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家に帰っても悶々と考えていた。
どうしても橘のことが、頭から離れない。
轢かれたりしなければ今頃幸せに過ごしていたはずだった。そう。彼女と橘は両想いで、楽しく過ごしたかった。
犯人が憎い。そう思った。刑務所に入っても数年で出て来て、のうのうと生き続けるのだ。死刑になればいいのに。いや、それ以上に苦しめばいいのに。
憎い感情が消えないままバイトに行く。
店長が清一の顔を見るなり、2階で休みなさいと言ったので、ソファーに横になる。
犯人は誰だ。捕まったなら死刑になればいい。
「……ちゃん、清ちゃん」
「ん……んん……」
いつの間にか眠っていたようだ。
妖狐姿の沙依さんに起こされる。
「だから言ったじゃない、感情移入するなって」
「あなた、橘に引っ張られて暴走しかかってる。あなた自身がね」
「清くんは優しいからねぇ」
「とりあえず、同調してるのをどうにかしないとねー」
「ほんっと、ばかよね」
「年上に向かってバカとか言わない!」
清一は苦い顔をした。
「僕、犯人が憎くてたまらないんだ」
「これ、私がやるの?」
由梨がめんどくさそうに言った。
「しょうがないわよ、由梨ちゃんにしかできないもの」
ため息をして、由梨は僕の前にかがむ。
「楽な姿勢で座って目を閉じて」
「こう?」
「うん。それで私の質問に落ち着いて答えて」
「わかった」
「あなたの名前は?」
「橘佑兎……いや、誰だっけ」
「君は藤原清一」
「藤原……清一……」
「ええ。性別は?」
「男」
「君は今何を思ってる?」
「犯人が憎い、僕を殺したい」
軽いため息が聞こえた。
「いい?あなたは藤原清一。死んだのは?」
「僕………じゃなく橘くん」
「犯人が憎いのは?」
「……橘くん」
「そう。あなたは橘佑兎じゃない。あなたは、藤原清一」
「僕は藤原清一……」
「仕事は?」
「カフェのアルバイト」
「カフェの名前は」
「カフェ・ノワール」
「好きな女の子に、告白したのは?」
「橘佑兎」
「あなたが助けなければいけないのは?」
「橘佑兎」
「暴走しているのは?」
「橘佑兎」
最後にもう一度聞くわ。あなたは誰?」
「藤原清一」
「……もう大丈夫そう。藤原さん、もういいですよ」
目を開けると立ち上がって伸びをする由梨が見えた。
「あ、れ?俺、なんか変わったっていうか、なんていうか……すっきりしてる」
「乗っ取られそうになってたのよ。下手したら万が一犯人見つけたら殺しちゃう、なんて危険もあったんだから」
「店長が気づいてよかったけどね」
あんどするのかと思いきや、睨まれた。
「今のは質問責めは?」
「あれは質問に答えることによって自己を取り戻すための軽い儀式みたいなもの。
結構危ながったのよ、めんどくさい」
「ごめん。でも、ありがとう」
由梨は、顔を背けてふんと鼻をならす。
「さて、今度は橘くんの暴走を止めなければね」
「こちとら死にそうだ。若者はやはり強いな」
いつものように、のんびり言うが、どこか疲れているようだった。
「暴走し始めると精神力、体力がけずられるの。店長がやつれる前になんとかしなきゃねー、清一くんっ」
「え、僕ですか。何もできませんよ」
「彼に飲み込まれそうになったあなたが1番近くて、橘くんの気持ちがわかると思うの」
清一は橘の前に立った。
「僕も犯人が憎かった。僕以上に苦しくて辛くて憎くて」
橘は表情を、変えなかった。
「でも一瞬だけ梨絵ちゃんの顔を思い出したんだ」
それでも、表情は変わらない。
「橘くんは見てないかもしれないけど彼女はぐちゃぐちゃになるまで泣いて、幸せを願って………」
ふと、思い付いた。
「店長、橘くんを梨絵ちゃんと会わせられませんか」
「んー、本当はあまりしたくないんだけど……」
「彼の憎しみは大きすぎて、僕の言葉なんて聞こえません」
「……わかったよ。今後、こんなことはないよ」
「はい。ありがとうございます」
橘は梨絵と対面することになった。




