脚本
遅くなりました。
「えっ? 続編? また撮影するんですか?」
「そう! 前回好評だった動画を参考に、似たような形にならないものを撮影する!」
それってムチャクチャ難しくない?
例えば、心霊物がウケたから、次は都市伝説的なのを作る、みたいな? 違うか?
「どうするんです?」
「大丈夫! ちゃんと脚本を書いてきたから!」
動画撮影に脚本……。
「それって“ヤラセ”じゃないですか?」
「違うよ! ほら、日本で有名な『子供がなりたい職業TOP10』に入ってるやつでも脚本は普通だって!」
「そうなんですか?」
「脚本も無いのに、考察系とか都市伝説とか話せる訳ないでしょ」
まぁ、そう言われてみれば……。
んん?! ちょっと待って。
「でも、撮影するのは日常みたいなやつですよね?
例えばドッキリなんかで脚本が有ったらダメだと思うんですけど」
「別にドッキリを撮影する訳じゃないから。
今日はヒヨと遊ぶ、場所はタローの住処、使う道具はネコジャラシ。こんな感じだよ。
これも脚本と言えるよね? ただ単にいきあたりばったりな撮影はしないってだけだから」
なるほど。
そう言われれば、それくらいならテレビ番組でも普通にやってるな。
逆にそれくらい決めてもらってる方が、俺としては楽だ。
「納得出来たようなので、早速始めようか」
撮影は終了した。
内容は言われた通り、ヒヨと遊ぶ事だった。
最後の方で、ほぼ無理矢理な感じでタローが登場したけど、それも脚本にあったのだろう。
嫌がって出なかったのかは判らないが、出ないので無理矢理押し出した感があったんだが。
半日も費やしたので、疲れたよ。
これで飽きてくれる事を祈ろう。
うん、世の中ってそんなに甘くないよね。
またルシファーさんがやってきたよ。右手にカメラ装備、左手に三脚持って。斜め掛けしてるカバンの中身はバッテリーかな?
俺、前回の時に密かに運を使ったんだよね。
「もう飽きてしまって、来なくなりますように」ってね。
でも無理だったよ。
『混沌』を使わないと神様には通用しないし、使ったとしても俺の周囲限定だから。
神様の世界全部を覆うなんて無理。
判ってた。知ってた。でもやりたかったんだ。
こうなったら神に祈るしかないね(苦笑)
「評判良かったよ! なんてったって、週のランキングで1位だったからね!!」
「ランキングなんかあるの?!」
「元々無かったんだけどさ。ほら、日本のネットでも“まとめ”とかするサイトがあるでしょ?
そんな感じで、誰かがまとめ始めたみたいだよ。
でも、そこは結構有名企業がやってるみたいで、話題になったんだ!」
「へ~、そうなんですか。
まぁ、それでこの世界を紹介出来たのなら良かったですね。じゃあ、頑張って……」
「どこに行こうとしてるんだい?」
「いやいや、だって。
この世界の紹介ビデオだったんでしょ? 有名になれたならそれでOKじゃないんですか?
だから、もう終わりで良いんじゃないですか?」
「有名コンテンツが終了なんて、許されないでしょ?」
「いやいや! やめときましょうって!
ほら、映画でもさ! 1が当たったからって2までウケる訳じゃないでしょ?!
2までウケたからって、3もイケるとは限らないし!
って言うか、そうやって作った2や3は、ほとんどが失敗に終わってますって!」
「今の地球はウケるかウケないか判らない脚本よりも、人気のある作品の続編を作るか人気のある漫画やアニメやゲームを映画
にする風潮だから。
それと同じだから。大丈夫!」
「地球の神様じゃないのに、地球に詳しすぎる!!」
確かにそんな感じはあるけどさ。
でも、それって失敗フラグじゃないかな~。
特に実写化。アメコミは元々それっぽいからセーフだけどさ、日本のは悲惨だぜ?
当たりもあるけど、ハズレの方が圧倒的に多いから!
ただでさえ皆イメージがあるのに、出演者の為に設定までイジったりするし。絶対その作品好きじゃないやつが作ってるって判る。
おっと、関係無い事を考えてしまった。
「とにかく! もう撮影は止めましょうよ! もう良いじゃないですか!」
「ダメ!」
「何で?!」
「承認欲求が満たされたから!!」
それ、自分で言う?!
……あっ、そうか。俺、判っちゃった。
ルシファーさん、天使じゃん。実際は神様だけど。
でも某本によって、堕天使扱いになったじゃん。これも地球限定の話だけど。
本人は気にしてないって言ってるけどさ、やっぱり悔しいんだろうな。認めて欲しい。
そこで今回の事。多数の人が認めている。見てくれている。
それが嬉しいんだろう。自身で承認欲求が満たされたと言うくらいに。
元々自分が居た世界が迷惑かけたんだし、しょうがない付き合うか。
「じゃあこれが脚本!」
「はいはい…………って厚い! そして長い! セリフまで決められてる!!
脚本は脚本でも舞台や映画の脚本かよっ!!」
「書き始めたら止まらなくなってさ」
「日本の小説投稿サイトでも利用されたら良いんじゃないですかね?!」
何この超大作は。
しかもよく見たら、紙の表裏に書いてあるじゃないか!
どれだけやる気なんだよ。
「はい! まずはシーン3から! 早く覚えて!!」
強制的に撮影が始まった……。
結局撮影は4日間も行われた。
役者なんて、子供の頃に木の役をしただけの人間に映画俳優をやれって、無理ですよ……。
地獄のような毎日だったぜ。
何で過去形で喋ってるかって?
それはね。今はあれから1ヶ月経過しているからだよ。
つ・ま・り、もう撮影はありませーん!!
超大作の人気が無かったってのも一因だけど、一番大きい要因はやっぱり“やらせ”問題。
自然体を見せるただの紹介物のはずなのに超大作な脚本作れば、そりゃやらせって言われるだろ。
俺の演技が素人すぎて、そこから発覚したらしいが。
それは俺のせいじゃない。無理なのは判ってた事だ。
変、おかしい、って騒ぎになってきた所に、脚本の流出騒ぎがあってさ。
もう大炎上したらしい。
当然ルシファーさんは閻魔様に呼び出しくらって。めちゃ怒られて。活動禁止になったんだってさ。
これで平和な日常が戻ってきた。
仏様が読みたいって言ったので渡した脚本、紛失したらしいけど、どこに行ったのかなぁ?




