第二章 12 生と朧の男 1
「貴方随分自惚れているのね。貴方多分能力者でしょう?だからそうやって自信過剰になって無謀を仕掛けてくる。」
マイ・オールディは目のクマを撫でながら溜め息を吐く。その溜め息には『うんざりだ』という感じで続けて言葉を吐く。
「うるさいなぁ。僕が大っきらいな言葉が無謀って言葉なんだよ無駄とか無理とか…自惚れも自信過剰も僕の過程が全てを証明してくれるんだ。僕が本当に…自惚れているのか、お前ら自身がしっかり体験するといい」
アースはオールディに銃を構える。ステラもポケットに手を突っ込みなにやら飛び道具を使おうとしているみたいだ。そしてアースに向かってステラが小声で質問をする。
「対能力者戦の経験はある?」
「対能力者どころか対人もないぜ。ああ、ただ人型の怪物とは家庭の包丁で泥仕合をした事はあるな」
「十分よ、先ずは『能力』を知り、対処法を考えるの。『能力者』は強い…だけど能力は完璧じゃあないから能力に頼り切っている人はそれほど窮地に弱い…だから…私が戦うから…貴方が見極めて」
「え…おい、それは…」
アースが突然の無茶ぶりに狼唄えている間にステラはオールディに向かって走っていく。…しかし良く見るとオールディは武器は何一つもっていないんだな。やはりそれほど戦いに自信があるんだろうか。
「二人もいるのに態々僕に一人で挑むのか?随分と舐めたことをしてくれるなぁ」
オールディは己の拳だけでステラを捉えて拳を振っている。流石は戦闘慣れしているかは分からないがその拳をしっかり避けて隙を狙っている…いや時間を稼いでいるのか…。
「いいえ、彼は戦力外よ。戦えない凡人。」
「…」
…オールディはただ不敵に微笑み、当たらない拳を延々振り翳しているだけ。だから…きっと秘策がある筈だ。拳をあてた時点で勝ちってのも強いがここまで当たらないと流石に少しは焦るんじゃないだろうか。もっとずっとこの状況が続いて安心していられる奴の保険が…分からない。
アースがそうこう考えている内にステラはヒントをもっと探ろうと背後から回し蹴りをオールディの後頭部に喰らわせる。衝撃が相当なモノだったのかステラの足首はかなり喰い込んだ。
「なんで…!」
「…なんだって」
ぬるりと、オールディの頭を突き抜けて額から足が出てくる。まるで其処になにもなかったように通り抜けていく。血も出ていないし当の本人は…狂喜に笑う。そしてそのまま出てきたステラの足を掴んで路地の方へと勢いをつけて投げ飛ばす。
「…うぁ…っ!!」
「分かっただろ。僕の行動の全ては無謀ではなかったと…なあ?アース」
だからアイツはずっと…ずっと余裕ぶっこいてんだ。もしアイツが…ステラの思う通りアイツが…強力な能力に頼り切っているとしたら…能力に完璧なモノがないのだとしたら…俺はやってやる。そして裏切ってやろう、俺がその無敵の能力を目の当たりにして絶望の表情を浮かべる事を。
「無謀ではないかもしれないがオールディ…お前は自惚れているぜ…」
「えぇ?なんて?」
「聞えなかったのかよマイ・オールディ!!テメェーは!自惚れてるって言ってるんだぜッ!!」
アースは銃を構えて銃弾を二発、オールディの心臓に向けて放つ。突き抜けるかと思った弾丸は今度は突き抜けなかった。だが決してダメージを与えられた訳でもなく血も殆ど出ない。
「もしも僕が自惚れているとして、3位自惚れ。2位無駄。…お前の方が嫌な言葉通りの状況になってないかねぇ、え?震え立つのは勝手だが…失望させないでくれよアース。」
「ならよ、その言葉自体が無駄極まりないぜ。お前こそ呑気に突っ立ってる場合かよ」
アースは続けてもう二回引き金を引く。今度はオールディには当たらず後ろの食堂の窓枠に当たり、外れたガラスが傾き、オールディの頭上へとゆっくり倒れてくる。
何故かオールディは自分に当たらなかった事を悟ると、即座に頭を手で覆い背中でガラスを受け止める。するとガラスは一度背中で砕けてしまう。勿論硝子の破片はオールディの背中に吸収されたのだが…また…オールディの体を通り抜ける事はなかった。
「俺には今、無我夢中に手探りでヒントを得るしかない。理解に到達するまでに…数多の方法を実行していかなければならない…そしていま!それが分かろうとしている!お前は今!確かに防御したんだ!」
それにそれだけじゃない、『不意打ちからの攻撃が弱点』だったり『不意打ちでは体内に取り込む事ができない』のかもしれない。だからアイツの背中の上で一度ガラスが砕けたんだ。すぐには取り込めなかった。
「だからこそもう一度言わせて貰う!お前が「無駄」と吐く言葉自体が「無駄」極まりないぜ!オールディ!!」
「人が!黙って聞いてればよぉぉ…!能力の弱点を見つけたような態度をあからさまに取りやがって!僕が一度お前を『無駄』!と決めたのなら!絶対に実現するからなァ!!」
オールディは両手を前に突き出し、指を最大まで広げる。すると皮膚からガラスが盛り上がり、波に従う様に指先に流れていく。そして指先は斑点模様に染まる。「死ね!!」とオールディが言うと同時に腕に集まったガラス共は高速に回転して此方に向かって飛んでくる。大きい破片はゆっくりと、小さな破片は高速に。アースは咄嗟に左腕で防御し、右手で銃弾を乱発させ、弾丸を使い切る。
弾丸はガラスを更に細かい破片に変えて勢いを殺していく。だが砕けなかったガラスの破片がアースの体に複数突き刺さる。防御していた左手の人差し指と中指が切断されて宙へと血を撒き散らす。
そしてアースが弾丸を使い切った事を悟るとオールディも一発弾丸を指先から放ち、胸へと命中させる。アースは何を思ったのか、痛みにおののく前に切断された指を使って床のガラスの破片に一文字だけ書いてステラが飛ばされた路地へと投げ、オールディを睨む。
運良く心臓を貫かれなかった。しかし本当ならば痛みに悶えて闘志などとうに尽きてもおかしくない筈なのだが…痛くはない、興奮とこの感情の昂りが、激痛を焼け爛れの意識に変え、それすらもすべて自分の体温にかき消されているのではないかと思う…だからなんともない。だからこそ俺は今、熱く燃えている。
「体内に取り込んだものを放出できるのか、大きい物は遅く、小さければ小さいほど高速に…だとしたらだ。もう1発、お前の体には銃弾が残っている筈だ、最も威力の出る小さき弾丸が。」
「よくもまあそんな出血量で冷静になれるもんだなあ。お前に痛覚はないのか?どのみち僕を殺す事は不可能だと、ようやく理解してもらえたかねえ?僕にダメージを与えられない時点でお前の敗北なんだよ。後は僕がどういう攻撃をしようがお前は死ぬ、この最後の弾丸を使うまでもない」
そうじゃない、そうじゃあないのさオールディ。お前は俺が答えに辿りつけないと思い込んでいる。その余裕こそが最大のヒントなんだ。俺はこれほどお前について色々暴いたっていうのに焦りもしないお前こそがヒントなんだ。不意打ちなんかじゃあ断じてない。ここまでステラに無警戒にいれる訳がないから…
「俺はお前に感謝せねばならないなオールディ…俺に最大のヒントを与えてくれてありがとう。俺に弾丸を一発放ってくれてありがとう。」
アースは自分の胸を穿り返し、弾丸を手に取り、そしてほくそ笑む。何かを掴んだかのように。




