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1.3 波乱の幕開け

体育館まで来てみたはいいものの、美琴は決心がつかずにいた。



「執事部って男の子だけじゃないの・・・?」


当然の疑問だ、これまでの歴史の中で、執事部に女子学生が在籍したことなどないのだから。


「はあ・・・でもお話だけは伺わないと、だめよね・・・?」


多分その通りだ。明日からの平穏な学園生活のため、ここは逃げるという選択肢はない。

―――とはいえ、逃げなくても、平穏な学校生活には、多難な幕開けとなると思うけれど。


「行くしかないのよね・・・?」


そう、行くしかないのだ。



意を決してドアを開く。

意外とドアは重い。えいや、と力を入れて引くと、ドアは開き、薄暗いながらも中の様子が垣間見えた。


・・・あれ?


中に入り、だれもいない・・・と口に出そうとした瞬間、視界の外からいきなり怒鳴りかけられた。

「おいおい、呼びつけておいて遅れてくるとはいい度胸じゃねえか―――ああ?!は!?」

思わぬ声に、美琴がびっくりとして飛び避けると、不満そうな男子学生がこちらを見下ろしていた。

知らない顔だ。金髪で背が高い男の子。少なくともこれまでにあったことはない。

しかし、彼の怒りは美琴ではない誰かにぶつけるためのものであったようで、ドアの前に立つのが美琴であるのに気づくと、幾分きまりが悪そうにしている。


「おいおい、聞いてねえぞ? 執事部ってのはいつからマネージャーを募集するようになったんだ?」

その男がつぶやく。


「おい、俺たちは執事部の先輩たちに呼ばれてきたんだがよ、マネージャーならさっさと要件を教えてくれよ。今まで待ちぼうけだったんだからよお~」


「そんなこと言われても・・・」

と美琴は反論しようとする。しかしその言葉は、体育館に居たもう1人の言葉にさえぎられる。


「彼女は、マネージャーではないと思う。 君、1年の柄本美琴さん、だろう?」

もう1人いたのか。

声のする方を向くと、先ほどの金髪の男子学生とは対照的な落ち着いた様子の、黒髪――というか、学生だから黒髪が普通だと思うのだけれど――の男子学生がこちらに話しかけてきている。


「えっと・・・どこかでお会いしましたっけ・・・?」

と美琴が首を傾げていると、


「失礼、私は桐生きりゅう 秀作しゅうさく。柄本さんのことは、新入生の答辞で見ていたので、覚えていたんだ――まあしかし、そこの彼はそんなこと全く覚えていないようだけどね」

と肩をすぼめながら、やれやれといった様子で言った。


「それで、桐生さんはどうしてここにいらっしゃったんですか? 執事部の皆さんに呼ばれて?」

「おい、俺もいるんだけど!?」

「その通りです。柄本さんもですか?」

「おい」

「ええ、そうなんです。でも、ここに来るように、という以外は何も知らされていなくて・・・」

「おい・・・」

「困りましたね、私もそうなんですよ。もう指定された時間にはなっているみたいなのですがね」

「おい! 無視してんじゃねえよ!」


「ああ、いたんですか、君。 あれだけぶつくさと言っていたのでもう帰ってしまったのかと思っていましたよ」

桐生さんは、事もなげに金髪の男子学生に声を掛ける。

それに対して金髪の男子学生は、今にもかみつきそうな形相で睨みつけている。


「ところで、そちらの方は、お知り合いなんですか?」

と美琴がおずおずと尋ねる。


「さあ、存じ上げませんね? 誰なんでしょうか、不良?」


「おいおいおい、いい度胸じゃねえか。さっきまでおとなしそうにしてやがったから、こっちも合わせてやってたってのによ、舐めてんのか? ああ!?」


「ああ、怖い怖い。柄本さん、この男は名もないただの不良です。あっちへ行きましょう。ここは危険です」

桐生さんは、何も見えない聞こえないといった風な格好で、金髪の男子生徒から顔をそむける。


「えっと・・・」

この人、完全に遊んでる・・・と思いながら、美琴は金髪の男子学生の方を見やる。

とりあえず、何とか場を収めなければ・・・


「あの・・・不良さん・・・ですか?」


「は!?!?!?」

金髪の男子学生は、怒髪天を衝くといった感じで、美琴の方に向き直ってくる。


「え、あの・・・」

何かまずいことを言ってしまったらしい。

あたふたとしながら隣を見ると、桐生さんは肩を震わせながら必死に笑いをこらえている。


「お前、柄本とか言ったか。俺を不良呼ばわりたあ、いい度胸だ。お前もそこのヤツと一緒にシメてやらねえといけねえようだな?」

どうやら先ほどの不良発言で美琴にも矛先が向いてしまったらしい。


「えっと・・・」

美琴が二の句を継げずにいると、全身に怒りを湛えた不良が・・・いや金髪の男子生徒がこちらを睨めつけてくる。


「それで、それはそれとして、君、名乗るくらいはしてもいいんじゃないかい、不良くん?」

笑いから回復したらしい桐生さんは、また言わなくてもいいのにそんな軽口を言う。最初の落ち着いた雰囲気とはもう印象はずいぶん変わってしまっていた。



「はあ? それはそれ、だと? ふざけんなよ?」

そういって金髪の男子学生の怒りが頂点に達しようとした――




――その瞬間、爆発音とともに薄暗かった体育館の照明が一斉に点灯した。





そしてスピーカーから見知らぬ男性の声が体育館にこだました。









――やあ、うん、しっかり3人とも集まっているね。それじゃあ、準備はいいかな?


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