第二章 17 気高き本能
「死に行く俺たちに聞かせる知恵はこれ以上あるか?」
そうジョニーが問うとアースは呆れた顔をして立ち上がる。アースの予想通りの表情に安堵すら覚えた。
「そうか、察する所…お前の決心は粉々に砕かれたようだな。それで自暴自棄になってんだろ?お前一人でこのグループを壊す事が出来なくて」
「…そうじゃあない。お前から奴らが来るってことを知るまではずっと脱出ルートを考え、作戦を練っていた。ここにいる絶望している奴ら一人残さず救う為のな。俺の命なんざァその為にはいくらでも捨てれんだよ…お前はボルボロスの脅威を知らないからなんとでも言えるだろうが俺ごときの命なんて石ころ同然…ボルボロスはその石ころ一つにすら意識を向け続ける。残虐な怪物だ。」
「なんだ、お前はそれで皆も自分すらも皆見殺しにしようと?」
「違う。俺はこれから俺の『アルコールの度数を体内で変える能力』を使ってこの会場と家屋全てを焼き払うつもりだ。そうして煙幕を上げ、少しでも確立を伸ばす。勿論この方法じゃ殆どの者が助からない。俺はこれ以上最善の手を尽くせない事に…とても不甲斐無く…!…思っている…!」
「…なんだよすげー良い奴じゃねえか。人一人救う事自体奇跡を遥か凌駕してんだ、もし俺もお前も死んでも俺は死後永劫誇りに思うぜ。」
…ジョニーに此処まで言わせる「ボルボロス」を相手に臆病者呼ばわりするオールディか。単に見縊っているという訳でもなさそうだし…やはり対立より今日が来る前にさっさと国民全員でおさらばするのが理想だな。今は出来る限りの事をするか。
「…まあいい。ジョニー、脱出経路を案内してくれ。」
「…分かった。」
ジョニーは立ち上がり、自身の座っていた個所の床を外す。俯く亜人達は反応するも「脱出できた所で」という感覚なのだろう。逃げられないという事を身に刻まれているんだろう。
「ここのダストシュートからすぐにゴミ溜めに辿りつく、そこの中にシャッターがあるんだがそこから脱出できる。」
「……なんか俺にはお前が無敵に見えるよ」
「無敵じゃない…ただ俺にはあてがあるだけだ。」
そう言い残してアースは別れを惜しむようにジョニーの肩に手を置き、暫く俯く。そうして一つ溜め息を吐いてからダストシュートへ入る。そして降り立った場所にオールディがトランシーバーを耳に当てて椅子に座っていた。
「…よう、アース。手枷がついたまま何をしようというんだ?」
「……そうか、そういう事か」
オールディは俺がなんらかのアクションを起こして逃げるだろうと想定したんだ。端から俺が約束を守らないと踏んでジョニーに話を持ちかけた。亜人達を見逃す代わりにアースを暴くのに協力してくれと。ジョニーの暗い顔は演技じゃねー事位俺にだってわかる。正しい事を行う為に仲間を売る行為に自ら失望していたのだろう。
「ジョニーが腹立たしくないか?」
「ああ、ジョニーじゃなくてテメェーになァ!!!!」
感情の赴くままに無策でアースはオールディ目掛けて突っ走る。オールディは躊躇わず体から無数の釘を放出し、それが当たって目の前で転ぶアースに止まず釘を降り注ぐ。血液が噴水のように零れ出てくる。
「お前と対峙するのに一切準備をしないと思うか?だけど本当は最も避けたかった事態だったよアース。お前は本当に本当に貴重な人物だったのに…残念で仕方がない。」
「…俺は今後どんな事があろうともテメェの味方にはつかねえ…俺が最も嫌悪するのはそうやって!!人の弱みに付け込んで内側から蝕む下劣で卑劣な行為だッ!虫酘が走るぜッオールディィィィ!!」
叫びと同時に皮膚の血管は大きく浮き出て筋肉は隆起する。それと同時に大量の血液が体から流れ出る。だがその血液は煙を出し、泡立つ。まるで煮え滾る怒りをそのまま表したように。
「不味い。」
オールディは危険を察知し、距離を取ろうとするが既にアースはオールディの脚を掴んでいる。いくら解こうとしても解けない。それどころか余りの握力に脚に指が喰い込んでオールディの血液も噴き出す。
「ぐぅぅぅ!!?」
「どうしたよ…テメーが持つ最強の能力を使えば他愛ないだろ…それとも出来ねェ理由があんのかよオールディ」
更に焦ってオールディは腰から銃を取り出し、撃ちこもうとするが立ち上がったアースに物凄い力で奪われる。
「お前ぇぇ…いつから見抜いていた…僕が他人の血液を受け入れられないのを…」
「ははは…それはテメ―が知る事じゃあねーさ。それよりよ、お前、聞えんだろ、監禁部屋の音声…つけてねーわけねえよな?盗聴器…」
オールディは足元にいやな感触があるのを感じ取り、汗を流す。
「じゃあ…いくぜ。『アルコール――――。』」
『……アルコール。』
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監禁部屋の壁に背をついていたジョニーの背中からアルコールが流れ出る。その液体は静かにダストシュートへとも入っていく。
監視カメラと盗聴器が仕掛けられているのは当然だろう。だからアースはおれの肩に手を掛け、丁寧にゆっくり言葉を書いていた。『お前はお前の予定通り行動してダストシュートにアルコールを流せ』アースは俺が脱出経路の話をした所でこの話を考えた。末恐ろしい奴だ。
つまり俺の口頭で喋った『嘘である筈のフェイク作戦』を本当に実行する時刻はアースが下で炎を起こした後だ。ジョニーは顔をうずめて静かに待機する。




