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せいしゅん!  作者: もひぷる
第1章
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第9話 宣戦布告

「どうやったらこんな痣を作れるの?」


 俺もそれは聞きたいところだが、俺もあの痣ができていたかもしれないのだから説明しよう。

 説明の部分は面倒なので適当に話しながら、一方的に有希が悪いように言う。

 俺の後ろでは先ほどの事が未だに効果が効いているらしく、黙ってくれているのが幸いだ。

 それに、有希が全面的に悪いなんて感じに言ってしまえば何も言えないからな。この学校の教師は。


「はぁぁ…しょうがないわね。西条さん、こっちで手当てをします」


 これ以上俺から何を聞こうかは諦めたように有希の足首の手当てをする。

 あの痣は数日、痣が残りそうだな。

 少しだけ痛々しいモノを見ながら、治療される有希を見る。


「い、いだい……」

「お前、どーすんの?リレー出るんだろ?」

「この足で…どうしよう…」

「知らない。俺、お前の敵だし」

「酷い…それは酷い」

「はぁぁ、こうしてここまで運んでやっただろ?」

「自分の足で来たもん」

「あぁ、そうだな。確かにそうだ。でもそれはそれ、これはこれ。全力でお前を潰しにかかってやるよ」

「あぅ…酷いよ、こんな可愛い女の子を」

「可愛い?面白過ぎる冗談だな、腹がこじれそうだ」

「あ、わかった。私わかっちゃったよ」

「ん?何がだ?」

「むふふ~、あれだね、俊悟君。男の子特有のあれだよ。好きな子ほど苛めたくなるってやつだね」


 勝ち誇ったかのような顔でニマニマするこいつの顔は俺の右手を振りかざせる動作まで動かさせる。

 それほど効果的な顔だったが、そこは人間。理性というもので抑え込む。

 しかし、こいつのこの顔は何とも腹立たせる顔であることには代わりないわけで、ましてやこの「私に惚れてるんだな!」と妙な勘違いをしているところも腹が立つ原因だ。

 つまり、こいつの中では「苛める=好きだから」というドM本能が絶好調に働いているということなんだな。


「あぁ、すまない。本当は物凄く心配していたんだ。痛そうだからな。あぁ、こんなになるまで可哀そうに。俺が手当てしてやろう」

「やっぱり俊悟君は私のこ、いだだだあだだだだだだ!!!!!」


 痣になっている所を撫でるように指を押し付ける。

 そして、こする。それはもう容赦なく。

 ただでさえ、敏感になっているところだ。この痛みは考えただけでも背筋が凍りそうだ。

 やっていてアレだけど。


「いだい!!いだいだいいだいだいだい!」

「おいおい、俺がこんなに優しく撫でてやってるのに」

「いだいいだいだいだい!やめでー!」

「はぁ、せっかく人の好意を」


 有希は涙を流しながら懇願してくるため、撫でる手を下げる。

 少しだけやり過ぎた感あるかも…。

 しくしくと流れる涙を拭きながら、涙目でおれの方を睨んでくる。


「私を泣かせた」

「あぁ…悪かった」

「心にも思ってない事言ってほしくない!」

「はぁぁ、わかった。これで少しは反省しろ」

「酷い!わたし、私だって…私だって一生懸命してるのに!そうやって自分のことしか考えてない!」

「何、勝手に」

「私はいつも一生懸命だよ!それを少しでも認めてくれたっていいじゃん!いつまでもいつまでも…ずっと私を見てないもん!それでも一生懸命してるのに……今日だって、今日だってそうだもん!」

「おい、何言って」

「私は、私は認めてほしかった!ずっと認めてほしかったから頑張ったのに!それを、それを…来るって言ってたのに…なんで私を見てくれないのよ!!!」


 痛みで頭がおかしくなったのか???

 有希は俺に文句を言っているようには見えない。いや、この状況からすれば俺に文句を言っているんだけど、有希の視線は俺では無く、本来何もない俺の後ろに文句を言っている。

 混乱?錯覚?それとも、発狂?

 先ほどまでは涙がぽつぽつと出ている程度だったのが流れ出ている。


「ずっとずっとそうだ!どうせこれからも一生懸命したって意味無い!」

「おい」

「もう嫌なの!一生懸命しても認めらないなんて頑張ったって意味無い!」

「おい」

「こんな世界生きてても」

「おい!」

「生きてても意味無い!」

「おい!!!」

「し」


 いつの間にか俺の右手が高く上がり、有希の頭に向かって落ちる。

 パンっ!っと救護室に響く音と共に有希の顔が右側に弾かれた。


「………」

「あ、いや…その…すまん」

「……うぅ、うぅぅぅ」

「あぁぁ…すまん。今のはやりすぎた」

「俊悟くんなんて…俊悟くんなんて…」


 あぁぁ…このパターンはあれだ。よく漫画とかで見るあれだ。

 大っ嫌いだー!!ってやつだ。これで主人公とヒロインの間が一時的に離れるんだ。

 そして、しばらく離れた結果、気持ちが大きくなって寄りを戻す的な。

 絶対にそんなパターンにはならないんだけど…まぁしょうがない。

 ここは大人しく名台詞を受けるしかない。


「俊悟くんなんて……だ、だ、大っ好きなんだからね!!」

「………は?」

「大好きだもん!」

「…いや、違うだろ?ここはあれだろ、嫌いっていうところだろ」

「嘘でもそんなこと言えない!」

「いや、言えよ。展開的におかしいだろ」

「展開なんてぶっ飛ばしちゃうもん!大好きだからね!」

「いやいやいやいや、俺はお前嫌いだけど」

「それは俊悟くんの気持ち。これは私の気持ち」

「なんだその自己中心的な」

「私をぶったもん。この西条家の御令嬢をぶったもん。社会的制裁を加えたいもん!」

「いや、お前がそれ言うと洒落になんないんだよ!」

「俊悟君は私のお婿さんにする!」

「何勝手に暴走してんだよ!」

「むふふー、だって私を2回も傷者にしたんだもん!」

「2回目はともかく足の方は自業自得だろ!」

「いーや、違うね!俊悟君のせいだもん、私決めた!もう強硬手段取る!」

「な、なんだよ…」

「ふん!リレー。リレーで覚悟しておきなさい!絶対に復讐してやる」


 有希の眼は先ほどのどこかを見ている目では無い。

 確実に俺を見ており、俺に宣戦布告をしている。

 いや、そんなことよりもだ。復讐ってなんだ???俺がこいつに何した?

 あぁ…こいつにしたことはさっきの件なんだろうけど…ヤバい…これはヤバいぞ…。


 有希からは言葉にできないがこれからヤバいことをしようとしているのは確かだ。

 その証拠に先ほどまで痛い痛いと言っていたのに、今では屈伸運動をしている始末。

 痛みは気合でどこかに消え去っているらしい。


「リレーで勝負だよ!」


 有希は真剣な顔をしながら、近くに落ちてあった軍手を俺に投げつける。

 これは宣戦布告の合図だ。

 しかし、そんなことはどうでも良い。先ほども言葉で言っているし。

 それよりもなんでこんなところに軍手が落ちているのかが気になって仕方がなかった。


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