致の道中を繰り返したのに誰もが時の逆行に違和感を感じていなかったから。


 アースさんは確かに惨劇を回避して未来へ進んだ。でも時を巻き戻してしまった事によって回避された惨劇もまた戻ってしまった。そして不運な事に惨劇を起こした犯人がこの遡行に対応できる人なんだ。


 胃の中身を一通りぶちまける。これ以上嘔吐したくとももう出てくるものが胃液しかない。ミラは吐瀉物を暫く見続けた後にアースを見つめる。感情が変わっている。悲しみと悔しさ、そして怒り。震える手でアースは眼球のないはらわたを抉られた母親の頬を触る。


「…冷たい」


 その言葉がより一層アースの怒りに拍車をかける。アースは蠢く感情を抱き静かに一言だけ呟いて家から出て行ってしまう。


「ごめん、トイレに行ってくる」


 それは嘘であることが分かった。分かってはいたのだが、そんなアースをミラは呼び止めることをしなかった。いいや、出来なかったのだ。逆にどう呼び止めればいいっていうのだろうか。


 自分を責めないで?

 アースさんは全然悪くない? 

 私にも気持ちが分かるから?


 その言葉一つ一つが私が放つには圧倒的に足りない言葉。今の私が言うにはあまりにも安っぽい言葉。

 

 ミラは所詮アースにとって一つの『救う対象』なのだ。友人でもないし、知人として長い間共に過ごしたわけでもない。出会って会話を交わして数える秒数は100秒あるかどうか。私はアースから見て『赤の他人』なわけであって私から掛けてあげられる言葉など、ひとつもない。


 ミラはせめてこの家族が安らかに眠れるように祈る。そうして静寂に包まれてから静かな呼吸音が聞こえる。ミラは犯人がまだこの家にいるのかもしれないと身構えて家の中を見渡す。


 だがすぐにその呼吸音が片方の眼球がない娘のものだと分かる。ミラは父親の身体を押して必死にどかそうとする。だが血で滑り、退けることが出来ない。女一人の力では成人男性の死体すらどかすことが出来ないのだ。


 でもこのままじゃ少女の命が危ない。折角助かる筈の命が助からなかったら元も子もないだろう。ミラはこの時アースを呼べばよかったのだが生きている者がいるという事態に心臓の鼓動が早まり、まともな思考が出来なかった。そして外のアースの叫びが聞こえない程夢中になっていた。


 ミラは震える手で壁に立てかけてあった熊手を手に取り、父親の身体に突き刺す。


「…ごめんなさい…ごめんなさい………!ごめんなさい…!ごめんなさい…!!」


 ミラは泣きながら力いっぱいに熊手を引くと少しずつ体がズレる。だが熊手が父親の肉を引き裂いてミラは腰を突く。今度は目を瞑り「ごめんなさい」と謝りながら父親の身体に熊手を強く、深く突き刺して引っ張る。そうやってようやく父親の身体を退かすことに成功した。


 娘の身体を確認すると父親が庇ったお陰か腹部がそれほど深くダメージを受けていない。ミラは少女を背負い、レンガの家を扉を蹴って開けると同時に叫ぶ。


「アースさん!まだ生きています!」と。絶望に打ちひしがれていたアースにとってそれが私から言える最善の言葉だと。それが救う者に対して最もうれしい言葉であると。


 だが目の前には死神が持つような大鎌を携えた甲冑を着た人型と褐色肌の青年が銃を向けてアースの目の前に立っている。そのアースが足を撃たれている。青年が厭らしい笑みを浮かべるとミラも血の気が引く。このままじゃみんな殺されてバッドエンド直行だと。

 

 だがアースは立ち上がる。「無駄なんかじゃあなかった」と。


 その言葉を聞いて目を見れば分かる。アースは今、救うために立ち上がるのだと。


「ミラさん!少女を事務所へ!!」


 アースのその言葉を聞いてミラは全速力で事務所のある方向へ走り始める。怪物もミラを追い掛けようとするがアースがそれを阻止する。ミラは始まった戦闘に振り替えることなくただ走り続ける。


 もともと少ないスタミナで体を酷使して路地裏を駆け抜ける。その方が怪物が追って来辛いと思ったからだ。だがその選択は吉か凶か、人とぶつかる。それはよく知っている男。私を拉致した大男。


 ミラは急いでリターンして戻ろうとしたところに壁を突き破り怪物は現れる。手に大鎌を持ってはいなかったが壁を破壊するほどのパワーで攻撃されたらひとたまりもない。折角与えられたチャンスを無駄にしてしまったと嘆く前に大男は声を荒げる。


「行けェ!追われてんだろ!!」


 大男はミラの肩を掴んで手前に引き寄せてそう言った。ミラはありがとうも言わずに息を切らしながらその場から立ち去った。大男は再びミラを追い掛けようとする怪物の肩を掴み、その場にとどめる。怪物は振りほどこうと大男の腹に拳を入れるが大男は怯まずに笑う。


「お前からよォ…手ェ…出したんだぜ」


 大男は同じく怪物の腹に全力で拳を叩き込む。怪物の腹部の甲冑は壊れ、怪物は血を吐く。


「来い怪物!力の差を思い知らせてやるぜェ!!」


 


  

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