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妻が始めて私をほめてくれた……

作者: 頭山怚朗

 あの日、私がカーテンを閉じようとすると二人が激しく争う窓が見えた。

 “他人の不幸は蜜の味”、もっとはっきり言えば“私の幸せは他人の不幸 ” 

 私は慌てて一眼デジカメを取りファインダーを覗くと、幸いにも二人の争いは続いていた。ファインダーの倍率を上げるとその中で男が女の首を絞め女が崩れ落ち、それを捕らえた……。“これは、なかなか面白いことになった”と思った。救急車が来て、パトカーも来る……。しかし、三十分経っても何事も起こらなかった。

 それで、“これは、ますます面白くなった”と思った。

 私は、次の日の土曜、あの窓が一軒屋をこと妻に尋ねた。私は結婚してこの街に住むようになって三年だが、妻は我が家にずっと住んでいて“お近所の事情”に詳しかった。

「あの家は旦那と奥さんの二人暮しよ」と、妻は言った。

「その奥さん、この二・三日、見ていないでないかい? 」と、私。

「な、何、言っているの? 」 妻は何故か慌てた。


 私はその男に手紙を書いた。

<お前が女房を殺すのをみた。写真も撮った。善良な市民の義務として警察に通報してもいいが、それではお互い何の利益にもならない。お前が刑務所に行かない代わり、おれに月五万円援助する。これからずっと。了解したら、玄関に黄色いハンカチを出せ。“幸せの黄色いハンカチ”だ。十五日までに出さないと、証拠の写真を警察に送る。

 追伸

 余計な事をするな。また、おれの無事を祈っていろ! もし、お前が何か変なことをしたり、おれの身に何か起こったらお前の人殺しを日本中の人が知ることになる。>

 十四日の夕方、あの男の家の玄関ドアのノブに“幸せの黄色いハンカチ”が巻きつけてあった。

 私には妻と結婚する前の旧姓の口座が一つあった。

 封筒の中にその通帳を入れ、再び、その男に手紙を書いた。

<この口座に、毎月、月末まで五万円入金しろ。一日でも遅れたら、お前の妻殺しを日本中の人が知ることになる。それから、もう一度言う。おれの無事を祈っていろ。もし、お前が何もしなくてもおれの身に何か起こったらお前の妻殺しを日本中の人が知ることになる。>


 私の頭から出血した死体がマンションの脇で発見された。屋上にはきちんとそろえられた私の靴と遺書と地図が入った封筒あった。

<飯田さんの奥さんを殺したのは私です。自分の犯した罪の大きさに耐えられなくなりました。

 香織、すまなかった。                                頭山怛朗>

 地図の示す場所からあの男の妻の遺体が掘り出された。

「名前は旦那さんの字に間違いありませんか? 」と、刑事が言った。

「間違いありません。夫の字です……。あの人、自分の汚い字を気にしていましたから、名前だけを自分で書いたのだと思います」と、妻が言った。「この十日程、あの人は少し変でした」


 数週間後の、私が住んでいた街から遠く離れたあるホテルの一室のベッドに裸の男女……。

「あの人にあなたのこと聞かれた時は、正直、私も慌てたわ」と、妻が言った。「あなたが、奥さんを殺してしまったのを知っていると確信した。偶然だけれど、あの人の部屋からあなたの部屋がよく見えるからね」

「あれは君との浮気がばれて罵られ思わず首を絞めてしまった」と、あの男。

「一月、五万円……。あの人らしいわ」

「君は旦那のブログの予約投稿を削除、おれがでっち上げた遺書の字を“夫の字”と証言……」

「あの人のパスワードは知っていた。あの人はあなたの奥さんを殺し山の中に埋めたけれど、その罪の大きさに耐えられなくて飛び降り自殺という筋立て」

「すべて君の計画通りだ。旦那は君に生命保険を残してくれた。おれにはおれが殺した妻の生命保険が入る。君は恐ろしい女だ。」

「本当! あの人はいい人だった」


 三年間の結婚生活の中で始めて妻が私をほめてくれた。


ヤフーブログに再投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 妻は何故か慌てた この一言で 落ちが見えちゃいました 書きすぎだと思います。 もう少し真綿でくるんだ 表現を使うといいと 思うのですが とまあ 私の主観ですが 面白く読ませていた…
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