未定
―――はぁっ、はぁっ。
宵闇を駆ける女性、その後ろを追いかける3人の男。
「はっ!」
女性は無我夢中で走っていたがふと、我に返った。この後の顛末がわかってしまったからである。
「ははは、もう逃げられんぞ」
袋小路に迷い込んでしまった女性、その道を塞ぐように囲い込む男の集団。
「ジャーナリストだがなんだが知らんが、知らない方が幸せなことだってあるんだぜ…」
「あ、あなた達は何なの!?」
うろたえながらも強気な姿勢を崩さない女性。
「お前さんが知る必要はない。消えな。」
男が手に取ったナイフが光る―――。
「おいおい、こんなところでお楽しみかよ。」
その声に男は手を止め、振り返る。
スタッ。軽快な足音と共に現れたのは1人の少年。
「おいおいガキがヒーロー気取りかよ。引っ込んでろ。」
「ヒーローなんか気取っちゃいないさ。そのお姉さんに男を教えてもらいたいだけさ。」
「マセやがって!」
男達が一斉に構えた。
「おおっと、おれに立ち向かおうって?いい度胸してるねぇおっさん達。」
「HAHAHA!ガキがなんか言ってやがるぜ!ヤクでもやってんのか?」
男達が一斉に笑い出す。
「こいつぁ傑作だ。派手に殺してやる。」
「喧嘩を買うってことで…いいんだな…?」
少年の雰囲気が少し変わった。
ブツブツ…ブツブツ…、少年はなにかを呟きだした。
「こ、こいつ、本当にヤク中なんじゃねぇか…?」
男達はどよめきだす。
「―――ワードの展開。」
少年の周りを青白く光る文字が舞う。
「な、なんだあ、こりゃあ…」
舞っていた文字が少年の手に集まりだす。
「―――ソードの…形成!」
シャキンッ。少年の手にはナイフが握られていた。
「WordSword、SnipeKnife。」
金色に輝く、鮮やかな短剣だった。
切っ先は見慣れない形をしており、鍔には輪っかの装飾が成されている。
「な…!ぷ、ぷははは!傑作も傑作だ!子供がナイフでおれ達に勝とうってのか!?」
「―――試してみるかい?」
少年は男達に向かい走り出した。
ヒュッ。ヒュッ。子供とは思えない短剣捌きに男達は驚く。
「子供にしてはいい腕だ、が、おれ達はこの道のプロだぜ。」
激しい攻撃も、男はすべて躱す。
攻撃の手が止み、間合いを保ったまま対峙する。
「さあて、次はこっちの番だな。」
男達が少年に向かい、走り出す―――。
ふと、男達は足を止めた。
少年は、まるで両手剣での突きの姿勢を作る如く、両手に短剣を持ち、鍔の輪っかの装飾に目線を合わせ、高い姿勢でこちらを睨んでいる。
「おいおい、中世の騎士にでもなったつもりかよ。確かに姫様はそこにいるがな…。」
「中世の騎士?はは、そんな立派なもんじゃあないさ。」
少年は虚空を突いた―――。
「もっと卑怯で醜いもんだよ。」
「…?何がしてぇんだお前は。」
男が言葉を放った瞬間だった。
―――ドサッ。
「はっ!」
男が1人倒れた。
「な、なにをした!」
「おれが何回ナイフを空振ったか、数えてたか?」
「質問に答えろ!」
「答えは9回、つまりだ。」
また、少年は構えた。
「1人に3発だ。」
ヒュンッ。ヒュンッ。
―――刹那、男は目にした。
目の前の空気が、まるでナイフのような形をしていることを。
ドッ。
「ふぅ。大丈夫だったかい、お姉さん。」