1.2 同級生の邂逅
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手紙の内容は要約するとこうだった。
・執事部の入部試験がある。
・私は入部候補者に選ばれた。
・だから、今日の放課後体育館に来てください。
「はあ、なんだか大変なことになっちゃったなあ……」
帰り支度をしながら、柄本 美琴がっくりとうなだれる。
これから自分に降りかかろうと待ち構えている何かを想像すると、ため息の一つくらいつきたくなるというものだろう。
「どうしたの? ため息なんかついて。」
隣で同じように帰り支度をしていた女の子は、用意が終わったのかこちらに話しかけてきた。
「奏さん……」
「陽子でいいってば。それにしても、入学初日からため息なんてついてるんじゃないわよ。それとも、何?いきなりなんかあったの?」
奏さんは、ほんのちょっぴりの心配と、好奇心をたっぷりと湛えた笑顔をこちらに向け、美琴のため息の理由を聞いてくる。
こんなこと、誰かに相談してどうにかなるようなことなんだろうか、などと逡巡していると、
「まあ、うら若い女の子なんだから悩みの一つくらいはあるものよね、まあ、適当にがんばって!」
などと言って長い髪を振り回して出口の方に向かって行ってしまった。
「…」
奏さんの後ろ姿が、廊下の方から差し込む夕日に吸い込まれていく。
しかしいざその後ろ姿が廊下に消えて行こうとした寸前、奏さんは急停止し、キラキラ輝く髪をはためかせたあと、
「ああ、それとさ、もし話してもいいって思うようになったら、さ、話してみてよね。話すだけで楽になるってこともあると思うし。それに、みこっちゃんがどんなことで悩むのか、私には想像つかなくてちょっと興味あるしさ!」
そう言い残して、彼女はさっさと行ってしまった。
その表情は、見えなかったけれど、きっと優しい笑顔を向けてくれていたんだと思う。
「よし!」
そういって、美琴は立ち上がった。
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「おいおい、もう約束の時間からずいぶん過ぎちまってるぜ? もう帰っちまってもいいんじゃねーの?」
金髪にヘアピンを付けた男が体育館の壁にもたれかけながら、誰に言うでもなく不満を口にする。
「そうは言っても、呼び出してきた感じを見るに、約束を破るような人たちには見えなかったが・・・」
そう言って答えるのは、それとは対照的な風貌の落ち着いた雰囲気をまとった男。
「とは言ってもよお、呼び出しておいて遅れてくるってのはどういう了見なんだよ。 俺だって暇じゃねえっつーのー!」
「まあ、もう少し待ってみよう。 そうだな、5時くらいまで待ってこないなら―――」
そう男が言いかけたとき、体育館のドアが開かれる音がした。
その音を聞きつけるや否や、金髪の男が不敵ににやりとしてドアの方に向かう。
「おいおい、呼びつけておいて遅れてくるとはいい度胸じゃねえか―――ああ?!は!?」
そこまで言って金髪の男は、何かに驚いたようにドアの外を指さして、言葉を失っている。
「どうしたんだ?」
もう一人の男が問いかける。
金髪の男が答えをよこさないので、仕方なく近くに歩み寄る。
そしてそこには、なぜか“女の子”が下を向いて立っていた。
その女の子は申し訳なさそうに、
「遅れてごめんなさい。 どうしようかと色々考えてしまっていて・・・」
とだけ、口にしてまた下を向いてしまう。
そこにいた全員が、今起こっていることの意味を全く理解できないでいた。