第二章 91 ボルボロス・トゥ・タイタン 1
12/24 寝る前に書いた故誤字脱字多かったので訂正しました
オークション会場での死闘のおよそ二時間前、同時進行でミーナや屋敷の召使たちは総勢で入口側から強制的に避難を進行しはじめている。ステラは作戦開始後すぐにリアナの両手を削ぎ、鎮痛薬を打ちながら尋問を行い、対ボルボロスとしてウィーズと共にステンレスは音爆弾を発動して王都の入口前に立って索敵を開始していた。
「っ…結構しんどいな」
ステンレスの横に立ち、耳を塞いではいたものの視界はぐにゃりと歪な形へと変えて頭痛を引き起こす。敵味方問わず範囲内の全ての人に平等に与えられるこの感覚。僕には祖の神がどう世界を見ているのか分からないが今は信用するしかない。
「そう敵対的な目を向けるな。俺が味方に付いた時点で勝利への道はより分厚くなった筈だ」
「…僕らがあなた方にそういう目を向けるようになった原因を考えた事はあるかい?」
「そうやって俺含め祖の神をまとめて見るのは危うい考えだな。其々やるべき目的があるだけだ。俺もボルボロスも過程も最終目的も違うのだ。」
ウィーズの皮肉を軽く流す。ステンレスは額から汗を流して遠くの方をじっと見つめる。もう既に探知に引っかかる程近くに来ても可笑しくない筈なのだ。周りに反響を手助けする物はなくとも雨上がりの泥濘の大地を歩くのに音は必ず出る。
「…避難をしているのにヤケに静かだね。」
「安心しろ名誉英雄。探知ではちゃんと避難はしている。(プランA上の話だがな)」
アースの未来を信じるならば必ず此方側の方向からボルボロスはやってくる。こちら側の作戦が全く筒抜けでない事はリアナとオーファンの行動によって既に確信している。もし直前に探知に引っかからない所から侵入するにしても存在を認知できるのは俺だけじゃない。アースが探知した場合は何らかの方法で連絡をよこす筈だ。
…そうなのだが…未来での予定時刻を大幅に過ぎている。もう王都内に侵入していても可笑しくない時間帯なのだ。ボルボロスが臆病だという話は聞かされた。解釈は人によって全く違うものになるが『慎重である』という事に関しては共通している。
もしかしたらボルボロスは攻め込んでこない可能性がある。本人の力がどれほどのものなのか見当もつかないが相当な実力を持っていないと俺なら乗り込まない。
「…もしかしてボルボロスはもう来ないんじゃ…」
同じ考えを巡らせていたウィーズがそう口を開いた瞬間に聞きたくもなかった音が何重にも重なって聞こえてくる。
「…来たぞ。」
ステンレスが報告すると即座にウィーズは細い剣を模ったしなやかなゴム製の剣を構える。深呼吸をして呼吸を整えて死闘を始める準備をする。
「…腐っても英雄か。名誉というから使えないと思ったのだがエネルギーを使えるのか。」
「え、知ってるのか?」
「勿論だ、俺が何年この世に生きてると思ってる。祖の神ステンレスだぞ。」
「ああ…そうか、祖の神…だったな」
ステンレスの報告から数秒経つが未だに姿が見えない。ウィーズはステンレスの視線を追い、懸命に探すが視線の先が定まらない事に不安を覚える。
「…もう一度、探知を使う。耳を塞げ。」
「…了解」
ステンレスの合図とともに再び世界は揺れ動く。その探知を使用してから視線を向ける方向がある程度定まって来た。ただし一転方向ではない事にウィーズの不安は的中する。
「やはり勘違いなどではない。3人いる。正面と右側と左側だ。どれがボルボロスなのか…分からないが。」
「この用意周到さに仲間を二人連れてきたっていうのか…やけに遅かったのはそのせいか…。ステンレス、無線機で連絡を。」
「もうやってある。避難を急かし、応戦できる主力も呼んだ。お前は依然変わりなく相手する最優先はボルボロスだ。」
そうして緊張感が高まってきた所で正面方向から人影が現れる。月明りに照らされ、短髪の茶色い髪が揺れる。丁度180cm位の背丈にアースと同等の筋肉質な肉体を持つ。
絵に起こすととても祖の神とは思えない面をしているがこう自らの目で相対すると分かる。人間とは全く別物であるという雰囲気を纏い、圧倒的な戦闘力を披露するかのように長ズボンを履いたまま上半身は裸になって整えられた筋肉と古傷一つとない無傷の身体を見せつける。数多の戦いを超えた歴戦の祖の神が、今現在の時点まで無傷で残っているのだと知らしめる為に。
そうして裸足のまま泥濘の上を歩く。体重や重力に反して全く沈まずに此方へと向かってくる。やがて互いに顔を見える位置までくると足を止めた。
「間違いない、ボルボロスだ…。ウィーズ…ここは任せたぞ…!」
「…分かった。」
ステンレスは他二人の対処をする為に壁を伝ってこの場を離れる。ボルボロスはそれを追い掛けようともせず、ジッとウィーズを見つめる。
「僕の顔になにかついてるのかよボルボロス。」
「…お前が我輩の相手をするのか。見たところ英雄か、空欄も味方をしているからこんなに迅速な対応が出来ている訳か…。」
こちらに攻撃を仕掛けようともせずただ突っ立っているボルボロスの裏に回り、ゴム製の剣に青いエネルギーを纏わせて体を一刀両断する。手ごたえはあった、躱された訳でも頑丈な肉体に剣が折れて剣先が遠くへ飛んでいったわけでもない。だがボルボロスの身体を切り付けることなどできなかった。
目を見開いて瞬きもせず見続けていなければ一秒以下の世界で起こった奇妙な事柄を理解することなど到底できはしないだろう。ウィーズはその眼で振った剣が瞬間的に液状化して瞬く間に気化していったのを見てこれが能力なのだと理解した。
「一つ教えておこうか名誉英雄。」
ウィーズの攻撃中に振り上げていた拳を右肩へと振り下ろす動作を認識した。だがこの図体からは想像もできない速度で拳は体へと降り落ちる。まるで隕石が落とされたかのような轟音と共に衝撃波が生まれ、ぬかるんだ大地がうねりクレーターが生まれる。ウィーズは衝撃で何度も地面に叩きつけられて100m先に飛ばされてしまった。
それなのになぜか一秒も経たずにボルボロスは目の前に立っている。ウィーズは呼吸を荒くしながら窪んだ右肩を抑える。そんなウィーズを不敵に見つめ、さっきの言葉の続きを吐き捨てる。
「お前が実力の伴う猛者だろうが、称えられた名誉英雄だろうが、この母なる大地に立っている以上この、ボルボロス・トゥ・タイタンに適う者はいないのだ」




