第二章 4 『東の王都』
誤字脱字あったらすみません
暫く坂を歩くと大きな町が見える。ミーナはそれを確認すると指さして「あれが東の王都パーライドだよ」と一言喋る。この丘の上から全体図が見える程なので其処まで大きくないと感じるが距離も相当離れている。きっと「王都」というだけの都市感はあるだろう。それにしてもここから何時間歩くのだろうか、確かにこの下り坂を過ぎて近くで降ろされても丘から景色が丸見えじゃあ作戦の上で仕方がないと言えば仕方がないのだが…。
特に話題もなく無言で歩き続けて2時間、ようやく王都の門へたどり着いた。途中まで楽だったが近くまで来ると雨でも降り続けたのか地面の泥濘が酷くなり歩くのが非常に困難だった。しかし彼方此方に線路は見えたが電車があるのだろうか?車は衰退した癖に電車は未だに残っているのか…この事を話の話題にしようと思ったがお互いにそれどころではなく、お互いに早く休憩がしたかった為ミーナは身分証明書と巡回警備兵だという証拠を提示して門を潜る。
王都内は門の外とは全くの別世界と言っていいほど人々が賑わっていた。空気は乾いており、気持ちのいい日差しが眠気を誘う。ミーナはアースの腕を掴み広場のベンチに座らせ、ここで待っててとすぐ近くの自動販売機で飲み物を二つ買ってきて一つをアースに投げる。アースは礼を言い、直ぐにふたを開け、飲み干す。
「あぁ…浸み渡るなあ」
「私も流石に疲れたからちょっと休憩するねー…いぁ~生き返るねぇ~」
ミーナも鍛えてるとはいえやはりあれ程の泥濘には足を取られるだろう…あの状態で1時間程歩けばそりゃあ誰だって疲れる。ミーナは飲み物を一気飲みすると器用にボトルをゴミ箱に投げ入れ、深呼吸をする。
「事情は伝わってるからアースは先に屋敷へ向かってて、私はここの警備兵達に挨拶を済ませてくるからさ。屋敷はこの広場のから大通りに出たら真っ直ぐ坂を登れば大きい屋敷が見えるから直ぐに分かるよ」
「単独行動は避けるんじゃないの?」
「まだ作戦始まってないし」
「…分かったよ。もう五分だけ休憩してから行くよ」
アースは少し意地悪に上げ足を取ったが冷静に返されたので大人しく指示の返事をする。再びベンチに座って溜め息を吐いて顔を手で隠し、頭を上に向ける。心地よい仄かな日光の温かさを感じる。暫くその状態でいると脳内に響く声がする。
[お前今…意識が曖昧になっているのか?]
「え?なんだ?」
アースは吃驚して目を開けて辺りを見渡す。ベンチに寝てる人位しか周りにはいなく、どう考えても空欄の声だし空欄以外に考えられない。
[別に意識が曖昧でもないのか。じゃあ何故私の声が…]
空欄か?どうしたんだそんなに焦って…
[これまで話しかけれたのはお前の意識が曖昧な時だけだった。いきなり…お前に話しかける事が出来るようになった…妙だぞ…アース、気を付けろよ…]
何をそこまで動揺してんだよ?…空欄?
途端に声や呼吸音が聞こえなくなり、話は通じなくなる。一体何が起こっているのか理解出来ない。こんなことをしている間にもう広場の時計は五分以上を経過していた。
いかんな、休憩とか言ってもう5分以上経っている。ミーナに文句を言われてやっぱ首なんて言われたらキツイ。時折優しさをみせるとはいえ奴なら言いかねないからな。アースは急ぎ足で大通りを抜けて屋敷の前まで来る。しかしこんな気持ちがいい町…仕事じゃなければゆっくり東の王都を堪能して回りたいものだ。
巨大な門の隣のベルを鳴らして玄関前で待機する。屋敷外の人間を警戒している状態でズカズカと入って行ったらそれこそ命が危ない。事情は伝えてるとはいえ客人は我々だけではないだろうし…この屋敷が城下町から高い位置にあり、且つ遠くに位置しているから静かである。そのせいで屋敷内の音が響いて聞える…何者かが物凄い勢いで此方へ向かってくるのが分かり、狼狽える。
が、勢いよく扉は開かれ銀色の長髪を乱れさせてついでに服も淫らに脱ぎかけで客人を待っていたかのような無邪気な笑顔の女性が両手を伸ばしてアースに抱きついてくる。足音の正体は間違いなくこの子だろう。しかし余りの驚きで声が出ない。もっと丁重でお上品な対応されると思ったが…
抱きついてきた女性はアースの胸板と抱きついた胸囲の厚さに異変を気付き、直ぐに小さな悲鳴を上げ、離れて玄関を盾にして此方を覗く。
「…貴方は誰です!?」
「まさかとは思うけど…貴方が女王じゃないですよね。」
彼女が女王だろうか?もし女王だったとしたらタメ口じゃ悪い。いくら敬語を喋るのに頭痛が酷くなって激痛に叫びたくなろうとも女王相手に敬語で話さないのは不味い。
「女王ですけど…どなたです?」
「…………………………」
…ある程度は予想はしていたが斜め上に越えてきたな。失礼だがいわゆるポンコツに見える。
「あの!どなたですか!」
「あ、ああ…話を聞いてませんか?中央王都から二名が来るって情報を」
「貴方それを何処で……んん、二人…ってことは!ミーナちゃん!さん!も!来るんですよね!?」
これはなんて回答するのが正解なんだ。ミーナはそもそも直接会う事になっているのか?ミーナに恨まれたら将来が危ない、がしかし女王を不快にさせるのも身の危険が伴う。胃が苦しいぜ。これが板挟みとかのストレスか。
「ね!来るんですよね!」
…ここまで嬉しそうな顔で迫られるとノ―と言い辛いじゃないか…
「…ええ、来ますね」
「そうですか!ありがとうございました!」
女王が元気よく礼を言うと玄関を閉じる。いやいやそれは困る。
「あの、おれ…私も今回の件に関わる重要な人物なんですけど」
「ミーナさんが来たら開けますね」
…扉に鍵がかかっている…開ける気はないみたいだ。なんというかミーナの苦労も分かる気がする。…でもだからこそ…母親と姉を失っているからこそ…ミーナに依存して自らの崩壊を避け、支えにしているのかもしれないな。そりゃあ俺だって唯一の家族が姉でその姉が暗殺されたなんて事になったら…俺は絶対知らない人間、自分の領域に入ってくる未知の物体に警戒どころか拒否反応も起こす。同情なんて本人にはクソ喰らえなんだろうな、「私は惨めじゃない!」と言う姿が容易に想像できる。
其処に一連の流れを知らないミーナがやってきてアースに問いかける。
「何やってるのアース?」
「悪いが、声を掛けてやってくれないか?」
「あー…うん」
ミーナは苦笑いして何かを察して玄関のベルに手を伸ばすが女王は聞き耳を立てていたのか直ぐに扉を開ける。すると今度は上品に両手でスカートの裾をつまみ、少しだけスカートを持ち上げて挨拶をする。服も整い、まるで別人のように思える。服装こそ訳あって一般市民の格好だが女王の気品が見て取れる。
扉を開け、エントランスに入ると女王は先程の女王としての気品はなくなり無邪気にミーナに抱きついて挨拶をする。さっきは幻かなんかかと思ったがやはり口を開けば同一人物だ。幼い言葉と仕草で年相応の女の子だという事もわかる。なんだか姉妹のように見えて微笑ましいな。
「それでね!ミーナちゃん!」
「うんうんどうしたのー」
ミーナも仕方がないなと面倒見のいい姉の様に話を聞く。女王が笑顔で話しをしていると後ろから召使いが案内をしにくる。3人はその召使いに連れられ靴を脱いでスリッパを履いて二階の応接室に入る。召使いは扉の前に立ち、部屋で待っていた年老いた執事が笑顔で会釈をして口を開く。
「よろしくお願い致しますミーナ殿…アース殿…お疲れでしょう、どうぞお掛けに」
全員が座った所で女王は真剣な表情に変え、同じく執事も笑顔を止める。次にミーナが軽く溜め息を吐いて重い一言を放つ。
「明日に女王アストレアは殺されるの」




