第二章 31 嘘
短いですが
20分しかない時間のなかで俺は汗が頬を伝うと同時にミーナの後を駆け足で追いかけ、例の部屋に入る。目をぱちくりさせるミーナを尻目にアースは東の王都へ行く理由を一つ早口で話し始める。ミーナがただ唖然としていると今度は別な言い訳を考えて嘘を交えながら話し続ける。
「実はさっき襲ってきた人間が東の王都へ向かっているから捕まえてほしい。顔を見分けるのに俺がいる」
だの、
「帰る途中で実は記憶が戻って…だから頼む東の王都出身だったから送っててほしい」
だとか。
言い訳が続く度に信憑性と話の質が落ちていく。終いには俺を襲った者がαという組織の一員で俺は亜人拉致の現場を目撃したと言い放った。それに続いて俺の話した言い訳と都合のいい嘘に並べられた言葉が彼女の耳に入るたびに呆れた顔をしていく。
「端っから君が虚言を吐いていたことはわかっていたけどね。でもそれでもまだもっとマシな人間だと思ってたよ」と冷たくアースを突き放し、続けて静かな矛盾の暴き劇が始まる。
「ね。αってね。私たちが名付けた通称の名前なの。なんで私たちが名付けた名前を…あなたが知っているわけ?」
「それは…」
ミーナが俺を睨みつけ、アースを睨み始めてから頭が真っ白になった。俺はどこで行動を間違えたのだろう。このままじゃなにも出来ずに拘束されて救うチャンスもなくなってしまう。アースは決死の覚悟で窓から飛び出そうとしたときに女性が入ってくる。
「大事なお話中すみません。ちょっとよろしいですか?」
「待ってね。ステラ、増援を呼んで?」
ステラという名前にアースは消沈しながらも顔を向ける。ステラはアースの顔を見るとため息を吐く。
「その必要はございません。彼が勝手にここに侵入して怪しまれているというのならば私から謝ります。安心してくださいアースは私の親戚です。」
「親戚?」
「ええ、先日パーライドからアラドールに行くんだと言ってから連絡が取れないと思ったらこんなところで迷惑を掛けていたのね、アース。…あら?それよりその頭の怪我はどうしたのかしら?」
アースは何もできずに黙っていたがステンレス戦でついたあの割れた頭蓋がなかなか治らなかったのが幸いした。記憶喪失も相まってこの傷は有利に進めることができる。焦ったら終わりだアース、落ち着け。
「…ステラ。あなた親戚にαの組織のこと話したの?」
「申し訳ございません。アースは人一倍正義感が強く変なことに首を突っ込んだりするので…アラドールに向かった先でチンピラ共に絡まれ変な事件に巻き込まれないように…と、もちろんαを含め、危ない組織や人物などは粗方話してしまいました。」
ステラのここはうまいところだ。αだけ教えているってのも変に怪しいからな。
アースも「おまっ…」とわざとらしく呟く。この発言のおかげで先の最も疑惑であった部分がステラから教えて貰ったことを言えなかった為にそれ以上言葉を発することができなかったという言い訳にもなる。
「…それよりアースの頭のケガは再生薬を使うよりも病院へ行って塗ってもらった方がいいのではないでしょうか?それほどの大けがですと記憶や呂律まで影響しているのでは?」
何故ここまでステラが俺について都合のいいことが言えるのかは後で聞こう。多分ステラはリセット前の記憶が残っている…と思う。
「…確かに早くアースは病院に言った方がいいかもねー。さっきも意味わかんないこと言ってたし。」
ここぞとばかりにアースは流暢に喋りだす。
「意味不明で支離滅裂に聞こえたかもしれないが真実だ。俺がシャワーを浴びていた時、ミーナは興味深い話をしていたよな?」
「…ふぅん…聞こえてたんだ」
「(聞こえてないけど)そうだ。居ても立っても居られなくなって唐突であんな事を口走ってしまった。我ながら支離滅裂な言い訳にしか聞こえなかったと思うよ。そしてアースαの件はステラを罰するんじゃなく俺に罰をくれ。」
ミーナはかなり大きくため息を吐いた。どうしたものかと悩んでいるのだろう。それはそうだ。ミーナにとってステラは屋敷に関する重要な人物である。その堅物ステラが意外にもアースと親密だというわけだ。そんなステラがアースを探しにここを訪ねたって理由も東の王都について話があったから訪ねたっていう理由も至極真っ当な理由である。無関係の俺は関係者となってしまった以上、参加させる他ないだろう。
「ちょっとまってて…」と言い残してミーナは部屋を後にする。空かさずアースはステラに色々聞こうと思ったがステラは人差し指を唇に当てて「後で」と囁いた。




