冒険者ギルドの本部
「それで、その冒険者ギルドの本部って、どこにあるんです?」
「ノートルダムだ」
なんと! そんな近くにあったとは!
誰か教えてくれても良かったのに。
「正確に言えば、ノートルダムの王城の中にある」
「えっ?! 国とは別じゃないんですか?!」
「組織運営は国とは別だがな。
だが、大規模な組織に国が絡んでない訳が無いだろ。
今回のように、グランザムの冒険者ギルドにグランザムが苦情を言ってきたらどうするんだ。
言いなりになるのか? それとも国に逆らうのか?」
「え~と、冒険者がモンスター退治をしているので、苦情を言いにくいとか」
「元々無かったんだぞ。潰してもそこまで困らない。
それに冒険者を戦争の駒に利用したらどうする?」
「冒険者は自由人なので、逃げ出すんじゃないかと?」
「その国に居る限り、その国の法律に従うのは当然。なら徴兵されたら従うしか無いぞ」
う~ん、そう言われればそうかも。
ラノベでは独立組織で、モンスター狩りをするから国も強く言えないとかだったような。
そんなに詳しく読んでないから知らないけど、確かに国の法律が優先だよなぁ。
あっ、そうか。だからある意味、どこかの国の庇護にあるのか。
それなら地球にある大使館のように治外法権に出来る。
「理解出来ました。じゃあノートルダムに行ってみます」
「よろしく頼む」
やって来ました、ノートルダム。
王城も顔パスに入城です。
……いや、誰か来いよ。
誰も来ないから、案内もしてもらえないじゃないか。
何で、遠目から見てるんだよ。
怖くないよ~、ただの一般人ですよ~。
ほらほら、ロボットダンスとか踊っちゃうよ~。
あっ、更に距離を取られた…………。
「……何をやってるんだ、お前は」
あっ、王様。
助かった!
「いや、ちょっと冒険者ギルドの本部に用があって」
「用があるのに、城に入ってから踊りだすのか?」
「……そこは見なかった事にしてくれ」
「まぁ、良い。こっちだ」
なんかバカを見るような目で見られた。
お前だって魔法の事になったら同じじゃん! 暴走するじゃん!
「ところで、何でノートルダムに本部があるんだ?」
「は? 何を言ってるんだ? 本部は各国の王城にあるぞ」
「そうなの? ここじゃないの?」
「今はここなだけだ」
「どういう事?」
「5年毎に、本部の場所は変わるんだ。前回はロッツギルだった。次はセキハイムになるな」
そういう事か。そりゃグランザムだけじゃ命令出来ないよね。
いや~、疑問だったんだよ。
言っては悪いけど、ノートルダムのような小国で可能なのが不思議だったんだ。
「……何か失礼な事を考えてないか?」
「いや、何も?」
「……まあ、良い。ここだ」
案内されて中に入ると、そこには6人の男が居た。
「各国から代表が来ているんだ」
なるほど。
ニーベル・コルラド・ノートルダム・セキハイム・ロッツギル、そしてグランザムか。
「今期はうちが代表国になっているので、議長はノートルダムのこいつだ」
「私が議長のケントです。よろしくお願いします」
つまり現在のグランドマスターはケントさんね。
グランドマスターと言うのかは知らないけど。
「それで何の用だ?」
「ギルドには用があるけど、王様には用は無いので帰ってもらって良いですよ」
「ひどいな。良いじゃないか、聞いても」
「まぁ、良いですけどね。邪魔しないでくださいよ」
「王に向かって『邪魔するな』と言うヤツは居ないぞ」
「とにかく。居ても良いので黙っててください」
王が出てきたら面倒だからね。しかも他の国の王からの話だしな。
「使徒様。どんな御用でしょうか?」
「えっと、ケントさん。使徒様は止めて下さい。福田で良いんで」
「では福田様。ご用件は?」
ふふふ、今回はここに来るまでにちゃんと案を考えてきたんだよね。
「冒険者の保険について、検討してもらいたくて来ました」
「保険、ですか?」
「はい」
「それはどういうものでしょうか?」
「冒険者って他の職業と比べて死亡率が高いですよね?」
「そうですね」
「でも死んだ後、何の保証もない」
「自己責任ですので、しょうがないかと」
「確かにそうですが、それでは残された奥さんや子供が大変です」
「では依頼達成の報酬の一部を残しておいて、死んだ場合にそれを遺族に渡すと?」
理解が早いなぁ。
まぁそれもあるんだよね。プランの一つだ。
「それもありますけど。別のもあります」
「別の。なんでしょう?」
「ある程度のお金を貰っても、収入が無ければいずれそのお金も無くなります」
「そうですね。だから子供は孤児院に入り、母親は働きに出ます」
「家族バラバラになりますよね。なので、冒険者ギルドが孤児院を作ります」
「ギルドが? 何故?」
「その母親をギルドで働かせる為ですよ。受付業務や事務仕事をすれば良いですよね。
勿論荒くれ者の相手をするので、冒険者を雇い、近くに配置します」
「メリットは?」
「冒険者ギルドに直結した孤児院や母子施設での生活なので、冒険者ギルドの24時間営業が可能!」
「孤児は?」
「そちらも冒険者を雇い、冒険者にするべく教育をするんですよ。
これで冒険者不足も解消!
ついでに父親が働きに出ている時に、母子がここで働くのもOK!」
これが俺がやりたかった事。
何でラノベでは孤児院が国営や教会運営なのか疑問だった。
冒険者家業で孤児や母子家庭になるなら、冒険者ギルドが面倒を見るべきだ。
それに冒険者ギルドも忙しい。
依頼を受け発注するだけじゃないのだ。
依頼の査定、買取品の整理、解体作業、ゴミの処分、勿論掃除もある。
なのに24時間営業。完全に現在はブラック企業だ。
これが一新出来る。完璧だろ?
そうそう、受付がガチムチのオッサンじゃなくなるってのもある。
それがメインじゃないよ! 本当だよ!




