3.光side
「よっすl榊!おはよ!」
日向と別れて教室に向かう廊下を歩いていたら、背中を軽く叩かれた。
「おはよう、佐々木」
叩いてきたのはクラスメートの佐々木颯斗。
私はあまり愛想がよくなくて、人付き合いも少ないが、彼は数少ない心を許せる友人のひとりだ。
「聞いたぜ榊ぃ~。森のこと振ったって?もったいねぇなー。」
「…いつも思うけど、あんたってどっからその情報手に入れてんの…」
「ないしょー♪」
こいつの情報網は怖い。
私が誰かに告白されると、必ず聞きつけて茶化してくる。
「んで?今回はどこが気に入らなかったのよ?イケメンでサッカー部キャプテンでみんなの信頼も熱い。なんて言うとこないじゃん。」
「…別に、気に入らなかったとかじゃなくてただ好きじゃなかっただけよ」
「真面目かっ!」
正直に答えたら佐々木から鋭い突っ込みが入った。
「たっく榊は真面目すぎんだよ~。
別に好きじゃなくても付き合ってみればいーじゃん」
そりゃあ、私だってそうしようと思ったことはある。
日向への叶わない思いを抱えて苦しむより、誰かと付き合って忘れたほうが楽なんじゃないかと。
でもいざそうしようとすると、胸がすごく苦しくなって、やっぱり自分の気持ちに嘘はつけないんだなと思い知らされる。
「妹ちゃんのほうは恋する乙女って感じなのに、姉は恋愛には興味なし!お前ら姉妹ってほんと似てないよな~。」
…は?
え、今なんて言った?
日向が恋する乙女??
思考がフリーズする。
「ん?どした、榊?」
「ひ、」
「ひ?」
「日向って好きな人いるの…?」
「え?知らないけど、いそうじゃん?
時々ぼーっと考え事してる顔とか、恋する乙女の顔そのものじゃん?」
「そ、そうなんだ…」
知らなかった。いつも一緒にいたけど、日向のことを見ないようにしていたからだろうか。
いつのまにか、日向は恋をしてしまったのか。
たぶんそう、私の知らない誰かに。
「さ、榊?顔が怖いぞ?」
そう言われてはっとする。
いつかはこんな日がくるとわかっていたはずなのに。
日向の幸せを願っていたはずなのに。
私の気持ちは伝わらなくてもいいと思っていたはずなのに。
私は今、顔も知らない日向の想い人を、どうしようもなく憎んでいる…。
「そう?ちょっと寝不足なだけよ」
私はそう誤魔化すと、心配そうな佐々木を置いてさっさと教室へと入った。