第6話 まとめるくん
「それでは体育祭の種目に出場する人を決めたいと思います」
前では体育委員が面倒くさそうに黒板に体育祭の種目を書いていく。
100m、200m、リレー、綱引き、二人三脚と様々な競技が行われるらしい。
体育祭なんて面倒なイベントだが、勉強をしなくていいという点では羽を伸ばせるイベントだ。
長時間外にいるのはしんどいが…。
「えー、それではこれで決定でいいですね。異論は認めない。はい、終了」
あっという間に種目が決められていく。
有能な体育委員だからこそできることだろう。
しかし、しかしだ。なぜ、二人三脚の部分に俺の名前が書かれているのだろう。
いや、あの種目に出ること自体は文句はない。最低、一人2種目と決まっているから。
しかし、どう考えてもパートナーはおかしい。
というか、周りのやつらは何も文句を言わないのもおかしいし、先生も見て見ぬふりだ。
これはあれか?上からの圧力でもかかっているか???
「あ~、偶然だね~。私もパートナーが見つからなくてA組のパートナーがいない人と組めって言われたんだ」
なんという白々しい演技だ…。
有希は両手を大きく広げたあと、手を口元にもっていき、驚く素振りをする。
これでも俺は10年以上この世界に生きているわけだが、人間というのは本当に驚いた時、リアクションは取れないものだ。
しかし、この有希のリアクションはオーバー。オーバーリアクション。
それもちらちらとこちらに視線を送る始末。こいつ、まともに演技する気はないらしい。
「すまないな、足首が悪いんだ。他のパートナーを見つけてくれ」
「100mリレーに選出されてるよ?」
「……100mしか走れないんだ」
「私も100mリレーに出るんだ。敵になっちゃうけど…でも、今日の敵は明日の恋人っていうもんね」
グッとこぶしを作り、何か確信できているかのような顔をする。
こいつの頭は本当に悪い。
そもそも、明日の恋人って…真っ当な少年漫画を腐女子向けに変えるんじゃない。
そういうのは個人的な妄想、もしくは同人誌でやってほしい。
「でもあれだね、運命だよね。だってさ、二人三脚で力を合わしあって、でもリレーで敵になっちゃう。それでも体育祭が終われば恋人同士なんだもん。人生山あり谷ありだけどまさにそうだね」
「バカなのか?お前はとってもバカなのか?」
「あなた。お風呂にします?ご飯にします?それとも…わ、た、し?」
駄目だ、こういう人と関わってはいけないと昔から親に言われていたのだ。
関わってはいけない。
「あぁん、もー!俊吾君、そこはお前、かっこはーとカッコ閉じる。って言ってくれないと私だけ痛い人じゃない」
「自覚があるんだな。自覚があるなら俺に近寄るな。俺まで変な奴だと思われるだろ」
「私の好きな人が普通なわけないでしょ。俊吾くんは世界を敵に回しても私の味方でいてくれる唯一の存在だもん」
「その漫画脳かゲーム脳か知らんが、そんな思考を持っているやつの味方になるわけがないだろう。気持ち悪い」
「あぁーー!また言った!何回も言ってるけど大宇宙クラスの心の広さを持つわた」
「てめぇの心の広さなんて小学生が使うような筆箱に着いてる鉛筆削りの容量並みに狭いわ」
「あ、あれ本当に小さいよね。2本ぐらい削ったらいっぱいになるもん」
こいつ、世界でも有数の金持ちのくせにあんな筆箱使ってたのかよ…。
ある意味すごいことを知ってしまって唖然としてしまう。
そういや、こいつやけに庶民臭いもんな。
「あ、俊吾君あれやった?貧乏削り。両側を削るの。
あれって便利に見えるけど実際には使えないよね。それに使える量も普通にやるより少なくなるし。
なんで貧乏削りっていうんだろ?むしろ、富豪削りじゃない?」
「知るか」
「むぅぅ、人がせっかく昔のことで盛り上がってるのに!でも、私はあれが好きだった。まとめるくん!」
「あぁ…あれな…」
昔、大ブームが起きたまとまるくん。
消しゴムで文字を消した際に出る消しカスを1つの塊にまとめやすくなっているやつだ。
値段が少し高いくせに消費しやすい、消えにくい、角が取れやすいという不便っぷり。
よく、バカなやつが大きな塊を作って、鼻くそ~と見せていたっけ。
「私、あれ使って大きくして、はなく……ごほん、塊を作るのが好きだったんだ」
「お前、小さいときからバカだったんだな…」
女の子であれをやっているやつがいるとは…。
自分が言おうとしたことが俺にバレてしまったことに赤面しながら別の話で挽回しようとする有希を見る。
そして、確信する。こいつはバカだと。