葵side
「日向」
愛しい人の名前を呼ぶ。
「なに?葵」
「キスして」
手の届かないと思っていた日向が、今隣にいる。
これが夢じゃないことを確かめたくて、私は何度もキスをねだる。
「…いいよ」
日向は目を閉じると、私に優しくキスしてくれた。
「…っん、ねえ、私のこと好き?」
「うん、好きだよ。葵」
「嬉しい…大好きよ、日向」
……本当は、気付いてる。
日向が好きなのは、私じゃない別の人だってこと。
日向が愛の言葉を囁きながら、一瞬苦しそうな顔をすること。
日向は私とキスする時、絶対に目を開けないってこと。
その瞼の裏に、誰が写ってるの?
ねぇ、お願いだから私を見て…
そんな苦しそうな顔しないでよ…
どうすればあなたのその傷は癒されるの?
そして今日も私たちは寂しさを紛らわすためにキスをしては、互いに傷つけ合うのだ。
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「っん、日向…好き……」
「んんっ、ちゅる…っはあ…葵……」
いつものように私の部屋で求め合う。
そしていつものように日向は目を開けることはない。
……悔しいな。
こんなに側にいるのに、私のことは全然見てくれなくて、
日向はいつだってどこにいるかも分からない誰かの残像を追い求めてる。
どうしたら私のものになるだろう?
私しか見れなくしてやりたい。
私だけの日向に…
「あ、葵?」
気がつくと私は日向を押し倒していた。
日向は瞳にはっきりと戸惑いの色を浮かべて、私を見上げてくる。
その顔を見て少し怯んでしまうが、そのまま日向の服を脱がせにかかった。
「っいや!」
ブラに手をかけたところで、思いっきり突き飛ばされた。
「いたた…」
「ご、ごめん!そんなつもりじゃ…」
尻餅をついたお尻をさすりながら日向を見ると、日向は私を突き飛ばしたことに、自分でも驚いているようだった。
…私はあんまり驚かなかったけどね。
なんとなく、こうなることは分かっていた。
私を突き飛ばしたのは、誤魔化し続けた日向の本心。
「いや、大丈夫。気にしないで」
おろおろしている日向に言う。
「ね、私達、もう終わりにしよ?」
その瞬間、日向の顔が真っ青になる。
ひゅっと息を飲む音が聞こえて、泣きながら私にすがりついてきた。
「違うの!今突き飛ばしたのはびっくりしただけだから!っね?いいよ、続きやろ?」
自ら服を脱いで私を繋ぎ止めようとする日向の手をつかんで、脱ぐのを中断させる。
「違うの。別にセックスを拒まれたから言ってるんじゃないのよ」
「っ!じゃあなんで!私、なにか悪いことした?
なにか気に触ることしちゃったんなら言って!直すから!なんでもするから!
だからっ…!別れるなんて…言わないでよぉ…」
泣きじゃくる日向を見たら、決心が揺らぎかけたけど、ここで惑わされちゃいけない。
日向が望んでるのは、好きな人の変わりとしての私であって、私自身じゃない。
「お願いよぉ…!あなたが居ないと私、私っ…!」
私にしがみつく日向を抱きしめて、優しく言う。
「あなたには、私なんかよりもっといい人がいるはずよ…」
そして、まだ私にすがりついてくる日向を無理やり追い出して、私は一人で、声をあげ泣いた。
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日向が出ていって何時間たっただろう?
やっと泣き止んだ私は、抜け殻のようにぼんやりと宙をあおいでいた。
「これで、よかったんだよね…」
自分に言い聞かせるように呟く。
あのまま私と居続けても、日向はますます自分を傷つけるだけだったろう。
私では、好きな人の変わりにもなれなかったのだから。
「大好きだよ、日向…
幸せにならなかったら…許さないんだからっ…」
私はもう充分だから。
ほんの一時でも、側においててくれて幸せだった。
ほんとは、私の手で日向を笑わせてやりたかったけど…それは別の誰かに任せよう。
さよなら、大好きな人
葵目線!どうしても書きたかったのでw




