第二章 10 疑惑
「ああ、そうそう。なんで女王様の件の会議が終わった後ギレオさんは屋敷を案内してくれなかったんだろうかね。ギレオさんもメイドもいるだろうし」
アースの嫌味な言葉にステラは足を止め、振り返り反論をする。
「みな、貴方より忙しかった為に案内する事を忘れていたのでしょう。」
ここでワザとらしく厭味ったらしく言う。
「でもこんな時に案内するのは至極当然の事ではないですかね?…少し怠っているんじゃあないんですかね。ギレオさんもメイド達も指導者である女王も」
この言葉でステラは無表情ながらに嫌悪感を示すようになる。
「貴方も分かるでしょう?客観的に立場から物事を見て…普通なら当然かも知れませんが今は緊急事態なので皆、それどころではないんですよ。」
「へぇ、メイドはともかくギレオさんは悠長に風呂に入っていたのだから軽く案内くらい出来たのでは」
「でも貴方も屋敷の把握という事を忘れて城下町で遊んでいたのでしょう?」
「ええ。忘れていました。」
「ならお互い様では?何もギレオさんに全ての責任がある訳じゃあないですよね?確かに案内するのは屋敷内の把握の為に重要だとしても…それを自分に全く非がないなどと…」
「ところでステラさん」
「…なんですか?」
「緊急事態ってなんですか?」
瞬間、ステラは口を紡いだ。ついにボロを出した。間違いなくステラは緊急事態と言った。まだ言い訳を考えるならまだしも口を紡ぐなんて「しまった」という感情を不用意に暴露しただけじゃないか。まさかこの不意が作戦だとは思えないし。
アースは続けてステラに指をさし、指摘をする。
「…それはどういう事なんです?…なぜ口を紡いでいるのですかね、ステラさん」
その指摘に観念したのかステラは大きく溜め息を吐く。無表情を崩し、隠す事無く苛立つ顔を見せる。目は釣り上がり、鋭い眼光に圧倒される。そして先程より若干低い声で淡々と喋る。
「……非常に……………………素晴らしい心がけですね。」
もしかしてここでやるつもりなのか?俺が一人だという事で始末しようと?こんな早くボロが出るとも思わなかったし…大体一言目がそれじゃあなんだか分からない。アースはこの余裕と豹変に少し不安を抱き、身構えて少し距離を置く。
「悪かったよ、嫌味ったらしい言葉で。怒ったなら謝るよ」
「いえ、怒ってなどいませんよ?しかしまあこのまま沈黙を貫いて疑惑を撒き散らす位ならいっそ話してハッキリさせて置こうとは…思いましてね。一つ目、私は敵ではありません。」
「…へえ」
「二つ目、私の目的は今回の女王様の件とは別な用件で来たんです。…私は私で別な緊急事態があるんですよ。私は今晩だけ泊る場所がないので泊めてもらうだけです。大体その女王様の件を把握したのも昨日ですし。貴方が最近務め始めたメイドを危険視しているから事がややこしくなったんです。ここで私の目的も達成する為にギレオさんには私を秘密にしてもらう事になりました。はぁ…でもギレオさんも爪が甘いから「例の人」だの「ステラ」とか名前で呼ばれたら秘密もクソもないですし。それで貴方にも疑われるし…まあでも確かに私は怪しいです。だから疑わしいのなら四六時中監視してもらっても問題ないです。私も目的が達成できれば直ぐ去りますから」
「じゃあ最初に俺を殺そうとしたのはなんでなんだよ?」
「別に殺そうとした訳じゃないですよ?怪しいから拘束しようと考えたんですよ。出そうとしたのは凶器ではなく拘束具。…それに一様女王様の件を聞いてきましたし私を付けてくる人間も限られていますから。それに怪しい者を徹底的に洗い出すのは私も貴方も同じでしょう?」
彼女が怪しいと思っていたが恐らく違うと思う。彼女が嘘を言っている様には思えない。一時的に疑問は消える。今疑わしいのは最近入ってきたという事だけになる。俺が考えていた『最悪』のケースの可能性は低くなった。可能性がなくなった訳じゃあない。常に警戒は怠らない様にせねばならない。
「満足しましたか?では案内を再開してもよろしいですか?」
「ああ、はい。疑って申し訳ない、どうも案内お願いします。」
そのままステラとアースは最低限の言葉しか吐かずに案内を続ける。屋敷とは言っても客用の部屋、資料室等等が殆どであった。他には寝室、大浴場、屋敷の中庭の噴水や大きな厨房といった極普通の金持ちの屋敷といった感じだ。一つだけ違うのはエントランス脇の左右廊下の花瓶の裏にスイッチがあり、押すと鉄球が飛んでくるという事位だ。
最終的に図書室の前で案内が終わり、アースは礼を言い、ステラと別れる。アースはボロを出させるためにあんないい方したのもあからさまにステラを疑い過ぎたのも行き過ぎてしまったなと心の中で反省して図書室へ入る。
中には本棚が沢山あり、テーブルの上にも本が大量に積まれている。図書室が思いのほか広く、二階にも続く階段や、大きく案内板もある。あちこちに吊るされている白いプレートには本のジャンルが書かれている。
この屋敷には本好きがいるのだろうか。でなければここまで本は集めないだろう…都合がいい、非常にこういうのはありがたい。とりあえず世界地図とか常識についての本を読もう。
アースはそういうジャンルの方へ向かうとテーブルの上にかなり汚れた文字で書かれた『六つの感情』とそれよりずっと古く、もう燃えカスみたいな『七つの感情』という本がある。アースはその異質さに興味を抱き、先に『七つの凶感情』の方に目を通す。
『七つの凶感情』
七つの凶感情の最初の所有者達を示す。この七つの感情は世界を蝕む恐ろしい感情だ。我々底辺の人間が示す事が出来るのはこの程度の事だろう。
歓喜の感情 初代デウス・オルペト
不満の感情 初代アリス・キルライフ
約束の感情 初代カメリア・キルライフ
同情の感情 初代コド・ペドアルダンテ
快感の感情 初代エクシマス
執念の感情 初代オールドシルビアス
共有の感情 初代レイス=リクテス=ギ―マ・オーロラキュロス
これ以降のページは殆どが焼け焦げており、読む事が出来ない。続いて『六つの感情』。此方は『七つの凶感情』が厚い本なのに対しかなり薄っぺらい。書いている事は感情の種類とその所持者名のみである。その上『共有の感情』が消えてるし『約束の感情』の所有者も『エリセラクト』という人物に変わっている。
『六つの感情』
歓喜の感情 初代デウス・オルペト
不満の感情 初代アリス・キルライフ
約束の感情 初代エリセラクト
同情の感情 初代コド・ペドアルダンテ
快感の感情 初代エクシマス
執念の感情 初代オールドシルビアス
なんだか妙に惹かれるものがある。ああ、ダメだな。こういう物には興味が湧いてどうしても覗いてみたくなってしまう。晩飯までには目的を終わらせておかないと。アースは乱雑に置かれた分厚い地理の本を手に取り読み始めた。




