VS 鼠使い その4
「酷い目にあったよ・・・」
再生された右腕に、十色を抱きながら部屋に戻る。最近は、こうやって抱っこすることを許されている。
「部屋の前に、誰かいるにゃ」
「アイさんだろうな」
十色は、猫にした三姉妹と念話が出来る。三姉妹から、部屋の前に人がいると連絡を受けたみたいだ。
「先程のことを、見ていたんだろうね」
「どうするにゃ?」
「せっかくだから、話を聞いてみましょう」
事前に、色々と考える時間があるというのは、かなり助かります。先程のことを覗き見していたら、接触してくると思いましたが、予想よりも早いです。
部屋に戻ると、アイさんが予想通り立っていました。話しがあるということで、応接間まで来て欲しいとの事。十色を部屋に入れて、私は1人で応接間に向かいました。異世界人の館で、外の人間がきたときに使う部屋で、そこには国の大臣の1人がいました。
「私は、この国の国防大臣をしてくるヤノツだ」
「異世界人の、刈谷です」
「君が、この事前ポーションの作者と言うのは、本当か?」
このヤノツという人物、結構高圧的な態度です。この国の連中は、駄目な人が多いのでしょうか?
「そうですが、どうかしましたか?」
「この薬の効果が優れているのは、色々と報告がある。だが、欠損部位を再生したと言う報告は無い」
「説明書に、欠損部位の再生は出来ませんと、書いておいたと思いますが?」
「君は、先程欠損部位を再生したと聞いているのだが?」
「どなたから、聞いたのでしょうか?」
「そんなことは、どうでもいい」
「どうでも良くは、ありませんよ」
「何だと!」
これくらいで、感情も乱して怒るなんて、大丈夫なのでしょうか?
「私は、先程この館の中で謎の人物に襲われました。それを、誰かが見ていたのですよね?」
「そうだ」
「では、なぜ助けてくれなかったのでしょうか?」
「・・・」
「私は、戦闘は素人です。現に、気づいたら右腕を失ってしまいました。その後も、殺されそうになりましたが、誰も助けに来ませんでした。それ以前に、暗殺者が入り込んでいるこの館は安全でしょうか?」
「襲撃者に関しては、現在調査中だ。館の守備に関しては、これから増員する」
「助けがこなかったことに関しては?」
「たまたま見たのは、戦闘能力の無い人物だ。急いで助けを呼ぼうとしたら、爆発があったと報告を受けている」
「偶然見ただけですか?」
「それが何か?」
「何か、監視されていたみたいで、この世界の人から見て、私達居世界人はどういう扱いなのでしょうか?」
「異世界人は、異世界人だ」
「・・・」
「とにかく、君は欠損部位を治せる薬が作れるのか?」
「作れませんよ」
「実際、治っているのに?」
「私の場合は、試作品で、副作用の危険のあるものを飲んだだけです」
「副作用があってもいいので、作ることは可能なのか?」
「無理ですね。そんな危険な物を、提供できません」
「私が、命令してもかね?」
「あなたの権限が、どの程度のことなのか、私にはわかりません。強引に脅すというのなら、交渉は決裂ですが?」
「取引したいと言うことかな?」
「なぜそうなるか、理解できません。副作用がある薬を売るなんて、出来ないと言うことです。時間をかけて研究すれば、可能かもしれませんが、色々と不足している物があります」
「何が不足している?」
「知識ですね。この世界の魔法の知識が必要です。図書館みたいなものは、無いのでしょうか?」
「必要なのは、それだけか?」
「後は、実験材料ですね。この世界の人間で、効果を確かめたいのですが、私の能力ですと、実験後に死んでしまう可能性があります」
「それがあれば、可能なのか?」
「時間がかかると思いますが・・・」
「わかった。図書館に関しては、利用を許可しよう。この館から見える、塔の一つが図書館の役目を果たしている。そこの出入りを許可しよう」
「いいのですか?」
「それだけの価値が、あの薬にある。実験体も、用意しよう。後で、そちらの部屋に届けよう」
そう言って、ヤノツは部屋から出て行ってしまった。
協力するとは、言っていないのだが、図書館に入れるのは正直嬉しい。魔法よりも、この世界のことを色々と知りたい。知らないことで、損をしたり命を落とす可能性もある。
極端な話、降伏の合図が、白い旗ではなかったというだけで、全面戦争になった挙句、文明消滅ということは防ぎたい。
部屋に戻り、研究室へと入る。十色たちと、ヤノツとの会話の事を相談する。
「人体実験するのですか?」
「連れてきた人しだいですかね」
「主任、もうその人来たみたいです」
「早いな・・・」
にぃの報告を受け、私は研究室から外に出る。部屋の外に、アイさんと見知らぬ少女が立っていた。
その子の格好が、かなり特殊で、一瞬引いてしまいました。
身長は勇気と同じぐらいで、まだ子供と言える外見です。長い銀色の髪が、かなりぼさぼさとしていて、あまり良い境遇にいたとは思えません。目の部分に、包帯を巻いていて、目が見える状態では在りません。それも、普通の包帯ではなく、魔方陣が書き込んである、不思議な包帯をしています。
「この子は?」
「罪人です。生きている価値の無い子なので、実験に使うようにと、ヤノツ様が提供されました」
「こんな小さな子が、どんな罪を?」
「この子は、直接は何もしていません。この子の身内が、任務を失敗した挙句、仲間の命を奪いました」
「それが、この子の罪になるの?」
「そうですが?」
この辺の常識は、私たちの世界とは違うのだろう。アイさんは、この事に何の疑問を感じていない。ここで言い争っても時間の無駄なので、一応この子を引き取って、私は部屋の中に戻る。いつもなら、少しでも中の様子を確認しようとするアイさんが、すぐに立ち去っていく。その事に、違和感を感じる。
「さて、どうるするべきかな・・・」
いっそ、この子も猫にしてもらおうかと思っていると、研究室から十色と三姉妹が飛び出してきた。
「主任、その子から、離れてください」
三姉妹たちは、私と女の子の間に入り込み、私を守るように立ち塞ぐ。
「少し、痛いけど、許しは請わないにゃ!」
十色が、魔力を肉球に込めている。この子は、やはり訳ありなのだろう。
「私にできる事は?」
「絶対に目を見ないでくさい!」
にぃが、危機感をにじませてそう叫ぶ。包帯をしているので、目は見えないはずなのに、それを注意するということは、魔眼の持ち主なのかもしれない、
「精神攻撃?」
「包帯は、ダミーです。この子、目を見なくても能力使えそうです」
さんの、推理は予知に通じる。目を見なくても、発動する魔眼だと、かなり厄介です。
「保険をかけておいて、良かったですね」
魔力を通す事で、私の体に激痛が走る。先程から、体が上手く動かない。アイさんが立ち去ったときに、感じた違和感。この子、無意識で何かを発動していた可能性を考えました。
精神系の攻撃は、強い意思があれば防げますが、残念ながら、私にそれがあるとは思っていません。
流されるように生きてきた、弱いおじさんです。だから、抵抗する事をやめ、別の手段を考えていました。
眠気を、強制的に取り去る荒業。何かに支配されそうなら、強烈な痛みでショックを与えれば何とかなるかも知れません。そう考えて、私自身をゼッフル君で包みました。威力は、調整しておきました。死なない程度の、火力で爆発する設定。
「着火!」
魔力を流した瞬間、全身を激痛が襲う。その瞬間、体の中にあった何かが吹き飛んでいくのがわかった。
「無茶しすぎだにゃ!」
十色が文句を言うが、余裕が無かったので仕方ない。
「安らかに、眠るにゃ!!」
文句を言いながらでも、十色は魔法を作り上げていた。光る肉球が、その女の子のおでこに触れた瞬間、糸の切れた操り人形のように、そのこは倒れた。
「殺したのか?」
「この子は、これくらいでは死なないにゃ」
「知っているのか?}
「にぃ達から、話を聞いたにゃ。この国の、一級危険人物で、鼠使いの妹にゃ」
「一級危険人物?」
「特殊な能力の持ち主で、国に管理されている一人です」
「メリアムちゃん、諜報部の切り札なんですが・・・」
「まさか、ここに来るとは思いませんでした」
「そんなに、危険な子なのか?」
「自分の意思を封じられています。操り人形で、上の命令を聞くだけの、悲しい子です」
「力の強い子は、苦労するにゃ」
「苦労?」
「取りあえず、仮死状態にしたにゃ」
「ご苦労様」
「刈谷さんも、早くその格好を何とかするにゃ」
「これは、失礼しました」
直接自分を爆破したので、服がぼろぼろになってしまってます。怪我は、事前ポーションのおかげで、回復しています。
「後のことを考えると、大変ですが、取りあえずこの子も連れて行きましょう」
仮死状態となっていて、身動きしない女の子を抱え上げ、私たちは研究室へと戻るのでした。
3日後との更新予定です。
アルファポリスさんにも投稿してみました。




