第二章 33 運命からの女王殺害予告を覆す
ステラはサバ定食を頼み、アースは「今はいい」と言うと大体察しがついていたステラは「奢ってあげるから何か頼みなさいな」と言うのでアースは「ありがとう」と言い、同じものを頼んだ。
「昼のうちにミラを助けましょう」
料理が届いて店員さんがいなくなると開口一番そう言い放つ。冷静沈着という言葉が似合うステラには考えられない程焦っているのがわかる。一見冷静に見えるがさっきだってステラには俺がミラを知らないって分かってるはずなのに安否を聞くしなかなかこれからの行動を素直に聞いてくれるか不安だが何とか説得はしなければならない。
「ステラ、お前の気持ちはとてもわかる。俺も味方がそうなっていたら身を挺して真っ先に飛び込むだろう。」
「まるでその言い方じゃミラの救出が後回しにされるみたいな切り出し方ね」
「悪いがその通りだ。」
「お断りよ。何があっても先に助けに行くわ。私一人でもね」
「『ジョニーを呼びに行ってくれ』。焦ってあの時はお前にとって行動しようがない言葉を言ったよな。まあジョニーっていうのは俺の味方で、現在亜人拉致の一員に加わってる、いうならスパイだ。もしお前が亜人達がひどい目に合わせられてるのではないかと心配しているならその必要はない。ミラを含め他の亜人達も手枷などはつけられてはいなかった。服も皆拉致された状態のままな感じだった。まあ、安全は保証する。」
「でも、戦いを仕掛けるのに先に亜人達を逃がさないと巻き込まれちゃうじゃない」
「…ああ、ごめんごめん。言葉が足りなかった。ステラはこの亜人拉致組織が今回の女王に危害を加える奴らだと思っているようだが…」
「…違うの?」
「べつもんだ。なんなら祖の神だって2人襲いにくるしな。」
「…その言い方じゃ祖の神が犯人って訳でもないのね」
「その通り、順番的には何者かが明日の午前のうちに屋敷を襲い、午後、ボルボロスとステンレスが襲いに来る。亜人拉致の組織はボルボロスが襲いに来るのに反応して応戦しようとする。前回はこんな感じの流れだ。」
思ったよりも深刻な状況にステラは頭を抱える。
「二人も…」
「ああ、今回は既にステンレスと戦闘して先に殺してある。最も最悪な想定が、オールディの協力者がステンレスだった場合だ。これは割と有り得る想定で前回はステンレスが襲ってこなかったのに対し今回襲ってきたのは外世界から来た祖の神という記憶を保持している事が約束された人物だからだ。もし今朝襲ったのがオールディからの指令だったのなら今回の人生では最早手に負えない。来世に期待だな。」
「ステンレスを殺した!?……まあステンレスっていうのがどの位強いのかは知らないけど…一応祖の神に分類されるくらいなんだからそれなりに強い……のよね?」
「本人の身体能力は然程高くはないが能力がオールディ並みに厄介だったな。」
「…心強いわね。…って事はより優先すべきなのは亜人拉致組織じゃあないの?」
「それより優先すべき事項はジョニーに出会うことだよ。その方が手っ取り早い。もし何事もないならジョニーは前回同様の行動をする。場合によっては亜人拉致対策を優先するが基本は屋敷だ。」
「わかったわ。それでジョニーさんは何時このレストランに来るのかしら?そのためにここを選んだんでしょう?」
アースはしまったという顔をする。察しのいいステラはため息を吐く。
「ここじゃないのね」
「ごめん、平和食堂に確定で入る。でもその時間は12時くらいだからかなり時間あるぞ」
「四時間弱もあるじゃない。一度屋敷に行きましょうか」
「まあ、その方がいいな。治療もあまり長すぎると変に疑われる。せめて屋敷関係者にも俺の記憶を保持している人がいればいいけど」
「そうね、今度は幸運を祈っておきましょう。サバも冷えちゃったわね。」
「話に夢中だったからな。いただきます」
「ええ、いただきます」
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二人で屋敷前までくるとミーナが二人に気付いて妙に気持ち悪い笑みを浮かべ始める。
「あ、アース。あ~イチャイチャもそのへんでねえー?」
「うふふ、ご冗談を」
「……ぉぃ」
ミーナのからかいにステラは笑顔でそう答える。顔こそ笑っちゃいるが冷酷な目をしている。この手の面倒臭い絡み方はステラにはダメなやつだ。後でイライラの総量が俺に返ってくる。ここで女王レアが抱きついてくるのだが今の言葉で俺はお前に慈悲をやらんことにした。不可避の運命を受け入れるがいい。
運命通り扉は乱暴に開かれて女王が空中に舞う。ミーナはそれを避けてステラが女王を抱える。そして改めてミーナに抱き着く。
「ミーナちゃあああああああん!!!!」
なるほど、亜人だから人間の俺が聞こえた足音がさらに精密に女王の物だと分析出来て予め避けることができたのか。クソ。いや、恩人に俺はなんてことを考えてるんだ…クソはだめだクソは。チクショウ、だな。
女王は改めてミーナ含む客人に上層階級流のお辞儀をして屋敷の中に入るとまた無邪気な女の子に戻りミーナと腕を組みながら楽しそうに話す。前回守れなかった笑顔を今回は守ろう。奥の方からメーリアが現れて4人を部屋に案内を始める。ステラはアース等に別れを告げ、残った3人は運命通り二階の応接室に入る。召使いは扉の前に立って、部屋で待っていたギレオが笑顔で会釈をして口を開く。
「よろしくお願い致しますミーナ殿…アース殿…お疲れでしょう、どうぞお掛けになってください」
全員が座った所で女王は真剣な表情に変え、同じくギレオも真剣な表情になる。次にミーナが軽く溜め息を吐いて重い一言を放つのだ。
『明日に女王アストレアは殺されるの』だと。
「明日に女王アストレアは殺されるの」
アースもまた、この言葉を再度聞いて瞳を閉じて覚悟を決める。これから起こる全ての災厄に対して、立ち向かうのだと。そして瞼を開いて女王を見つめる。そのアースの表情にアストレアは目を逸らしてしまう。唯一俺の返答を待ち見続けたギレオの瞳に鬼の顔が映っているのがわかる。
――――――奮起になっているんだ。
それだけ、俺は人生を賭けている。この世界に来て、何もわからずに記憶と状況に翻弄されここまで来た。達成すべき目標を何度も確認して運命に抗って…俺は、俺はこの惨状を覆す為にこの世界に来た気がするんだ。だから、
「もう、誰も、泣かない為に俺が来た。」




