VS 鼠使い その3
「助かりました」
「どういたしまして・・・」
取り出した小瓶全てに、魔力を阻止でもらった。彼女の魔力は、とんでもない量だった。一度で全部出来ると思っていなかったので、とても助かった。
「刈谷さんは、これからどうするんつもりですか?」
「これからですか?」
「今の状況を、どう感じています?」
「取り合えず、異世界を楽しもうかと。まだ、街に行っていないので、出来れば街を散歩したいです」
「この国の人を、どう思っています?
「ご飯は美味しいので、取りあえず悪い人ではないかなと」
心に無いことを言ってみる。ただ、言いながらこの状況を考える。伊藤さんは、この世界の人を疑っているのだろう。こちらの手の内を明かしてもいいが、諜報部の存在が邪魔をしている。この場所は、盗聴されている。それを何とかしないと、話は出来ない。
「協力、ありがとうございました。これだけ薬があれば、多くの猫が救われます」
「そうですか」
取りあえず、この場はこれで話を終える。協力できそうだから、何とかして連絡手段を考えよう。
そう思いながら、私はこの場から離れるのだった。
「魔力開放、防音、光変幻、風景遮断!」
彼女がそう唱えると、食堂全体に結界が展開された。これで、この中の出来事は、外に漏れることは無い。
「出てきて下さい」
伊藤さんがそういうと、彼女の影の中から二人の男の子が姿を現した。彼女の同級生、大地と天馬の二人だ。
「あのおっさんは、使えそうか?」
「ロリコンは、死すべし」
「あの人、ロリコンではないと思うと。羨ましいけど・・・」
「相変わらず、紗枝は子供好きなんだな」
「ちょっと、危険な子供隙は、こっちだよな・・・」
大地と天馬は、同級生で仲がいいコンビだった。アニメ好きで、周りからオタク扱いされていたが、運動部で好成績を出していたので、嫌われ者ではなかった。
紗枝は、大地と幼馴染で、その縁で天馬とも仲が良くなった。その3人が異世界に召喚されていたのだが、現時点で致命的な出来事が起きていた。
「あのおっさんに、紗枝を任せるのは少し不安だな」
「少し、俺たちで試しても言いか?」
「・・・」
「大丈夫、ここにいられるあいだは、俺たちが守る」
「もしかしたら、蘇生薬が何処かにあるかもしれない」
「うん」
召喚直後、魔法大全という能力を得た紗枝は、色々と実験をしていた。その過程で、体の中になにやら危険な物が埋め込まれているのに気づいた。
それを二人に相談した所、彼等は側にいたメイドに問い詰めたのだった。その直後、体の中の不純物、毒針が作動して、二人は死んでしまった。
紗枝の魔法大全には、死者蘇生の魔法は無かった。この世界に存在する全ての魔法が使える能力だけに、それが無いということに、彼女は絶望した。
死者を使役する魔法があったので、それを使いかりそめの時間を作ることには成功した。彼女は、国と取引をして、果て無き迷宮で、巨大な魔石を提供することで、命を繋いでいる。命令に逆らえば、死ぬだけ。
念入りに監視されているが、その状況で、何とか生き残る方法を探している。
「あの薬を、奪ってもらえませんか?」
「今の薬か?」
「はいあればあれば、この世界の人も救われます。こんな世界の人を、1人でも助ける必要はありません」
「あれは、猫用といっていたぞ?」
「猫だけなら、あれほどの魔力は要りません。私の魔力で、この世界の人が救われるなんて、許せない・・・」
彼女は、何かを、ぐっと堪えている。
「わかったよ。俺が行こう」
「お願いします」
大地は、剣道部のエースだった。剣術系のスキルを持っていた。紗枝の護衛で、迷宮で剣士として戦っている。
二人を、死霊魔術で使役していることは、国の人間は知っている。死因を他の異世界人に知られるとまずいので、逆に助かっているのが現状だった。
「俺も行こうか?」
「二人で行動すれば、怪しまれる。ここは、俺が1人で反異世界人同盟のふりをして、襲うとしよう」
「それがいいか。あのおっさんが、危機感を抱くきっかけになると良いかもな」
「確かに、そうだな・・・」
「なるほど、なかなか複雑な事情が、向こうにはあるみたいですね・・・」
食堂から戻る途中、中庭で猫たちと戯れながら、あの後の出来事を覗き見している。
バギーは、存在を見破られたので、そこに残してはいない。魔力が多いということは、魔力制御や、感知に優れていると思ったので、あえてバギーを見つけされることで、もう一つの仕掛けの存在を、隠すことに成功した。
あの場所の死角に、複製したスマホが隠してある。そこから、音声と映像を、こちらで受信していた。
「肉球魔法に、死者組成は出来ますか?」
「むりだにゃ。でも、猫にすることは可能だにゃ」
「よく考えると、この魔法はとんでもないですよね・・・」
「この世界は、不安定にゃ。猫になっても、徳を集めれば猫人に進化できるにゃ」
「けもみみですか?」
「けもみみにゃ。私も、猫鎧参型が出来たら、迷宮に行くにゃ」
「参型、まだ先ですよ?」
「すぐ作るにゃ」
「猫人になりたいのですか?」
「そうにゃ!」
そんなやり取りをしながら、部屋に戻る。ちなみに、十色の声はニャーとしか他の人には聞こえない。
そろそろ、来るかなと思った瞬間、右腕に激痛が走った。
「ぎゃぁ!」
とっさに、腕お押さえると、ひじから先が切り取られていた。
「な。何者だ!」
切り取られた俺の腕を持つ、謎の男に向かって、叫んでみる。
「異世界人に、死を!」
某黒の騎士団の人が付けているような仮面の男が、そう言いながら、切りつけてくる。
「っく」
それを、必死に回避する。最初の一撃以外は、手加減されているのがわかる。右腕には、魔法の籠手が装備してあり、薬はその中に入っている。
「異世界人に、恨みがあるのか?」
「世界に混乱をもたらした異世界人は、危険だ」
「ここには、どうやって入ってきた?」
「同士は、何処にでもいる」
実際、この館にいるスタッフの半分以上が、反異世界人の思想を持っている。このことを、仮面の騎士は知っているのだろうか?
「悪いけど、私は死ぬわけにはいきませんから・・・」
戦うことは、苦手というか、私には向いていない。このままでは、何も解決しない。
「さて、これはどうでしょう?」
「えっ?」
一瞬で、私の右腕が元に戻る。ただし、装備品はそこに無い。
「私の飲んでいる事前ポーションは、特別ですからね」
危険は配合だけど、腕ぐらいなら再生が可能という、恐ろしい効果がある。
「もう一つ、手品を見せましょう」
廊下に広がるように、ゼッフル君を展開する。今回は、サービスで色がついている。
「これに触れると、爆発しますよ」
「・・・」
危険に気づいたのか、仮面の騎士が距離をとる。
「私は、戦闘は苦手ですからね。逃げるとします」
そう言って、自分の部屋に向かって逃げ出す。
「逃がす」
かという前に、ゼッフル君が光を放つ。絶妙なタイミングで、仮面の騎士を避けて爆発が起きる。
「・・・」
光が収まった後には、何も無かったかのような静けさが広がっていた。
「あのおっさん、只者ではなかった・・・」
食堂に戻った大地は、そうつぶやいた。
「これは?」
「お土産」
中身入りの、魔法の籠手をテーブルの上に置く。
「これ、手がついてるじゃないか!」
天馬が非難するが、大地は、それを無視した。少なくとも、この国のためになりそうな存在を、許す気はない。
「手を切っても、あのおっさん、また生えてきたぞ。どんな能力を持っているんだ?」
「蜥蜴人間とでも言うのか?」
「わからない。とにかく、様子を見るしかないな」
「そうしましょう」
この国への恨みから、この時三人は冷静な行動ができていなかった。
少しでも、冷静だったら、魔法の籠手に隠されたメッセージに気づいたかもしれない。
彼女達が気づかなかったことで、正義たちとの合流は遅れることになる。
その結果、ある悲劇が起きたのだが、そのことを、まだ誰も知らない。
タイトルに偽りありの鼠使い編は、次で終る予定です。
3日に一度のペースで更新予定。
アルファポリスさんでも投稿しています。




