第二章 52 卑しく、卑しく、生に諂う
今思えば1章と二章に分ける必要がなかったのではないかなと、思いました。
高ぶる怒りを爆発させて青年に向かって飛びかかる。だが青年が放った銃弾によってアースは無様に地面に転ぶ。何発も放った訳じゃない。一発太腿を貫いただけだ。以前のアースならどうとでもなかったこの怪我がアースをその地に拘束させる。
俺が知っている感覚とは遠く離れていた。その銃撃は全身に電撃を走らせて体中の温度が一気に奪われた感覚が襲う。そして鋭い痛みが落雷のように全身を感電させていった。文字通り感電したアースは太腿から溢れる血にどうすることも出来ずに傷口を見つめている。
「激昂してたんだろ?まさか痛みに動くことが出来ないかぁー?」
多分痛みにも屈せず怒りに任せ立ち上がることはできる。今も傷口が燃えるように熱い。だが、今までの俺ならばこの熱と同時に痛みは感じることはなかった。熱こそが力に変えられるエネルギーだった。今はただ立ち上がるのに足枷となる邪魔な痛覚としか感じられない。
傷が治らないのだ。ただ、それが恐ろしかった。
『あのアンタが…どうでもいいような事に首を突っ込んで結局何も出来なくて、その癖無駄な正義感を振り翳して…違うのよ?私が笑いたいのはその正義感じゃなくて『自分で解決できる』と勘違いしているあなたが!滑稽で面白いの!』
エリーの言葉が痛い程理解できる。俺は俺が万能だと思っていた。生への執着さえあれば体は無限に回復を重ね痛みを感じることもなく、深淵化に身を投じれる。そう思っていた。
心のどこかで俺は不死身なんじゃないかと思っていた。深淵化さえあればアースはいくらでも傷をつけて前線に立つことが出来るから。そして銃が然程脅威ではなくなるから。
「黙ってないでなんとか言えよアース」
戻ったところで何も変わらない。そのうえ事態も深刻化してしまうならいっそ時なんか戻さなければよかった。家族も助からないのに、ただ運命をぐちゃぐちゃにしてしまった。
「アースさん!まだ生きています!!」
ミラが窶れた顔の少女を背負って家から出てくる。そしてこちらの状況を目視するとミラ自身も血の気が引いていた。そこには大鎌持った怪物2人と銃を構える青年がアースを見下ろしているのだから。青年はミラの存在を理解したところで厭らしい笑みを浮かべた。散々自分に恥をかかせたアースに復讐でもしてやろうと考えているのだろう。下劣な男のやることだ。行動が容易に理解できる。
絶望に包まれた状況でアースは何を思ったのか立ち上がる。青年は再び銃弾を同じ傷口に撃ち込むが今度は怯むことなく立ち続けた。
「無駄なんかじゃあなかった。」
「は?」
それだけでいい。たった一人、救われなかった4人の未来の内、一人助かっただけでも俺はこの世界に感謝する。以前激痛が熱量に変わることもないし傷口が塞がっていくこともない。だが、心は一転した!
「ミラさん!少女を事務所へ!!」
ミラはすぐに正気を取り戻し、この場から離れていく。
「影!行かせるな!!四股を裂いて苦痛を味合わせてやれ!」
そう青年が叫ぶと怪物の一人がミラを追いかけ走り出す。アースはそれを阻止しようと全力で怪物の脇腹に蹴りを入れてレンガの家の中へ吹っ飛ばす。
「供養しろバケモン!!テメー等が殺した家族全員になァーー!!」
そして大鎌を振るったもう一人の怪物の腹を拳で突いて吹っ飛ばす。そのアースに青年は銃弾をすべて放つ。アースにはその激痛があまりにも下らないものだと思った。アースは逃げ出す青年の腕を掴み、引っ張る。それで宙に浮いた青年の足に蹴りを入れて関節を逆方向へ曲げる。アースは青年を逃走できぬ状態にした。
青年の激痛の叫びが静寂に轟くとレンガの家の怪物が大鎌を捨てて懲りずにミラの元へ向かおうとする。アースはその怪物に飛び掛かる。怪物は抵抗するが両者のパワーは拮抗していて怪物もアースを剥がすことが出来なかった。
そこにもう一人の怪物が大鎌をアースへ向かって投げる。アースはいったん怪物から離れ大鎌を避けると怪物は急に鉄仮面を脱ぐ。そして回転して投げられた大鎌は怪物の首を刎ねた。
アースはしまったと思うがもう遅い。アースが笛を処理しようとする前に汚い音色は世界に轟く。片方の怪物は消えて今度は甲冑を脱いだバケモノが角を生やした3mの半人半牛みたいな形態で汚い声で叫ぶ。
「ははは!いいぞ!殺せ!全員だ!!」
「させるかバケモン!!」
強化前の怪物はミラを追いかける為にその場から離脱する。アースはそれを阻止しようと追いかけるが牛怪物に行く手を阻まれ、巨大な拳を振るってくる。アースはその拳を両腕で受け止める。
「こ、このパワーはッ!!!」
異様な力だった。アース程の剛腕をも上回る、それはまさに鉄球と表現するのが相応しい。アースはそのまま一軒家に吹き飛ばされて木片が肩を貫く。
呻き声を上げながらも懸命に抗おうとする。続けて繰り出される牛の拳を避けつつ青年の元へ向かおうとするが全く隙が無い。今一息でもついた瞬間には半身とさよならすることになる。呼吸もままならず、高速で行う牛の攻撃にやがて対応できなくなってしまう。その追いつめられる姿に青年も牛も汚い笑みを浮かべていた。
「…そうか怪物は主の感情をリンクするんだな下種な心がよく見える」
「言ってろアース!!」
アースが距離を取ろうとした瞬間その行動は予測されてしまう。右腕と左脚を掴まれて剛腕で引っ張られる。凄まじい腕力に為す術もなく引き千切られてしまう。アースが叫ぶ発狂の音色は歌となってこの地に焼け付く。牛の怪物はそれがどうやら心地よいようで嬉しそうな表情を浮かべておぞましい笑い声でアースに向けて拳を振り下ろす。
「おらァ!!!」
アースは体を転がして牛の拳は地面にめり込む。そして地面から拳を抜く前にアースは左腕で大鎌を大きく振って牛の胸を貫く。牛は羊のような鳴き声を上げて痛みを表現する。アースはその隙に木片を足の断面
に突き刺し、簡易的な義足をつくる。
牛は冷静さを失って大鎌を抜こうとするが続けてアースは怪物の左足に噛み付き、肉を食いちぎる。牛はそのアースを蹴り飛ばして腹に風穴を開ける。そして大鎌も引き抜いてアースへ向けて投げると綺麗にアースの右脚は切断された。
青年も牛も流石に殺しきったと確信していた。だが二人の視線の先には体中木片が刺さって腹に風穴も空いて左腕以外すべて欠損しているのに…体を引きずりながら左腕の腕力だけで匍匐前進を行い、こちらを睨み続けている。その姿に牛の怪物は逸脱した行動を取ろうとしていた。青年の笛に抗い、逃走しようと考えていた。
青年も同じく逃げようと考えていた。間違いなく勝利が確実であろう有利さとは思えない程、嫌な予感がする。青年にはあれが人には見えず、何かの執念に憑りつかれた呪い人形のように感じた。
「こ、殺せ!とどめを刺せ!」
青年がそう叫ぶと牛は自らを奮い立たせるように叫び、両腕を天に翳して拳を振り下ろした。
だが、その拳でアースを殺すことは出来なかった。牛の拳は突如内側から爆発して腕がつぶれる。そして続けて頭に上る形で徐々に体も飛散する。誰もが口を開き、驚きを隠せない状況で地を這うアースの目の前に湾曲した腕を持つ、男が突如現れた。
「シモス…!?」
その男は敵か味方か…!?って煽りを入れたいです。




