第二章 98 未来は有明と共に 2
首が痛いので誤字脱字があるかもしれないです
「こんなに不愉快なのは久しぶりだ。もっと楽しめる夜になる筈だったのに、全く…残念だ。」
遠くの闇に消えていった列車は嫌な爆発音とともに宙へ上げられて暗い荒野を照らす。まるでもう追い掛けることに飽きてしまったかのように、掬った泥すら雑に地面に払ってその場から炎上の様子を眺めている。
「そこにいるのは分かっているぞ。貴様もステンレスと共に我輩と対していれば多少なり時間が稼げたのではないか?」
「…いいや、そうとは限らないだろうな。しかしお前…派手にやったな。良かったよ、お前が俺たちに騙されて列車についてきてくれてさ。」
置いて行かれた最後尾の車両の上にシェネントハープは立っていた。そして不機嫌そうに佇むボルボロスに、効かないとわかっている銃を脅しの道具として不死身の者の額に照準を合わせた。
「我輩を不愉快にさせたから我輩の化身が余計な事をしてしまったのだ。じっくり列車を追い詰めていくはずが…だがまあどのみち貴様ら二人だけなら…どのみち同じなのだがな。つくづくお前たちには苛立たせられる。」
「だれも2人だけしか乗ってないとは言ってないだろ?」
「貴様の言葉からそう、予測しただけだ。乗っていようがいまいが何方にせよ結末は同じだ。ただ結果的に貴様らだけなら都合がいいというだけだ」
「いやはや、さてはお前、自己中だろ?何もわかっちゃいない、これまでの生に、お前に蹂躙された人々たちの怒りを…お前は何もわかっちゃいないんだ。」
「ほう…貴様も我輩に消されたいようだな。…まったく、人間と祖の神を同列に扱いすぎなのだ、貴様らは…」
ボルボロスが語り始めると同時に弾丸を放ち、すべてが大地からうねり伸びた触手に叩き落された。そしてその場から立ち去ろうとする前に両足を触手に断ち切られて派手に車両から転げ落ちる。
「うぐぅぁあああ!!!」
激痛に涙を流しながら切断面をおさえて悲鳴を上げた。そして気色の悪い笑みを浮かべたボルボロスを睨みつけた。
「そう、実に脆いのだ。貴様ら人間は」
「そうさ…!だからこそ!…アンタが祖の神と名乗るならば。アンタが大地の王と自称するのならば、どうして下等と見る人間どもを蹂躙することに楽しみを見出せる?お前は所詮、道に行列を作ったクロアリを踏んで神になった気でいる…大人になれなかった子供なのさ…!楽しいかい、黒蟻を踏むのはさ。」
「そうかそうか、もう…そういう言葉は聞き飽きたんだよ黒蟻共。何時だってお前のような奴らが吐く最期の言葉は揃いも揃って同じようなモノなのだ。陳腐で実につまらん。一丁前に悲鳴も上げず喚きもしない。ただ面白くもない戯言を吐いて死に向かう。」
「…っ」
「だがまあ確かに貴様らは黒蟻と呼ぶのが相応しいだろうな。そんな貴様らには決まって我輩はこう回答するのだ、「楽しいさ、貴様らのような奴らをこう捻じ伏せるのが愉悦なのだ」と。」
祖たる神はゆっくりとハープとの距離を詰めて目の前で止まり、彼の頭上に手を翳す。そして頭蓋から溶かそうと近づけたボルボロスの腕を何者かが掴んで動きと止めた。
「おいそれが、東の王都を襲う理由か?」
「アース…!?」
ボルボロスの腕をつかむ手は例に漏れず分解が始まっている。それでも尚、祖の神にもほどけぬ程の馬鹿力で掴み続ける。
「おい…それがこの惨状を引き起こした理由なのかって聞いてんだぜ…ボルボロスッ!!」
「…だったらどうするというのだ。ヒーロー気取りのところ悪いが、貴様に何が出来るというのだ。」
祖の神がそう煽った瞬間、掴まれていた腕はアースの握力によって握りつぶされてしまった。そして勢いよく血液と共に手首が飛んで宙を舞う。あまりの異様なパワーにボルボロスは距離を取って泥を使い、腕を再生させる。
「凄まじい握力だな。拷喰やノーフの他にこんなパワーのある奴が此処にいるとは思わなかった。…アースと言ったか…覚えておこう。」
「覚えてられるといいな。これから俺はテメェの脳味噌をぐちゃぐちゃに掻き混ぜてやるんだからよ」
「アース気をつけろ…!そいつは不死身に最も近い…!!」
荒野に落ちたリボルバーを拾ってアースはボルボロスに向かっていく。
「お前も聞いていただろ、ハープ。アンダーワールドの言葉をよ。奴の妄想上に血の吹き出す不死身はいないぜ」
「ほう、血が無限ならそれは不死身といえるだろう?」
「そうだな、お前が不死身かどうかは俺がこれから直接確かめてやるよ」
アースは手に持った銃をシェネントハープの元へ投げる。そして間髪入れずに下から顎を狙って拳を突き上げるが、ボルボロスは避けてアースの顔面目掛けて拳を下す。頬の骨は砕けて大きく唇を裂いて左眼球が剥き出しになる。
もう深淵化による治癒が絶望的な状況でこれほどのダメージを受けてしまったのだ。パワーが幾ら勝っていたといえこの神はアースに似た怪力に加え、並みの動体視力では捉えきれないほどの速度を誇る。攻撃が当たらなければ、自慢の怪力も意味を為さない。
だがそれは当たらなければの話だ。当ててしまえばその拳はどんな相手も再起不能にしてしまう一撃必殺級の攻撃へと変貌する。
そう、これ程の衝撃を受けながらアースは決して倒れることはなかった。のけぞる事はあっても地に足をつけたまま吹っ飛ばされることはなかった。
確実な勝利を視界一杯に見ていたボルボロスは現状のアースが吹っ飛ばないという映像がギャップを起こす。そして次に行動を起こそうとする前に死は訪れる。
咄嗟に距離を取ろうとしても愉悦に浸ったあの瞬間に凄まじい握力で肩を押さえつけられて立っていられなくなった祖の神は膝を地につける。そして目一杯振り上げられた拳はメテオの如く振り下ろされ、同じように頬を砕いて力のエネルギーに耐えれなかった頭は高速で回転を続けて首から千切れて荒野に落ちた。
「死んでねえんだろボルボロス…!」
アースの問いかけに呼応するようにボルボロスの体は泥状になって大地に浸透していく。そして捩じ切られた首から再び全身が構築される。
「お前は強いのだろうが…我輩は無傷なのだ。そうさ、これが祖たる神と人間との決定的な差だ!」
「いいや、お前は着実に死に近づいてってんだぜ。テメェが今!血を噴出さずに首を飛ばしたのが何よりの証拠だ。腕を再生させた時に見て立てた考えを無事に回収出来た。」
「…なに?」
「どうした…ボルボロス。小手調べは終わりだろ?これからお前は俺に力の差を見せつけてくれるんだろうがよ。祖たる神と人間の差をよォーーー!!」
「上等だ…アース。今度は反撃する隙も与えん。」




