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キルライフ  作者: 沼郎
第1章 yの世界へようこそ
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第一章 5 目的の為に 


 目を開けるとファンが回っており、若干外より寒くなっている。どちらかというと春に近い気候だがなにか理由があってまわしているのだろう。いや、そんな事はどうでもいい。今、痛みがないのは麻酔のお陰かは分からないが俺は重症だった筈だ…死んだと思っていたが死なずに済んでよかった。


 アースは起き上がり、首を触ると其処に傷がない事が分かる。アースは慌ててミーナの手からリモコンを奪い、テレビの電源を切って自分の姿を確認する。見えにくいにしてもあれだけ噛まれたのだから目立つ筈だ。しかし傷らしきものは一切ない。それに腕だってくっついている…。唖然とするアースにミーナはテレビを勝手に消された事に怒っている。


「ちょっとー!消さないでよー!」


「一体どうなってんだ…?」


 ミーナはアースから無理矢理テレビのリモコンを奪い取り、テレビを付ける。同時に奥の扉から青年が手に紙を数枚持って出てくる。


「おまたせしました。」


 アースはこの光景に「何か」が起こって時が戻ったものだと理解する。ふと無残な四人家族の光景を思い浮かべると胸が締め付けられ、地図も持たずに過ちを繰り返し事務所を飛び出す。青年の呼び声が響くが、アースには届かず姿はもう見えなくなっていた。


 覚えている限りの道を息を切らしながら辿るが、中々記憶の裏路地にはたどり着く事が出来ず、よくよく考えれば事務所の人間に協力を要請すれば良かったと悔いている所に声をかけられる。


「バレたね」


 突然の声に少し吃驚して声がした方に顔を向けると金色の髪を靡かせたあの酒飲みを吹っ飛ばした少女だった。『バレた』とは?アースがその疑問をぶつける前に少女が不敵に笑い言葉を吐く。


「……空白がいるのね。…それよりそんな簡単に死ぬような人間じゃないでしょアンタ。戦い方すら忘れたの?その癖に仲間も連れないとか…知能指数まで落ちたの?アンタがそんな簡単に死んじゃうからアンタの存在がバレちゃってアタシが迷惑を被ってるんだよ?理解してる?」


 ボロクソに文句を言われるが半分以上言っている意味が分からない。この少女は俺の何を知っている?何に俺の存在が誰に察知される?それにコイツ…なんで笑いながらそんな事を言っている?


「随分…面白そうに言うんだな」


「面白いから笑っているに決まっているじゃない。だって、あのアンタが…どうでもいいような事に首を突っ込んで結局何も出来なくて、その癖無駄な正義感を振り翳して…違うのよ?私が笑いたいのはその正義感じゃなくて『自分で解決できる』と勘違いしているアンタが滑稽で面白いの」


 笑いを押さえきれなくなったのか、少女は腹を抱えて大声で笑う。悔しいが彼女は極々正しい事を言っている。正直正義感に駆られ飛び出したはいいものの結局何処へ行けば何をすれば皆を救えるか…なんて一切考えてすらいなかった。感情に任せこの手でもう一度殺してやろうと考えただけだ。実際には素手で殺す事も出来ないのに。


「で?どうするわけ?あの事務所へ戻るの?」


「俺は何も出来ないクズだ。それを今、君の言葉で再確認した。でも救わなきゃ胸糞悪い。君は俺の事を少なからず知っているんだろう。頼む…助けて欲しいんだ…この状況を打破できるのは君しかいないんだ」


 アースは深々と頭を下げ、震えた声で頭を下げる。情けない。大の大人が力を持っている少女に頼るしかないこの状況に自らを失望する。俺にもっと力があれば。


 その行動に少女は少し驚いた顔をして数秒経ってからアースの手を掴んで路地に入り、照れくさそうに喋る。


「アンタって人を頼ることが出来るんだね。まあアンタに頼られるのも悪くないし。いいよ。それと君じゃなくて人に頼るんだから最低限名前でエリーって呼んでよ。約束して。」


 アースは再び頭を下げて感謝の言葉を口にする。


「約束する。ありがとう、本当にありがとう…エリー。住宅街の住民を避難させる事は出来るか?」


「まぁ、あの家族以外あの住宅街には人はいないから避難させる必要はないわよ?」


「は?だってあんなに家があってなんで…」


「正確にはまず中央王都の中心街に永住している人間は殆どいないわ。住んでても端の方。あの住宅街はまあ要するに一時的に貸してる家で観光とか格闘場とかのイベントとかにあそこに止まって連日観戦したりする為の住宅街。基本的には予約が取れにくいから数週間前から予約して荷物とか置いて近々行われる闘技大会に備えてるだけよ。あの住宅街は夜なら人はいるかもしれないけど昼なんている方が珍しいわよ?大体観光に行っているだろうし…」


「なんか、俺の知っている常識と違くて少し混乱した…それで…?」


「…それにさ、アンタが存在を晒した事によってあいつらは真っ先にアンタを殺しに来る筈。あいつらは元々目立って行動するのを嫌うけど。だから事件が多少なりあって人が溢れている中央王都のなかでも、人が少ない住宅街で何か目的を果たそうとしてたんだと思う。私の予想はね?」


「あいつらって誰なんだ?あの影から出る化け物とか褐色肌の男か?」


「そうよ。アンタが言ってるのは所詮下っ端でしょうけど」


「しかし、俺を始末しに来るなら丁度いい。なにか誘き出す方法はないかな」


「方法はいくつもあるけどどの方法も私が嫌がるものとアンタが嫌がるものばかりね…まあ手っ取り早い方法なら一つあるわよ?ただ、アンタは少し苦労するかもしれないけど…死ぬことね」


 アースは大きな溜め息を吐き、口内の唾液を呑み込むと顔を引き攣らせ、冗談交えに笑いながら言う。


「俺がか?」


「そうよ」


「本当に救えるんだな…?」


「そうよ、別に終わるってわけじゃないから安心してよ。アタシが全てを調整してあげるから。アンタは頑張って元凶を殺すことね」


「じゃあ…頼む。」


 エリーは笑いもせず真剣な表情で頷き、何処からだしたのか分からないボロボロの歪な銃を脳天に向け、引き金を引く。銃声と共に血が空中を舞い、意識を途切らせた。













「……………おかえり、アース」


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