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少し面白かったので昼休みの間、校内を見て回った。
広い中庭。ばか騒ぎする男子生徒。キャーキャーと会話の盛り上がる女子生徒の声。
懐かしかった。自分にもこんな時代があったな、と思い出に浸る。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴って、清一は慌てて屋上の方に向かった。
今日は5時間で終わるらしいので50分程屋上で時間を潰した。
頭のなかは橘のこととラブレターのことでいっぱいだった。
もし、酷くフラれたらどう伝えるべきか。
けっこう恋愛とは成立することは難しい。
自分の女性経験の無さからも、なんとなく察しられる。また、友達からの経験からも。なぜか慰めるのはいつも清一の役目だった。
梨絵の反応も大いに気になる。まるで自分が告白するような気分に陥った。
重いドアを開けて、梨絵は屋上にやって来た。案外長く考え込んでいたらしい。
そうだ。橘にあまり感情移入してはいけないのだった。梨絵がくるまで忘れていた。
「あの…話って…」
先に口を開いたのは梨絵だった。
「僕は藤原清一。橘の先輩なんだ」
この辺は嘘をつくしかない。
「これを渡してくれって頼まれていたんだ。本当は一緒に来てくれなんて気の弱いところを見せていたんだが、勇気をだして、一人で行くと言った」
「これは…」
「察しはつくと思うがラブレターだ。彼が亡くなった以上、僕が伝えようと思った」
梨絵はゆっくりと封をあける。そっと開いて読み始めた。
清一は、彼女の文字を追う目を見ていた。
読んでいる途中から、梨絵は大粒の涙を流し始めた。
清一は何が起こったかわからなかった。
バカ、と彼女は呟いた。
「なんで、死んじゃったのよ…」
その言葉とともに崩れ落ち、泣き始めた。
「ばか…ばか、ばか、ばか…」
両手で顔をおおって罵倒する。
「私も、…好きだった…」
そうだ、フラレる心配ばかりしていたが、両思いの可能性もあったのだ。
「橘くんが私のことを好きなのは気づいてた。いつ告白してくるんだって思ってた」
小さく、震える声でポツリポツリと語り始めた。
「真面目で、正義感が強くて、誰にでも優しい。いじめがあったとき、主犯格を殴って気絶させてやめさせたのは有名な話。勇気もあって、強くもあった」
そんなふうには見えない優男だったとおもったが、そんな一面もあったのかと、清一は意外に思った。
「そして、私をいつもは気遣ってくれた。そんな人、好きになるにきまってるじゃない」
小さな悲痛な叫び。
「好きだった。ううん、好きよ、大好きよ!」
そう言うと再び泣いた。
「どうして…どうして、優斗があんな目にあわなきゃいけないの?!1人残された私はどうしたらいいのよ!この想いは消えたりしない!なのに…なのに…優斗がいないと私……っ」
嗚咽を漏らしてなく彼女を呆然としてしばし見ていた。そして、ゆっくりと座って彼女か泣くのが終わるまで待った。
そう。どうしようもないし、想いは消えないけど、思い切り泣けばいい。心の整理ができるかもしれない。
清一は優しい言葉をかけるわけでもなく、ただ泣き声を聞いていた。
ひとしきり泣いた後、しゃくりをあげる梨絵が胸に抱いた手紙をそっとさわってた。
「手紙、持っててくれるかな」
「はい。優斗からの精一杯の気持ちだから」
「橘くんのために泣いてくれてありがとう。きっと彼にも届いたよ」
梨絵はすっと顔をあげた。
「そうだといいな」
少し微笑んだ。
「ほんとはさ、橘くんがフラレるんじゃないかって心配してたんだ。だけど君も大切に思ってくれてたならよかった。」
でも、と清一は少し真面目に言った。
「橘くんはこの世にはもういない。彼だけにとらわれず、いつか新しい恋愛もするんだよ。橘くんは梨絵さんの幸せを祈っているはずだから」
「まだ、受け入れられませんが、私も橘くんの幸せを祈ってます」
梨絵は腫れた目で微笑んだ。




