第二章 32 イレギュラーガール
誤字脱字あるかも
ステラは敢えて部屋の外へ声が漏れるように大声で「アース!どこで怪我したの!?」と言う。アースもわざとらしく会話を続ける。
「変な二人組が亜人に声をかけてたんだ。なんだか変だったから首を突っ込んだらしてやられたんだよ。なんとか亜人は守れたけど東の方に二人組は逃してしまったんだ。それで東って単語になにか引っかかって考え込んでいたら軽い記憶喪失も治っちまったよ」
「また変なことに首を突っ込んで厄介ごとを持ってくるんだから」とステラもほぼ無表情で会話に乗る。そこにミーナは帰ってきてアースをジト目でながら淡々と話を進める。
「怪しいところもあるけど、あのステラが信用するくらいだから大丈夫かなー。それに今は只でさえこっちに人員が回せないから人は欲しかったんだよね。なにせ君が怪我してなければ誘ってたし。」
あ、怪我してたから気を使って誘わなかったのか。人員が足りないってのも…昔からのよしみミーナが私用で危険予知の為に動くのだから確かに中央王都の人間は動かせないよな。俺の亜人拉致を素直に受け止めているあたり、おそらくシャワー中会話してたのも「ちょっと私用で東の王都いくわー」じゃなくて「亜人拉致関連で調査しにいくわー」的なことだろう。その方が自然だ。
そう考えるとストレートに俺もなにか協力したいでよかったんじゃないだろうか。無駄に頭を掻き回し勝手に混乱して大失態を披露してしまった。我ながら恥ずかしい。
馬車が来る前にアースは団員達に「お世話になりました」と敬語で伝えた。不思議とそこで使った敬語は不快感もなかった。今思えば死ぬ度にこの苦痛が減っていったような気がする。
外へ出ると太陽が結構な位置まで昇り切っていた。ステンレスと戦っていた時にはもう日が昇っていたのだろうが全然気づかなかった。前回部分とステラがいる点で違いがあれどスタートラインに立つことが叶った。
リレスは3人を馬車の中へ案内し、御者台に上って馬車を走らせた。体感だが丘まで約20分、そして丘から東の王都まで通常道を1時間、泥濘道を1時間…ここが地獄かもしれない。走り出してから少しするとミーナは作戦についての話を始めようとする。本来ならリレスが部外者だからと止めるべきなのだが、改めてミーナの事を考えると部外者に御者を指名する筈がない訳だから止める必要もないだろう。
ミーナが語ったのは亜人拉致組織をどうこうしようって訳じゃなく、本来の目的は女王の護衛だということ。その作戦については彼方についてから話すということ。東の王都が弱者としての立場の話、女王関連の出来事、まあ其の他諸々含めて皆がいる場で話しますよ。と要約するとこんな感じの話で前回同様なにも変わらない。だが、初見を装い相槌を打つ。
ステラはアースとミーナの会話を黙って聞き続け、アースのヤケに素直な返答に何か確信したような顔をして、一つあくびをした後、会話に注目しなくなった。
それから一つ変わった所といえば丘の所から前回は歩いて向かったのに対して今回は真っ直ぐ降りずに馬車で向かっているという事だ。今思うと最後に信頼したかったから敢えて二人きりの状況を作り襲いに来るかどうかを試していたんだろうな。そうとも知らずにピュアな俺はあんな意味不明な警戒を信じ込んでしまったぜ。
王都の門をくぐり、屋敷へ向かおうとした時にステラが「先にアースの家で傷口の消毒だけいいですか?再生薬をかけて治ってきたのはいいのですが膿んでは元も子もないので」と早口に言い、ミーナは二つ返事で「いいよーまた屋敷でねー」と了承する。ステラはアースの手を引いて住宅街の奥へと入っていく。
「助かったよステラ。お前の信用のお陰であの場を乗り切れた」
そうアースが言うとステラは突如態度を変えてかなり焦った様子で問い詰めてきた。
「ミラは大丈夫なの!?」
「ああ、数十人の亜人と共に無傷だったよ。奴等の目的は亜人の何かについての利用だ。基本的に害を加える目的はないだろう。(まだ、オールディの真意は不明だが落ち着かせるにはこれが一番だ)」
ステラはそれを聞くと安堵して路地の階段にお淑やかに座り、大きなため息を吐いた。
「それよりなんで俺の所に来たんだ?かなり助かったけど」
「今回の事について沢山聞きたいことはあったからよ…それで、結局あのあとどうなったのよ?」
「オールディか?」
「そう。」
「あの後まあ捕まったけどなんとかオールディだけ殺した。あの戦いが初の対人戦だったし、色々躊躇うんだろうなとは思っていたけど何一つ抵抗する感情は芽生えなかったよ。俺には人を殺せる心があるのかもね。んで、ステラはジョニー探しに行って結局帰ってこなかったな」
「…屋敷に入る途中でテア…メイドの一人の顔を携えていた女がいたの。咄嗟の事で判断力を失っていたけれど助けを求めれば良かったのだけれど、逃げた女の跡を追い掛けたら返り討ちにされたわ。よく考えればただ私を町から引き離して楽に殺そうとしていただけだったのね。…その…悪かったと思ってる…」
「別にいいよ。味方がそういう惨状だったなら俺だって正気を失って無我夢中でそいつを追いかける。それよりステラ、お前が聞きたいのは俺が時を戻せるかどうかの事だろ?」
「ええ。あなたしかいないと思った。こんな都合のいいタイミングで都合のいい時間まで巻き戻してくれるなんて。感情の昂ぶりと共に能力は想いと記憶が重なり生み出されると聞いたわ、貴方は過去へ戻りたいと強く願ったの?初発動よね?」
残念だが、これは俺の能力じゃない。と言いたいところだが…その神はそもそもステラの信用を得られない可能性がある。だからここは嘘を吐く。俺の能力だという部分と回数だけ。
「俺の能力だがかなり制限がきつい。この能力は巻き戻す時間を指定できないってのと俺の意思では発動しないってのと最大3回まで使えないってことだ。おそらく死がトリガーとなっている可能性もある、既に死んだからもう2回しかないが。」
「まって。それで気になるのだけど。何故私だけ記憶を維持しているの?あなたが意図的にってことは絶対にないと思うの」
「一部抵抗のある人物もいるんじゃないか?なにせ初発動だから詳しいことはまだわからない。例えば能力のない人間には通じないとか、体の構造上とか。ま、なんにせよ今回でケリを付けなければならない。」
「そうね。私から出来ることはテアを含め屋敷関係者を外出させないことかしら。あなたもオールディの偽手紙に騙されないことね」
「それに関しては大丈夫だ。それよりここではなんだ、これからの作戦について落ち着ける場所で話そう。」
「…そうね」
ステラとアースは路地を抜け、繁華街の適当なレストランに入り、個室を選んだ。




