新たな神
密かに新作投稿。
その日は突然やってきた。
「は~い、福田クン! 私は音楽の神『ガンダルヴァ』! ヨロシクねっ!
今日は頼み事があってやってきました!」
「……その前に、俺の頼み事を聞いてもらって良いですか?」
「なぁ~に?」
「トイレ使用中に出てくるのは止めてください!」
「ふふふ、気にしてないから大丈夫よ」
「俺が気にするんです!! 神様ならタイミングくらい分かるでしょ?!」
「甘い! 甘いわね!
神がタイミング良く出てくる訳無いでしょ!
勿論覗き見してて、良き所で出るのよ! だからトイレの中でも風呂の最中でもいつでも見られてるの!
今更恥ずかしがる事は何も無いわ!」
「暴露しちゃったよ!
い、いや、そういう話じゃないです!
少なくとも目の前に居られると、出る物も出なくなります!
出てってください!!」
「しょうがないなぁ~」
次の瞬間には消えたけど、まだ見られているのではないかと思うと……もう出ないわ。止めよう。
トイレを出て、リビングのソファに座る。
あっ、どうせ来るんだから、お茶でも煎れるか。
お茶を煎れて戻った瞬間に、また現れた。
本当に見張ってるんだな!
「お茶、ありがとう!
出来ればお茶菓子も出してほしいな。あっ、戸棚の右から3番目のヤツで良いから!」
「どこまで見てるんすか?!」
「気にしない、気にしない」
最悪だ。
要件を聞いて、早く帰ってもらおう。
「はい、お茶菓子。
それで、頼み事って何です?」
「モグモグ、モググモググ、モグググググ」
「食べて飲んでから言って下さい」
「モグモグモグ……」
本当に食べる方に集中しちゃったよ、この女神。
「美味かった! あっ、頼み事だったね。
あのね、ミュージカルをやって欲しいの!」
「…………はい?」
「ミュージカル」
「いや、それは分かります。そうじゃなくて、何で俺が?」
「私は音楽の神! この世界は音楽が少ない! もっと広めて欲しいの!
そうじゃないと、私はこの世界に関われないのよ!」
「別に関わらなくても良いじゃないですか?」
「だって、皆、この世界に来て楽しそうじゃん! 私も来たって良いでしょう!」
あ~、他の神様達か~。
確かにルシファーさんや仏様なんか、ちょこちょこ来るもんなぁ。
特に俺所有の島に来て、釣りしたりして遊んでる。
各国の王様だけじゃなく神までやってくる異常な島。
「まぁ、理由は分かりました。
で、何でミュージカル? バンドとかでも良くないですか?」
「私、ロックとかJポップとかよりも、宮廷音楽寄りの神なの」
「なら宮廷音楽で良くないですか?」
「それだと一般のお客さんが見に来られないでしょ!
だからミュージカル! これならギリギリOK!」
何を司っているのか細かい決まりがあるんだろうなぁ。
ロックの神とかも居るのかな? 会いたくないけど。うるさそう。
「だからミュージカルをやれと?」
「そう」
「……分かりました。じゃあ各国の王にでも頼んで人を集めますよ」
「いやいや、福田クンがやってよ」
「はぁ?!」
「ヒマでしょ?」
「見てたんでしょ?! ヒマに見えましたか?!
使徒として、毎日働いてるでしょ?! その上、各国から来る願い事の精査とかもしてるんですよ?!」
「福田クン?」
「はい?」
「それは、神の仕事として、あ・た・り・ま・え。当たり前なの。
それ以外の時間は空いてるでしょ」
俺から休憩時間や睡眠時間を削るつもりですか。
どんなブラック企業だよ!
「それに人に頼むにしてもさ、ミュージカルがどんなものか福田クンしか分からないでしょ。
だったら一度やって見せた方が確実でしょ」
「ぐぬぬ……分かりましたよ! 最初の一回だけはやりますよ!」
「そう、良かった。
あっ、良い忘れてたけど、既存のはダメだからね?」
「えっ? 何でです? ライオン王のとかダメですか?」
「うん。著作権の問題が出てくるから」
「異世界でも著作権問題が?!」
「うん。ディズ○ーは、そういうのうるさいから。
他人のをパクるのは良いけど、パクられるのはイヤなんだって」
「……ソウデスカ」
しかし既存の物はダメなのか。
創作なんか無理だし、何か良い題材は無いだろうか?
「あの~、ちょっと聞きたいんですけど。
地球で一番ロングセラーなメジャーな話って何です?」
これなら俺でも知ってる可能性が大。
そして、ナグラさんも。ついでに日本に帰った勇者達も。あっ、勿論巻き込む気マンマンですけど。
「え~っとね。聖書」
「…………はい?」
「聖書。あの神の話って、全部創作だし。
ついでに言えば、ちょこちょこ改変されてるし」
「改変?」
「そうだよ~。神は不完全だったのが、完璧にされたりさ。
輪廻転生の事が書いてあったのに、削除したり」
「……へ、へ~」
「あっ、でも聖書はダメだよ? そういうミュージカル映画があったからね」
いや、ダメじゃなくてもやりませんけどね。
そもそも聖書の内容なんか知らないしさ。
う~ん、どうしたものかな。
何も思いつかない。
だいたいさぁ、ミュージカルなんか見た事も無いんだから、思いつく訳が無いよね!
あっ、そうだ。
「例えばどんなのならOKなんですか?」
「何でも良いよ。著作権に引っかからなければ」
「そこが問題なんですけども。
創作って言われても思いつきませんし。
まだストーリーは良いとしても、歌とか無理ですって」
「適当な文章にメロディをつければ歌になるよ?」
「え~~~? じゃあやってみてくださいよ」
「いいよ~」
良ければそれをそのまま採用してやろう。
「けっこん~、3年目~」
おっ、夫婦の歌か。
メロディは……ベートーベンの「運命」?
今のはジャジャジャジャーンの部分か?
「既に浮気は4回目~、とうとう女を連れてきた~。
別れ~話を~しはじ~め~た~。殺そう~」
「どんな歌詞だよ!!」
「仲睦まじい夫婦を歌ってみました」
「どこがだよ! ギスギスだよ! って言うか警察沙汰だよ!」
こんなの使えるか!
病んでるのか、この人。
「もう少し明るい歌詞でお願いしますよ」
「え~? だって例えでしょ?」
「それにしてももう少し『いいな』と思わせるようなもので」
「しょうがないなぁ~。じゃあメロディーは「ちょうちょ」で歌うね」
「いせか~い、転移~」
異世界転移? また変な題材を歌にしたな。
まぁ俺には分かりやすいけど。
「行った~、世界は~、戦場で~」
あ~、ありそうな設定だ。
軍師とかになって成り上がるんだろ?
「当然~、ただの~、兵士にされました~。
次から次へ~、殺してまわり~、最後に、味方に、裏切られて死んだ~」
最悪!!
ちょうちょの明るいメロディーがまた恐怖を誘う!
「なんちゅう曲やねん!」
「福田クン、関西人じゃないでしょ?」
「そこは良いでしょ! もっとほのぼのとした歌詞を!」
「え~? よくある話を歌詞にしただけじゃない」
「よくある話なら、成り上がらないとダメでしょ!」
「チート貰ってムチャクチャ強い兵士なんて、戦争が終わったら自分たちの驚異にしかならないよ。
だから成り上がる前に処分だよね」
「そこはほら、姫様とかをあてがって制御するとかさ!」
「政治の事も分からないような姫様に出来る訳ないじゃん」
ダメだ。この人。
碌な歌詞が出てこない。
「もう良いです。自分たちで考えます」
「よろしくね~」
「出来たら連絡しますので、もうお帰りください」
「了解~。頼んだよ~」
神様は帰っていった。
……うん、しばらく放っておこう。
もし何か言われたら「考え中です」と言って逃げよう。
しつこいようなら、最悪勇者に丸投げしよう。そうしよう。
話が出来たら、また投稿します。




