表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵夫婦は両想い  作者: 三国司


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/24

18

 翌日の昼過ぎ、ヴィンセントは国王ルードルフの私室に来ていた。昼食を食べた後、ピチカの可愛い顔や声を思い出して元気を得ながら午後の仕事に取りかかろうとしたところで呼び出しを受けたのだ。


 ヴィンセントの隣では、一緒に呼び出しを受けたアルカンが不機嫌そうな顔をして立っている。ヴィンセントの横にいるのが嫌なようだ。

 また、部屋には他にも騎士団の隊長たちが三人いた。いずれもルードルフの信頼厚い年かさの司令官たちだ。騎士団と言いつつ、所属している者の多くはデオのような『兵士』だが、この三人くらい偉くなると一代限りの爵位をもらって『騎士』と呼ばれるようになる。


 ルードルフは窓際のテーブルに座って一人チェスをしていて、ヴィンセントたちが部屋に揃うと、駒を動かしつつ言った。


「アゼスの事だが……奴がぼろを出すのを待ってはいられない。こちらから仕掛けたいのだが、そのためにお前たちの力を借りたい」

「もちろんですとも」


 騎士の三人はすぐに頷いたが、ヴィンセントはアルカンと自分を見てこう尋ね返す。


「魔術師団からは、私たち二人でいいのですか?」

「いや、二人だけでは大変だろうからな、お前たちが信用している部下を何人か選んで手伝わせてくれ。誰が信頼できて誰が優秀か、私よりお前たちの方が知っているだろう」

「いえ、そういう意味ではなく……。他の隊長たちは今回の件に関わらないのですか?」


 魔術師団の隊長の中では、ヴィンセントとアルカンが一番若い。他の隊長たちの方が経験豊富で、ルードルフも信頼を置いているはず。そう思って訊いたのだが、ルードルフはチェスの駒を離すと、苦笑いしてこちらを見た。


「他の隊長たちはもういい年だからな。ジェザーズなんかには声をかけてみたんだが、老眼鏡がないと魔術陣の細かい部分も描けないから、自分の代わりにヴィンセントを推すと言われたよ。実戦には向かなくなってきたらしい」

魔術師団うちの隊長格はジジイばかりですからね。いつまでも引退しやがらないから」


 アルカンはいつもの口の悪さを発揮して、けれど他の隊長たちに親しみを込めてそう言った。


「それにお前たちのような〝我が道を行く〟者の方がこういう場合は信頼できる。お前たち二人は私に媚びを売る事もしないが……アゼスにも到底なびきそうにないしな」


 ルードルフは椅子に座ったまま体をこちらに向けて続ける。


「私や息子が殺される前にアゼスを殺さなければならないが、何かいい案はないか? できれば暗殺ではなく、正当な理由を持って極刑に処したい。奴が私を暗殺しようとしているという証拠をつかめれば一番いいのだが」


 ルードルフの言葉は冷徹だったが、表情には弟を殺さなければならない辛さがわずかに滲み出ていた。自分を暗殺して王座を奪おうとしているような弟でも、多少の情は残っているのだろう。

 

「やはり誰か密偵を潜り込ませるのがいいのでは?」

「しかし何度か試しているが、アゼスに警戒されて何の情報も得られていない」


 騎士二人が言い合う。

 ルードルフも顎に手を当てて考えるように言った。


「アゼスは腕の立つ魔術師を何人か側に置いているだけで、他の人間は自分に近づけさせない。今はそれを表に出していないが、本来は臆病な性格だからな。他人はできるだけ排除したいのだ。昔から母親以外には心を開いていなかったしな……」


 アゼスが側に置いている魔術師たちは多額の金で雇われているようで、一度誘いをかけた事があったが、ルードルフが提示した金額ではこちら側にはなびかなかった。

 また、彼らの性格的にもアゼスに仕える方が合っているようだ。城やアゼスの屋敷に住んで贅沢な暮らしをし、良識を無視して自由に魔術を使い、それで金が貰えるという環境に満足しているらしい。

 考え込むルードルフや騎士たちを見て、ヴィンセントが口を開く。


「ならばその魔術師の一人を捕まえて、代わりに私が変身術を使ってそいつに成りすまし、向こうに潜り込みましょうか?」

「変身術? お前がアゼスの側近の魔術師に姿を変え、アゼスが私を殺そうとしている証拠を掴むという事か?」

「そうです」

「そりゃ無理だろ」


 そこでアルカンが言葉を挟んだ。ヴィンセントに向かって言う。


「変身術はどこかしらに本物との違いが出る。瞳の色が違ったり、鼻の高さが違ったり……。細かいところだが親しい人間には必ず気づかれる」

「いや、私ならほぼ完璧に姿を変えられる」


 ヴィンセントの自信にアルカンはチッと舌打ちすると、こう続けた。


「分かった。なら姿は完璧に変えられるとしても中身はどうだ? 捕まえた魔術師自身の情報、それに仲間の情報なんかは捕まえたそいつに吐かせれば得られるとして、その情報を活かして演技する事ができるか? お前によぉ」


 アルカンに詰め寄られ、下から睨まれて――アルカンの方が背が低いのだ――ヴィンセントは黙り込んだ。確かに自分に演技は難しいと思ったのだ。

 無表情と笑顔という違いはあっても、ヴィンセントと同じく表情が変わらないシリン。そのシリンに変化するよりずっと困難だろう。おまけに騙す相手はその魔術師の事をよく知っているアゼスなので、シリンを知らないピチカを相手にするのとはわけが違う。


「無理そうだ」


 結局ヴィンセントはそう素直に認めたが、ルードルフはこの作戦に興味を持ったようだった。

 

「ヴィンセントが無理ならアルカンはどうだ? できるか?」

「もちろんです」


 アルカンはつんと顎を上げて言うが、次には悔しそうにこう続ける。


「ですが演技はできるとしても、細かい部分まで外見を完璧に変えられるかは分かりません。そもそも変身術を使った事はほとんどないので、少し練習期間が必要です」

「練習期間か。あまりのんびりはしていたくないのだが……。お前たちの部下でこの作戦をこなせそうな者はいるか?」

「うちは防御専門なんで……。補佐官のジュリアは防御以外もできますが、変身術は難しいでしょう。難易度の高い術です。第一隊の奴らなら、変身術を使える者もいるかもしれませんが」


 アルカンはちらりとヴィンセントへ視線を寄越した。アルカンは常に自分の上を行くヴィンセントをライバル視しているし、そのヴィンセントが率いている第一隊の事も嫌っているが、実力は認めているのだ。

 ヴィンセントはルードルフに向かって静かに言う。


「何人かいますが、アルカンより実力がある者は――」


 言いかけて、ヴィンセントは自分のすぐ隣に視線を走らせた。そこに突然、見知らぬ魔術師の男が現れたからだ。


「ッ何者だ!?」


 年を取ってすでに最盛期は越えているものの、騎士たちは素早く反応して剣を抜く。

 ヴィンセントもいつでも魔術を使えるように構え、アルカンに言う。


「アルカン、陛下にシールドを」

「てめぇに言われなくても分かってる!」


 アルカンは急いでルードルフに駆け寄りつつ、精度の高い分厚いシールドを張る。

 

「アゼスに先を越されたか……」

「陛下を狙った刺客という事ですか?」


 厳しい顔をするルードルフにアルカンが言い、次には見知らぬ魔術師の男を睨みつけてこう続けた。


「陛下の前に移動術で一人で現れるなんて大胆な事しやがる。ここにはシールドが常に張ってあるってのに、それをかいくぐって侵入してきたって事は半端な魔術師じゃねぇな」


 

===


 

 ピチカはその日も順調に森の調査の仕事を終え、昼過ぎにはデオたちと別れて帰路に着いた。

 しかし馬車が出発して何十メートルか走ったところで、またすぐに止まってしまう。


「どうしたの?」


 馬車の中からピチカが呼びかけると、馬を操っていた御者が小窓を開けてこう説明する。

 

「子どもが馬車の前を横切ろうとして転んでしまいました。膝を怪我したようなので様子を見てやっても?」

「ええ、もちろん。あ、私の鞄の中に手当ての道具があるわ」


 森で転んだりした時のために持ち歩いていたのだ。ピチカも鞄を持って馬車を降りると、八歳くらいの男の子が馬車の前で膝を気にしている様子で座り込んでいた。


「大丈夫? 膝を見せて」


 御者と一緒に男の子に近づく。男の子は長ズボンを穿いていたが、膝のところは破れたりしておらず、血も出ていないようなのでひとまず安心する。


「危ないから馬車の前に出てきちゃ駄目だろう! 轢いてしまわなくてよかった」


 御者がそう叱ると、男の子はしゅんとしながら言った。


「だって、こうやって馬車を止めたらお金をくれるって、男の人が……」

「男の人?」


 ピチカが不審に思った時、背後でザッと土を踏む音がした。

 何者かが自分に近づいていると気づき、ピチカは危機感を持って後ろを振り向こうとする。今背後にいる人物が、子どもを金で釣って馬車を止めた犯人に違いないと一瞬で判断したからだ。

 そしてこんな事をする目的は限られている。

 馬車を適当に狙ったのなら強盗、そしてピチカが乗っていると分かって狙ったのなら――


「……?」


 自分が狙われる理由を考えつつ背後を確認したが、予想とは違い、そこには誰もいなかった。


「あら? 足音がすぐ近くでしたと思ったのに……」

「ええ、私も誰かが来たのかと思いました」


 ピチカの呟きに御者が答える。狐につままれたような気持ちで、二人して森の側を走る何もない一本道を見る。

 ピチカは男の子の方を見て尋ねた。


「その男の人って、どんな人だった?」

「短い緑の髪の人だよ。あと首に入れ墨がある人と、赤い長い髪の人もいた。ぼくに話しかけてきたのは緑の髪の人だけど」


 緑の髪の人間はかなり珍しいので、ピチカでも一目見れば分かるだろう。もしそんな髪色の男が近づいてきたら用心しなければ。


「ピチカ様、馬車の中にお戻りになってください。ここから離れた方がいい気がします」

「ええ、そうね。そうしましょう」


 いつその三人の男が来るか分からないと、ピチカが馬車に戻ろうとした時だ。

〝王の森〟とは道を挟んで反対側にある小さな林の中から、二人の男が姿を現した。一人は黒髪だが首に入れ墨があり、もう一人は肩まで伸びたウェーブがかった赤い髪をしている。

 服はきちんとしたものを着ているが、二人とも目つきが悪く、善良な一般人ではなさそうだ。それに魔力の気配がする。もしかしたら魔術師かもしれない。


「ピチカ様……」

「動かないで」


 御者は動揺して冷や汗をかいている。ピチカは落ち着いてシールドを張ったが、怪しい男たちには御者と同様恐怖を感じていた。


(私、実戦経験ないのに……)


 魔術師団にいた二年間、敵と交戦した事はない。

 もちろん防御が得意な第五隊の者でも、第一隊の魔術師や他の隊の魔術師、それに兵士たちについて行って、彼らをサポートしつつ悪人や犯罪集団、獣を倒したりする事はある。

 けれどピチカに任されていた仕事は、アルカンや他の第五隊の先輩たちと魔力を合わせて、国王の寝室や私室にシールドを張る事、それに新しいシールドの開発、古の防御魔術の研究、あとは若手なので資料の整理や掃除、それにアルカンのお菓子の買い出しなどで、誰かと戦った経験は演習で仲間を相手にした時しかない。


(でもずっとシールドを張っていれば、とりあえず攻撃は当たらない。大丈夫)


 ピチカは緊張しながらも、神経を研ぎすませてシールドを維持した。

 そして丸い瞳で、近づいてくる二人の男を睨みつける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ