死にたくないと叫ぶ青年
「た、助けてください・・・」
静まり返った広間に、助けを求める声が響きます。
「大石君でしたか?」
「そうです」
そこには、アイと一緒にいたはずの、大石君が、よろけながら姿を見せました。
「もう1人は?」
「解りません。気がついたら1人でした」
アイは、先程1人でここから姿を消しました。もう1人は、まだ館の中にいるのでしょう。
「それで、私に助けを求めるのですか?」
「お願いします。助けてください」
「何故?」
「同じ、異世界人じゃないですか」
「吉良さんを、見殺しにしたのに?」
「それは、違います。俺も、騙されていたんです。それに、あの子は死んでいなはずです」
「何故、そう思うのです?」
「俺の能力に、過去を見る力があります。サイコメトリっぽい能力です。それで、これを見ました」
彼は、手のひらを広げて、そこにある髪の毛を見せます。
「それは?」
「あの髪の毛だと思ったのですが、違いました」
「なるほど、何を見ました?」
「何も見えません。少なくとも、俺の能力以上の力がこれには宿っています」
「勘違いではないのですか?」
「そう思いたいです。でも、何も見えないというのは、今まで無かったから、強い力を持った人がいることには、違いないはずです」
「それが、私だと?」
「そうです。今の戦闘も見ていました。あれだけ出来るなら、俺を助けてください」
「今のは、無意識での暴走ですよ。私も、気がついたらここにいました」
「・・・」
「それに、助けてとは、誰から助けろというのですか?」
「この国の連中です。こいつら、ろくな事を考えていません」
「この国から、逃げるつもりですか?」
「それが出来るなら、そうしたいです」
「どうしても?」
「はい。俺はまだ死にたくありません」
「それは、私も同じですよ。誰だって、死にたくは無いはずです」
「せっかく、次を手に入れたんです。こんな所で、終りたくないです!」
「次?」
「前世の記憶と言うのを、信じますか?」
「あるかもしれない、程度には、信じています」
「この世界に来て、過去を見る能力を手に入れて、興味本位で前世が見られるか、試してみたのです」
「見れたのですか?」
「今の俺と、同じ名前の武士が、前世だったみたいです」
「なるほど・・・」
「信じてもらえますか?」
「信じられませんね。名前から、何かの情報を引っ張ったのでは?」
「それでもかまいません。彼の記憶の最後は、死にたく無いという強い念でした」
「それは、おかしいですね」
「何故ですか?」
「言い伝えだと、彼は切腹を命じられるまで、堂々とした振る舞いで、凛として切腹に挑んだはずです」
「物語と、現実は違います」
「それは、そうでしょう」
「大石良金は、切腹ではなく、将軍様に処刑されたんです。殿と同じですよ・・・」
「なるほど」
「驚かないのですか?」
「忠臣蔵は、色々と可能性を考えた事ありますからね。地元ですし、普段はありえない可能性もあるのかなと思っていました」
「そうですか」
「君の見た光景も、可能性の一つでしょう」
「俺の言うことを、疑っているのですか?」
「異世界があって、平行世界があることを、私は知りました。この時点、貴方が見た過去と言うのも、一つの可能性でしょう。貴方の中では、そう言う歴史だったという事です」
「・・・」
「この場合、私の考えた事も、ある意味可能性の一つだったかもしれませんね」
「どんな事を、考えていたのですか?」
「色々とありますよ」
火消しの式を取っていた浅野家。吉良家の屋敷を、全焼させたのに、お咎めなし。これを恨んで対立と言う説もありますが、逆といえば、吉良家が罪を問わなかったから、浅野家は恩を感じる立場です。
それなのに、吉良様に切りつけるとは、しかも、大事な式典の最中に後ろからと言う卑劣きわまる所業。
普段の行いも、色々と悪かったという情報が残っています。
それなのに、悲劇の主人公扱いなのは何故なのか?
「結局、46人もの人間が、切腹したのが決めてなんでしょうね」
「そうですね。忠義の人が、これだけいたから悪人ではないと考える人が多い気がします」
「やった事だけを見れば、そうはお思えませんけどね」
「時系列を、後ろから見ると、そうなりますね」
「特に、若い少年とも言える人物までその命を散らしていますからね」
「・・・」
「理由とか、解らない事が多すぎるから、その辺は一度じっくり話し合いたいですね」
「え?」
「ここで終わりですと、知りたい事が解りませんと言うことですよ」
それを聞いて、その意味を理解した彼は、私に抱きついてきました。
「私に、そっちの趣味は無いですけど?」
振り払おうとしても、しっかりを抱きつかれて、振り払えません。
「俺にだって、そんな趣味は無いです。何故、どうしてだ!」
恨みを込めて、叫んだ先には、もう1人の異世界人が立っていました。
「どうして?せっかくのチャンス、俺が自由になるために、使うだけですよ」
そう言いながら、浅野は足元に魔法陣を展開します。
「お前たちは知らないだろうが、俺たちの体の中に、結構危険な爆弾が仕込まれています」
「え?」
どうやら、大石は気づいていなかったみたいです。
「知っていますよ。だから、大人しくしていました」
「おっさんは、利口ですね。俺は、大人しくするつもりはありません」
魔法陣から、光が溢れます。
「抽出」
浅野は、光に包まれます。
「これは、体の中の不純物を取り除く魔法です。俺は自在に能力を作れる能力者です。これを使えば・・・」
そこまで言って、彼の動きが止まります。
「な、なんで?」
「失敗しましたか」
「嘘でしょう?」
不自然な量の汗が、体中から流れ出ています。
「ちょっと、待て、高速思考発動!!」
何をしようとしたのか不明ですが、失敗したみたいです。何のテストもせずに、自分で試すとは、おろかとしかいえません。
「こんな、はずでは・・・」
高速思考といっていたので、彼の体感時間は、かなり過ぎているはずです。
「まだ、死にた、く・・・な、い」
考える事は、みんな同じでしょう。でも、もう取り返しがつかない状況になっています。
この手の人間は、悪あがきに道連れを求めるものです。
「私も、死にたく無いですからね」
この子の毒針の場所が、おなかの中で助かりました。心臓や頭だと、再生できるか難しい所ですからね。
事前に、異世界人全員の毒針の場所は調べてあります。1人だけ確認できませんでしたが、後は確認済です。
「左手は、改造してあるのですよ」
以前腕を切り落とされたとき、再生した腕を改造しました。自分の体を改造するというのは、勇気が要りましたが、この場で役に立ちました。
私が少し魔力を込めると、強度が増し、簡単に大石の体を突き破ります。
「え?」
彼は、驚き表情で私を見ます。
「お前たちも、道連れにしてやる。魔法陣展開!お前たちは。爆発しろ、こんなふざけた世界ごと、壊れてしまえ!!」
それと同時に、浅野が叫びます。彼は、こちらの状況に気づいていません。
「砕け散れ、飛び散れ、みんな星になってしまえぇぇぇ!!」
彼の魔法陣が完成します。次の瞬間、私の手のひらが燃えるように暑熱くなります。手の中の毒針に、魔力が集まり、爆発寸前です。
「・・・」
その結果を見届ける前に、浅野は事切れてしまいました。毒針を強制的に排除しようとすると、毒物が体を駆け巡るようです。それを解除する時間は、彼には無かったみたいです。
協力すれば、助けられたかもしれませんが、大石に抱きつかれた状態では、それは無理でした。結局、彼のしたことが裏目に出たのです。
ちなみに、浅野が展開した魔法陣は3つ。今目の前には4つの魔法陣が展開しています。
「た、助けて・・・」
「助けると、言ったことを信じてください」
次の瞬間、毒針が爆発します。
周辺の魔力を集め、かなりの規模の爆発が起きました。
魔力を集める魔法陣、毒針を排除する魔法陣、爆発の魔法陣が、彼の用意したものでした。
「こんな所ですか・・・」
爆破地が消えた中心部には、ボロボロの状態の私が1人立っていました。
館の中から監視していた存在は、爆発が起きて、最後に私がいたという風に見えているはずです。
大石の体を貫いたとき、虐殺者の死角にいたので、見られる事はありません。
虐殺者は、爆発の影響で破損した状態になっています。
浅野は、木っ端微塵に消えてしまいました。
そして私は、事前ポーションのおかげで、次の瞬間大怪我から回復しました。
「ここまで、効力があるなんてね・・・」
姿を消したはずの、アイが現れました。
「私達の為に、これを量産しなさい」
不思議な言葉で、私のを、心を支配します。
「けきょ?」
しかし、既に私の心は、度重なる出来事で、壊れてしまったのです。
「あら、精神が死んでしまったの?、まぁ、それでも使えるから問題ないですよ」
壊れた私を、アイは部屋に連れて行きます。
爆発の影響で、館は炎上しています。
不自然なほど燃え上がる炎。
賢者の国の、異世界人の館は、この日燃えてなくなりました。
残った塔で、狂った正義は、ポーションを作っています。
召喚されて、一年間が過ぎるまで、彼はこの作業を続けます。
表向きは、そうなっています。
作戦は、成功しました。
なので、次の段階に進めます。
手加減をする必要はありません。
次の作戦を開始しましょう。
3日に1度のペースで更新予定です。
アルファポリスさんでも投降しています。
オーバーラップWEB小説大賞に、応募してみました。
第7回ネット小説大賞に参加中です。




