第二章 92 ボルボロス・トゥ・タイタン 2
ちょっと短いです。
痛みに悶えることなく余裕をかますボルボロスに溶け折れたゴム剣を突き立てる。それなのにこいつは避けようともせずあくびをして見せる。構わず刺し裂こうとしてもこいつの身体に傷一つつける事すら出来ずに気化して存在が消えて行く。
そして攻撃手段を失ったウィーズに再び拳を振り下ろす。右肩の拳状に窪んだところに全く同じように繰り返す。何度も何度も地面を跳ねて泥塗れになりながら勢いを失った頃には這い蹲りながら神を見上げる。これだけ遠くに殴り飛ばしたっていつの間にか目の前まで近付かれている。
「諦めろ名誉英雄、我輩には敵わないんだよ」
遥か格下を遊ぶように笑みを浮かべてそんな言葉を吐き捨てる。
「拙いね」
「へえ」
「拙いよ、凄く。自分の強さを僕を鏡として証明したいかの様に見える。」
「再確認は何時だって必要な事なのだ。ただ、否定はしないでおこうか。我輩はそれぞれの価値観に口を出す程自惚れちゃいないのでな」
「…」
『覇』という文字を証として手の甲に刻まれた者は身体能力は爆発的に上がり、今までの努力をすべて否定するかの様に膨大な力を得る。誰にでも起こり得る覚醒反応ではあるものの皆が其々強い意志を持って感情を超えていった。その先に得たものなのだ。だからこそ精神的にも英雄に相応しい。
歴代の英雄たちはみんなその強靭な精神と鋼の肉体を持った戦士だった。そして英雄らしく世界の為に朽ちていった。そんな英雄にあこがれて僕も戦い続けた。唯一の家族を守るためにも。ただ振り返って歩いてきた道を見てもそこに力はなかった。あるのは過程で得た名声だけだった。
英雄並みの活躍をする僕は名誉英雄となった。文字通り名誉なことなのだろうが、僕にはそれが成長に蓋をされたように感じて屈辱だった。いつだって力を渇望していた。多くの者を守るためにはまだまだ足りないんだ。
「血反吐を吐いて己を食んで屈辱を抱いて生死を彷徨うのも全て『其処』に辿り着くまでの過程だ。お前に適う者がいないかどうか、確認してみればいいじゃないか…そうやって遊んでないで、さ。」
「言うねえ。」
言い放った瞬間再び重い拳が飛んでくる。今度は顔面で受け止めて顎が砕けて幾つか歯が抜けて唇が垂れ下がり、耳元まで口が裂けてしまう。そんな状況でウィーズは笑みを浮かべる。ボルボロスが理由を考える前にウィーズの全身に稲妻が走った。
「よく視認しろ」
そう言った直後、宙に舞った血液を青い電流が流れて飛び散った歯に伝う。そしてその歯はボルボロスの胸を集中的に貫き、向こう側が見える程大きな風穴が出来た。ただし血が噴き出すことはない。
「…わざと殴らせたのか。それより…今まで血液にエネルギーを伝わせて操る使い手なんて聞いたことがない。つい、見入ってしまった」
「誰よりも近くで僕より強い人たちを見てきた。血眼でずっと観察していた。工夫の仕方を僕はよく知ってる。お前たちのような能力を過信して戦い続けるような奴と違って無能力者はお前たちを敵に回す時、工夫して工夫して突破口を見つけるんだ。そして見つけた、感じたんだ。桁外れのパワーを持っているくせに…屈強な肉体を持っているくせに…随分軽いなって。」
その言葉を聞いた途端ボルボロスは距離を取り、風穴に手を触れると血も出なかった傷口は塞がっていった。
「必死こいて作った隙に放った死力の攻撃だったんだけど。どうやら僕は泥人形を相手していたようだな。」
「ははは、思い過ごしじゃないかな」
「人間の身体はあの程度の衝撃で宙に浮けるほど軽くないんだよ。」
「…我輩は用心深いのでな。」
「まあ、そう言うだろうと思ったよ。」
情報通りボルボロスは相当用心深く、敗北を許さない。はっきり言えばリアナやオーファンを使わずとも余裕で王都を陥落することは可能だった。それをしなかったのは今みたいに僕やアース、ミーナ等のイレギュラーの存在を警戒したからだ。それを阻止されて尚作戦を続行する意味も理解できる。
「お前の能力は自分の増殖か。」
「さあ?それはお前が確かめればいいじゃないか英雄。」
こいつは間違いなくダミーの泥人形だ。ステンレスのレーダーに複数人引っかかったのはこれが原因だろう。多分こいつの性格上、王都の構造は完璧に理解している。既に王都は囲われていて、もはや逃げる事が不可能とまで来ている。ダミー一人一人がこの強さだと…戦うのは現実的ではない。かならずこの能力にも弱点はある筈なんだ…例えば本体を倒せば消えるとか…。
「ひとつ混乱させることを教えておこうか、英雄。お前が必死に脳で考えているところ悪いが我輩が本体だ。通称泥人形こと大地の王兼正真正銘、祖たる神のボルボロスだ。」




