第二章 28 感染爆破と流転の塔 5
キリがいいのでここで。
[よし、このまま逃げ続けよう…]
アースは静かに頷き、歩き始めようと思った時だった。建物の下から破片が一つ、空に舞う。そしてそれは爆破し、その爆風によって建物が削られ破片は生まれる。
「野郎…連鎖爆発を意地でも起こすつもりだな…」
[どうするんだ、何か策はあるのか?]
『お前ならどうするか、教えてくれ』
[うっ…私ならやはり飛び降りる。もちろん登った所からじゃなくて別の場所から降りる…そうせざるを得ないだろ…]
『じゃあ留まるぜ俺は』
アースは右手首の骨を折り、動けなくさせる。そしてその場でしゃがみ、頭を抱えて建物の突起に寄り掛かる。
[私が動くべきルートとは違う行動をあえてしているのか!?極端すぎる!ただでさえ全身傷だらけなんだぞ!!どうせ探知されるなら…まだ傷を抑えた状態でほかの道を歩く方がずっと利口だ!立て!走ればまだ間に合う!!]
『俺もそうするしかないのだろうと思ったが…しかしこう、視点を変えれば案外こういう行動も悪くないもんだ。一々冷静になれる。今まで俺たち考えもつかなかったろ…右手をぶった切るってことしか頭になくてさ』
[そんなことを言ってる場合じゃないだろ!!ああ!だめだ!もう逃げられない!!]
連鎖爆発はちょうどアースを巻き込んで血液交じりに肉片を飛ばしながら広がっていく。左眼に瓦礫が入って失明してもなお、アースは目を見開いて爆発の様子を凝視していた。頭が割れて血液が右目を赤く染め上げる。一瞬の爆発が通り過ぎた程度ではあったが…それでもアースの体にダメージを刻み込むのには十分な時間だった。
[死ななければいいってもんじゃないからな。お前はたった今、あいつと殴り合いをして勝つという選択肢が消えたんだ。お前…左手もほぼほぼ抉れているじゃないか…背中も肉が露出し…頬も歯茎が見えている…]
『…』
[もう、多分…逃げられないぞ…]
『次に奴は探知する。間違いなく。』
[ああ、その通りだ。そうしてお前は見つかる。]
『探知の性能はどれくらいいいんだろうかな。でもまあよかった。運がいい、右手を切らなかったお陰でその分の血を失わなくて。運がよかった、この爆風にすら俺の体は耐えてくれて。』
[…やはりお前に祖の神を相手にすることは…できなかったんだ。私の判断ミスだ。最初から逃げればよかった。お前の強靭さを錯覚していた。お前は能力を持っているわけでも武術を習得しているわけでもエネルギーを扱うこともマナを使うことすら出来ない。一般人にさせるべき重荷ではなかった。お前はアースではなくてアースなんだから…]
『そう、卑屈になるな。俺はまだ、生きている。生き延びる。もう、バッドエンドはいらないからな。』
アースの宣言通り世界はグラつき、世界に音が轟く。探知は始まる。だが、すぐに奴は攻撃してこなかった。アースの場所を知っていれば間違いなく瓦礫を投げて再び連鎖爆発を行うはずなのに。奴はそれをせずにいる。
[なぜ…死亡確認にも攻撃もしてこないんだ…?]
『もう数秒後に答えは分かるぜ』
そうアースが告げてから数秒後に再び世界は揺れ始め、音爆発が発生する。世界を震わす音を浴びながらアースは勝ち誇ったようにほくそ笑む。
[探知…できていないのか…!?いったいなぜ…?]
『笑えるな、あいつ…焦ってやがるぜきっと。見失ったってな。あいつが屋上をさんざん連鎖爆発で凹凸塗れにしてくれたおかげで俺のこの体勢でも建物の一部や瓦礫に見えるんだろうかね。細道にでていたり、立っていたら間違いなく見つかっていたんだろうがな』
[あ、焦らせやがって!!はぁ~~…本当に死ぬと思った…じゃあ…これで体を治しにいけるな。]
『無理だ。体が動かない。もう少し深淵化で傷を治さなきゃ立つこともままならない。それにあいつはまだこの辺をうろうろしているかもしれねぇし。お前の声が聞こえなくなってから動くことにするよ。クソ…やっぱ祖の神はきついな』
安堵した、その瞬間だった。ステンレスは登った建物の反対側から出てくる。ステンレスの顔が怒りに染まっている。さすがにここまでくると小賢しく鬱陶しい人間に思えただろう。
[ば…馬鹿な…そんな…]
「もうちょっと時間稼げると思ったけど…そう甘くもないか」
「お前のことだ。こっちの細道にでも逃げたんじゃないかとね。でも着地跡も足跡もなかった。建物の内部に逃げたのなら探知に引っかかる筈だし、もし屋上を駆け抜けたのなら建物間の隙間を血を垂らさずに渡れるわけないだろう、その足のケガで。危うく騙されるところだった。」
[…]
「そうかい、俺は…もう少し早くこの情報を知りたかったぜステンレス」
アースは息を切らし、笑いながら左の眼球に突っ込んだ瓦礫を抜いて手に取った。不敵な笑みでその瓦礫をステンレスの足元に投げた。
「…?」
「お前の爆風にさらされた瓦礫だよ。俺の目に入った後もお前は連鎖爆発を使っていたようだが…どうやらその破片は不発弾らしい。」
ステンレスはアースの言葉を聞くと更に眉間にしわを寄せ、鬼の形相で睨む。アースはぼろぼろの体で立ち上がり、相対する。
『決着つけるぜ、空欄。』




