第二章 34 本質と回廊
会話多め
一同がアースの発言にクエスチョンマークを浮かべる。そんな中、ミーナが頭を掻きながら静かに問う。
「もしかして、この話もステラから聞いてたのー?」
「いいや」とアースはすぐに否定する。あまりステラの信用度を下げるわけにもいかないから、ステラから聞いたという言い訳は使いたくない。その否定に更に理解不能だと一同の心の声が聞こえる。
「察しました。そういう事なんじゃないだろうかと思いまして。」
「察した?」
「表向きは亜人拉致組織の特定、調査。しかし本来はなにかもっと重要な別件があるのだろうと思う要因が複数ありました。人員が回せないのはそれだけ不確定で秘密裏に動かなければならないから。ほぼ初対面の俺に頼ろうとするほどの人員の不足さ。そしてパーライドは他国から煙たがられている事実。亜人拉致だけなら東の王都だけでも人は集められる。それができないのは公にできぬ事だから。大抵は想像つきます」
ギレオは「ほう」と言い、感心する。
「そこまで理解力があるのなら前置きは置いといてサクサク話を進めましょうか。ミーナが馬車の中で女王様を亜人拉致組織から守るためだと説明しましたでしょう。」
「はい、もし作戦が既に外部の人間に漏れてたための保険でそういう嘘を吐いたんだと。俺たちの話を盗み聞きしているのなら間違いなく女王は亜人だと思うし女王は影武者となっている可能性もある。これはステラから聞いた話ですがフィストレア様は静かに暗殺されたそうで…同じ手法で殺されるならば事を大きくせず亜人のメイド、雇い人だけを殺すのでしょう。」
「そこまで分かってるのなら話が早い。女王様の顔はバレていない。前回の犯人は処刑済み。今回襲いに来るのは全くの情報皆無の状態。だからこそ少しでも情報が欲しいはず、そこで聞かれてしまっていた場合の為の保険を張っていたというわけです。」
そうなのだ。一見慎重に見えて予測すらしなかった犯人像。俺は未来を知っているから言えるが…女王は暗説でなんか殺されなかった。皆殺しにされたんだ。ミーナもギレオさんも女王もメイド全員…殺された。
そこに畳みかけるように来るボルボロスとステンレス。そして最終問題の亜人拉致組織が取る…最後の行動…亜人達の解体。『それは暗殺者である限定の話ですがね。』と切り出さなければ。でもまだ今言うべきじゃない。
「なるほど、一つ質問いいですか」
「どうぞ」
「なぜ女王が殺されると分かったのですか」
執事は黒いケースから小さな睡蓮を取り出して皿ごとテーブルに置く。
「このスイゲツオオスイレンは名前の通り月の影に向かってこの種が多く集まる植物です。この植物自体は古くから存在していたのですが、最近ある書物によって『特殊な効果』がある事を我々だけが知りました。」
「なるほど未来予知ですか」
「ええ、その通りです。」
そう言うと執事は睡蓮に指先を触れる。すると睡蓮は青く妖しく光り出す。
「ふむ、アース殿は素直の様ですな。これっぽっちも私を疑ってなどいない。」
「色で判断するわけですね」
「人間だからこその『感情』を察知するのです…この睡蓮が表す色は感情の方向。」
「……空気中のマナと人間内のマナを介して感情を映しているのですか」
「その通りでございます。上手くその睡蓮は触れた人間内のマナと空気中のマナを連動させ、触れた人間に対する感情をその睡蓮に映し出す事が出来るのです。負の感情が主にですが。」
ここでアースはギレオに対してオールディへの殺意の量を向ける。すると水連は淡い赤色に変わる。アストレアは小さく悲鳴を上げ、ミーナはアースと距離を取る。変わったのを確認するとアースはすぐに殺意を消す。ギレオとオールディを重ねるだけでこれほどまでに殺意を抱けるとは。
「どうやら本当らしいですね」
「ははは、一時的に殺意を向けたのですか。…まあこの通り、疑惑や不信がある程度含まれているならば黄色に変わります。それが重くなるにつれ、敵意などハッキリした負の感情が抱かれている時は赤く染まる。この敵意の強さが強まるほど赤色は黒く変わっていく……女王アストレアはこれを触った時真っ黒の睡蓮にかわりました。瞬間的な殺意でさえ淡い赤色で済むのに真っ黒とまでなると最早襲いに来るという部分には疑う余地はないでしょう。」
「それと、今回ミーナ殿を呼んだ理由としてはこの睡蓮が切っ掛けとなりました。睡蓮は1分間触れ続けると色が変わる。これは次の日の向けられる感情の色だそうで最大2日後まで見る事ができるのです。昨日女王が触れた睡蓮は今日まで黒く、明日は黒から白へ変わりました。白というのは肉体の死を表すものらしく、それで日にちを特定する事が出来ました。」
「ほう。大体一連聞いてある程度話の内容はつかめてきました。ですが…これが女王の暗殺で留まるのでしょうか。個人的なものとかも」
「というと暗殺ではなく私怨による強襲だという事ですか?」
「多くの場合、暗殺は基本的に命令する者がおり、其れに従い実行するのです。そんな殺害に多少殺意はあれど俺の殺意を超えるほどの量は抱く筈がない。そして膨れ上がった殺意がそんなに持つ筈もなく、いつかは解放の瞬間が来る。それが明日というだけであるのでは。そしてそれが人一人とは限らない。試しようがないから仕方がないが女王に対して複数の小さな殺意が集まった場合はどうなるのです?」
「…なるほど、盲点でした。暗黒色は小さな殺意の総量かもしれません。もしそうならば暗殺ではなく我々を皆殺しにするために大勢で襲いに来るのも納得できる。早い話国を獲ろうとするならその方が手っ取り早い。」
「そう、想定は最悪である方がいい。最悪を知っておくとそれなりに対応はできるから、それで今回戦闘可能な人間はどのくらいいますか?」
「私とミーナ殿とステラ、ネムの4人です。」
「俺も戦えるので5人ですね。この屋敷全体を守ろうとすればそれだけバラけてしまうことになる。侵入を防ぐことに力を入れるのではなく、防御に徹しましょう。守備範囲を減らし、女王を匿い、言ってしまえば襲ってくる者すべて殺せば防衛成功だ。」
アースとギレオが二人でどんどん話を進めていくとミーナからストップが入る。
「ちょっとちょっと、勝手に話進めてるけどー。最初の作戦を変えるという事ー?」
「まあ、そうなるな。」
「そうなりますな。」
「確かに屋敷全部を守るってよりは安全性が高いかもしれないけど屋敷に暗殺者を入れることは次があるならばかなり不味いんじゃないのー?チンピラ程度に引けを取る面子でもないし、私も慎重になったからこそ今回助っ人に来たんだよ?もし屋敷の中を把握されてしまったら次襲いに来られたら大変だよ。」
「それもそうだ。アリの巣から出る蟻を潰すだけでは確かに解決はしない。大元を叩かねばならない。でもそれは今じゃない。それに雑魚が襲ってくるって決まったわけでもない。」
「ミーナ殿、アース殿、そこの所も含めて一度区切り、全メイドも含めて作戦の本質は午後話しましょうか。馬車に揺られて二人とも疲れているでしょうし、風呂に入る場合は近くのメイドにお声掛けください。」
「そうですね、最悪の場合女王を連れて逃げる城下町の逃走経路を確認しておきます。一度12時に用事があるので11時半ごろ出掛けますが、そのあとに屋敷内も確認してギレオさんが皆さんを招集後、詳しい作戦をお伝えします」
「はーい」
「ええ、分かりました」
「そうですね!おなかも減りましたし!!」
12時に用事があるが昼食を食す為ではないんだぞアストレア。皆も女王が元気よくそういうので会議はここで終わった。




