第二章 16 殺人鬼からの答え合わせ
空欄の一人称が俺になっていたので私に直しました。
[アース、ちょっと話があってな]
空欄か、どうした
[時を、戻しているのはエリーではない事を伝えておこうと思ってな。]
エリーじゃないのか?
[ああ、私が戻している。正確に言うと戻されている。私は今、事実上死亡していてお前の肉体に依存する事で思考だけは働いている。能力は記憶と依存する。私の能力がお前の死亡によって私の消滅を回避するために発動するんだ。もっとも死なずとも私の意思さえあれば戻せるが。]
…?
[今はよくわからないと思うがそのうちわかる。私のこの時を戻す能力は一日に5回と決まっているんだ。お前には私の姿が見えないから私の腕のカウントが見えないだろうが…しかしまあそんな事はどうでもいい。これから言う事が重要なんだ]
…言ってくれ
[お前はもう、3回しか時を戻せない。どうやらお前がこの世界に還った時から私の中ではお前の寿命が尽きるまでずっと1日という枠の中に居続ける。お前はこの「一日」で2回、時を戻している。]
つまり俺はあと3回死ねば何もかも終わりという事か。(いまさっき死んだので実質2回死ねば終わりか…)でも何故今更それを?
[本当はずっと言わないつもりだった。お前が最低最悪な野郎でも…今のお前と昔のお前じゃあ違うんだ。お前は『アース』で『キルライフ』なんかじゃあないって事を再確認した…]
…キルライフ?それが俺の名前か?
[いいや、違うよ。お前の忌わしき過去と粘着した汚点の言葉だ。…じゃあもう目覚めが近いようだから…また眠りに着いたら話そう。]
ああ、じゃあな…
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アースは目蓋を開く。考えなくとも体が現状を教えてくれる。脳天をぶち抜かれた筈なのに死んでいないのだと。肌の温度が下がっている。さっきまで戦っていた俺の体温は異常だった。痛みが全て熱へと換算されて戦いに闘志を燃やす度になんでもできる気になっていた。今は全身に鈍痛がある。
手首に頑丈に枷が掛けられている。ふと、目の前に手を翳すと切り裂かれた指も修復されている。起き上がり、自分の体中を見ても何処にも傷穴がない。死んでいないのにどうゆう仕掛けで治療された?これも誰かしらの能力だろうか。でもまあ…ひとまず助かって良かったのはいい。不安なのは今俺がいる所は見知らぬ病室…それも廃墟のような病室だから…
「目が覚めたかアース」
さっきまで死闘を繰り広げていたオールディが眼球を鼠色に変えて部屋に入ってくる。不安は的中した。俺から何かを聞きだすつもりなのか…
「どういうつもりだ?お前は俺と出会った当初は必ず殺すとか言ったよな」
「気が変わったのだ。君は深淵化という単語を知っているか?」
アースはその言葉になんの反応も示さないとオールディは椅子に座り、髪を掻き上げて落ち着いた口調で話を続ける。
「まあ…分からないのだろうな。まあ今の状況を簡潔に言うとお前が非存在と接触を行った事によって祖の神にバレたんだ。幸い我々を探知したのが臆病者のボルボロスでよかった。」
『俺は今、事実上死亡していてお前の肉体に依存する事で思考だけは働いている。』
「非存在…俺はそんなものとあっちゃいない。」
非存在…人によって空欄の呼び方が違うのだろう。世界に正しく存在していないから「非存在」。人の型に命だけが備わっていないから「空欄」。あいつの本名はまた別なのだろう…オールディの言い方から察するに。
「接触したという記憶があろうがなかろうがどうでもいい。この際ボルボロスにバレた事もどうだっていい。大事なのは深淵化だ。」
「さっきからその深淵化ってなんだよ」
「…後で説明する。お前が僕等の味方をするってなら僕等は君を全力で守る。アイツはお前を殺すのが狙いで今度はぼくらが君を命がけで守らねばならないからね。ではそろそろ安全な場所へ移動して貰わなきゃね」
「分かった。味方につく、この際全ては水に流すよ…生き残れるのなら」
「もし逃げ出すつもりなら…敵に回る可能性が1ミリでもあるのなら僕は全力でお前を殺すからな」
「ああ」
承諾はしたが…?の文字が頭上に浮かぶ。何を言っているのか全然わからない。意味不明、理解不能。やっている事がまるで天邪鬼じゃないか。俺を守る?俺を殺そうとした奴らが?『深淵化』というもののために?
「くそ…俺にも大事な用があるってのにテメ―のせいで…」
「用事というのは女王関連か?」
「…」
「もし女王関連なら残念だったな、屋敷に居た人は皆全滅だったらしいぜ。」
「…は?」
「今日はもう話はおしまいだ。」
オールディはアースの腕を掴んで強引に部屋を移動する。アースは唖然としたまま項垂れる亜人共の中に放り投げられる。そのまま扉が閉められ鍵がかかる。この状況に意識が向けられないくらいにアースはただただ唖然としている。あの作戦は失敗したのだ。暗殺なんかじゃなく我々を完全に圧倒できると踏んで無差別に殺していったんだ。
あと3回…俺にはやり直せるチャンスがある。だからこそショックは思ったよりも大きくはなかった。だけどやり直す前にもっと深く未来を知らなきゃならない。ゆっくりと現実にかえり、思考を通常運転させる。
アースは体を起こし俯く者共の横を通り一人ひとり観察する。多くが亜人である。やはりオールディ等が亜人拉致を行っていたのか。だが察するに亜人拉致と女王殺害の件は完全に別件である事が分かった。これは大きな収穫だろう。次回はオールディになぞ構わなければいいのだから。
しかし…この亜人共には希望の「き」の文字すら感じ取れない。皆が俯き、絶望にいる事を望んでいる。そんな亜人の中で一人だけ壁の方で俯く大男がいるのを発見する。アースはその大男ジョニーの隣に座る。
「なに俯いてんだよ、ジョニー…」
聞き覚えのある声にジョニーは俯いたまま話を続ける。
「アースか。…どうやら巻き込んでしまったみてェだな…。わりィな…ホントに…」
「お前の覚悟はこの意味の覚悟だったか。いいぜ、んなことは気にしてない。拘束時間も有効活用しようぜジョニー…幾つか教えて欲しい事がある。」
「…?あー知っている事ならいうぜェ」
「どうやらもうすぐここに『ボルボロス』がやってくるらしい。そいつは中央王都のリストに…要注意人物と書かれてあった。つまりは強いのか?」
ジョニーは溜め息を吐いて頬を掻き、少し間を置いてから「強い」と言う。
「ボルボロスはビシブルと共に『祖の神』だ。けどなんらかの理由で『神組織』の10席ある内の空席だった第四と第六に座る事になった。まあ本来の神組織はもうすでに機能していないから皆別行動で名ばかりの組織だが…」
「ビシブルとボルボロスは一緒に行動している可能性が高いと?」
「その通りだ。」
「…その…祖の神についても教えてくれ」
「……少なくとも1人でここの王都くらいは簡単に破滅へと導く事が出来るだろうな。たったひとりで大戦争を起こせるんだ。それが最悪二人…良くて1人滅ぼそうと奮起になっているんだろ?この状況を絶望以外のなにで表せばいい?…もう答えは出てんだろ」
「…つまりは死の宣告と?」
「ああ」
「…」




