第二章 94 終末の鐘の音
会話多め
『――――――。』
椅子に縛られたリアナの前、偶然無線機を手に持った時にウィーズの敗北を示唆する言の葉が途切れ途切れに聞こえてくる。ステラは自らの口を手で覆い、今後の展開を何度もシミュレーションする。だが枝分かれしている未来の何処にも希望などなかった。
「ねえステラちゃん、あの子はいないのぉ?不死身っぽいひと。ステラちゃんの反応みれば分かるけどさあ…なんか切り札みたいのだったんだよねぇ?英雄…?って子」
「…」
「え~無視しないでよぉ」
アースはできるだけ迅速にオールディ達の問題を片付けて合流するといってた。慎重に行動するなとは思ってはいたもののまさかその慎重さを上回ってくるなんて考えもしなかった…。なるべく全員でボルボロスを相手にしなきゃならなかったのはこの異次元の強さを察知していたからなんだ。
「あ、ステラちゃんも迎撃ぃ~?絶対無駄だと思うけどねぇ」
部屋を出ていこうとするステラに向かってリアナはそう告げる。
「私の実力なんかたかが知れてる。それでも今は戦える全員で挑まないと希望すら…!」
震える腕を無理矢理抑えてそれでも戦わなければならないと宣言する。そして同時に祖の神ステンレスが部屋の扉を蹴飛ばして侵入してくる。
「ステラ!!!」
「祖の神…!どうして此処に居るのよ…!ボルボロスと戦闘してるはずじゃ…!?」
「全部失敗だ!我々はボルボロスの実力を見誤った…!俺たちがどう足掻こうと勝てる相手じゃあなかった…」
「それじゃ…」
「逃げるんだ!!すでに王都は囲まれてはいるが少数精鋭で一点突破なら完璧に逃げれる!!」
「今いる屋敷の人たちだけでってこと…?できるわけないじゃない。今戦ってるアースや避難の指揮を執ってる人達を見捨てることなんてできないわ」
「お前さえ生き残ればいい!!ここで犬死なんてごめんだろ!?」
「…なぜ私なのが生き残らなければならないの?…戦えないのなら女王様を連れて死守をお願いします。戦う意思がなくともそれくらい出来るでしょう。」
「…えーとねぇ多分さぁ抗っても死ぬし逃げてもあの人の執念染みた想いから逃れることは出来ないとおもうよぉ?それでなんだけど取引しない?」
言い争う二人の間に割って入ったリアナが取引を持ち掛ける。ステンレスは馬鹿々々しいと聞く耳を持たなかったが彼女の能力の詳細を知っているステラは微かな希望を見出す。
「声帯を絶たれたくなければ俺達の会話に入ってくるな女。」
「ひえっ」
「待って、教えて頂戴、その取引の内容を…」
「おいステラ!耳を貸すな」と頑なにステンレスは拒絶する。かつてこの女がステラを殺し、屋敷にいる多くの人間を虐殺した人間であることを知っているからか、ステンレスにとってリアナは全く信用のならない胡散臭いやつであるという認識が染みついていた。
「人間より利口な祖の神様ならぁ…分かるでしょ?私だって死にたいわけじゃないんだからさぁ…協力しましょ?私のこの拘束を解いてもらえれば能力を展開して逃げることは可能よぉ、どう?」
「まあ…粗方そんな事だろうと思ったわ。でもね、私だって馬鹿じゃないから。その提案は受け入れられない。」
そのステラの意外な回答にステンレスとリアナは拍子抜けした表情を浮かべる。先ほどは少し余裕を持っていたリアナだったが苦笑いをする。
「あはは、ステラちゃんさぁ…今の状況をちゃんと理解してる?温情による取引だと思うんだけどなぁ?互いに損はないと思うんだけどなぁ?」
「言っとくけど私があなたに対する信頼度はゼロにも届かないほど下の下の下よ。私だって死にたくないもの」
「…お前の言う通りごもっともな意見だが、なら何故此奴の取引内容を聞いた?俺には到底時間の無駄としか思えんが…」
「いやいやいや待ってよステラさぁん…それってつまり自分だけが助かるために…私を信用しないって理由だけで自らの主すら住民すらも放っておいて二人で逃げるってこと…?」
「あなたが死にたくないように、私も死にたくないからね。」
「いやいやいやいやいやいや…拘束されているとはいえ私は今現状一人で逃げおおせる事だって可能だからねぇ?それを私があなたたちを思ってさぁ」
「なら逃げればいいじゃない。誰も止めはしないわよ?貴方が言う『あの人の執念染みた想い』から逃れられるのならね」
「…」
取引提案当時とは比較にならないほど汗を流し、焦燥している。それに対しステラはそれほど焦ってなどいない。大人になるにつれ、人間は人間の汚れた部分を体感する。他人にもそしてその一面は自分にすらも感じる。
リアナはそれをよく知っている。だからこそステラの変化の有無にここまで追い詰められていた。余裕を装う反面焦る内面から漏れてしまった『死にたくない』の言葉が結果的に自分を苦しめる要因となったことにリアナは後悔している。そしてそんなリアナの心中を見透かすようにステラは続ける。
「可能ではあるものの出来ないのよね?あなたがその気になればとっくに逃げていることは知っているわ、そんなの随分前から知っているの。果たして選択肢が限られているのは私とあなたの何方でしょうね。」
「ぐ、具体的にどうすればいいのよぉ…」
「私たちはあなたの拘束を解かずに椅子で遠くの視界を見せるからあとは能力を展開してもらえばいいわ。出来だけ王都から離れた位置にね。あなたが本当に死にたくないのなら承諾すればいい。それに劣っても私にはそれ以外にも選択肢が山ほどあるから。」
その言葉を黙って聞いて唇を歯で噛み続けたリアナは観念したように叫ぶ。
「わかったわよ!それでいいわよぉぉ!もう…」
「何方のほうが立場が上か分かっていないようね」
「わ、分かりましたぁ…ステラさまぁ…」
「…別にそこまでしろなんて…」
椅子に拘束されながら足をバタつかせていやいや承諾する。本心を見透かしてはいたものの余りの変化にステラはちょっと引いた。ステンレスは何かを言うことなく黙ってステラの成長に胸を打たれていた。
丁度そのやり取りが終わったところでこの密室の扉を乱暴に開いて、息を切らした女王とミーナが入ってくる。
「いたいた…探したよー。ホントよかったー!賢明な判断をしてくれると思ってたよー君ならね、祖の神ステンレス。」
「賢明な判断だと?」
「はい、これ以上戦いを続けることが余りにも厳しいのを理解して戦いを避けたのかと…それとボルボロスの発言を聞く限り殲滅対象はここに住むもの全てですから。」
「…」
「亜人たちはみな保護したし、住民も屋敷内に避難はほぼ完了してるからねー。アース他協力者を回収することは出来ないけど、一時的に戦略的撤退としてこの王都を捨てたほうがいいと判断したんだよー。それに君もそう判断を下したんでしょー?」
「まあ…そうだが。惨状を見て、俺のサイレントと爆破を利用して切り抜けるべきと考えたわけか。全員が安全にあの囲いから逃れるかどうかも分からない、少人数であれば問題ないだろうがな。だが数百人を超える者共を連れて逃げるのは現実的じゃあない。それに徒歩であの人数じゃいずれ追い付かれるだろう。」
「それは列車を使えば…」
「――――と、思っていた。」
ミーナの反論を聞く前にステンレスは言葉を遮る。そして希望に満ちた目をステラに向けて言葉をつづけた。
「どうやらこの大罪人にはこの場を切り抜ける能力を持っているようだが、なあステラ。」
「なぜ貴方が仕切っているのかは全く理解が出来ませんが、その通りです。リアナにはワープホールという能力があります、それに私も言おうと思っていましたが先ほどミーナさんが言っていた列車を利用するのが最も最善の選択といえます。」
「…時間稼ぎとしてギレオもボルボロスの足止めに向かっているのですが実際どれだけ持つかはわかりません。逃げるには今しかないんです。…私は戦うよりも…ステンレスさんのサイレントを使って無人列車を使って逃げようと思っています。」
その女王の言葉に皆のすべき行動は心の中で決定した。そして行動に移ろうとしたところでもう一人見知らぬ男が開いた扉の前に立ち尽くしていた。




