第5話 部活
高校生活の放課後と言えば部活動だ。
高校生活の部活動と言えば、青春の第一歩でもあり、先輩や後輩とのコミュニケーションをうまく作り上げる最も簡単なツールでもある。
しかし、それは時間が束縛されるわけだが…。
「ん~、いつも思うんだけどさ。私ってなんでこんなに俊吾君のこと好きなんだろう?」
靴箱で靴を履き変え、グランドから響く青春謳歌を聞く。
俺の横では1学期まであの青春謳歌をしていた有希が不思議そうな顔をしながら立っている。
「そんなもん知るか」
「うん、そういうところが好きかも」
「お前、さっさと陸上部に戻れよ」
この西条有希はお金持ちで成績優秀、容姿端麗、文武両道なわけだけど、とりわけ陸上の短距離の才能がある。
中学時代には全国3位の成績をたたき出したほどだ。本当に神様にひいきされている…。
そんな成績を持っていた彼女には陸上部からの強烈なスカウトがあったわけだけど。
「ん~もう走るのは良いかなぁ。全国大会で限界を見た気がする」
このように努力をすることをやめてしまった。
はっきり言って俺のような素人の目から見ても、彼女は特別な存在だ。
1学期のとき、体育で女子が走っている姿を見たことがあるがこいつは別格の速さであり、走る姿は奇麗だった。
陸上部のやつも「西条さんは天才だな」と感心しながら体操服から見える太ももを凝視していたほどだ。
だから、こいつが陸上部に入り、努力をすればインターハイ優勝も夢ではないんだけど…。
「あっそ。お前みたいな才能を持ってるやつの考えることはわからんな」
「才能って言葉で片付けるのは本当の努力をしていない人だからね。私も中学は死ぬ気で頑張ったもん」
俺の言葉にかちんっとしたのかムッとした顔で反論してくる。
確かに言われてみればそうだろうな…。どんな才能があったとしても才能だけで活躍できるのはある一定のレベルまでだ。全国、世界とレベルが上がればそれこそ天才の集まる場所。
その中でいかに才能と努力がかみ合うかで成績が生まれる。
ふむ…こいつの言うとおりだ。
「確かにな。悪かった」
「え?あ、そんな謝らなくても」
「いや、確かに天才とか才能とかで簡単にそいつの努力を無碍にするのはやっちゃだめだ」
「……うぅ、なんだか恥ずかしい。でも、俊吾くんが褒めてくれたから中学頑張った甲斐あったかも!」
「調子に乗るなよ」
俺の横を歩きながら手をつなごうと仕掛けてくる有希に対し、手を払う。
校門の向こう側には今朝止まっていた高級車が止まっており、その近くに40代ぐらいの奇麗な女性が立っている。
「あ、もう来てるのか…いつもながら空気読んでほしいなぁ…」
「迎えが来るだけましだろ。あとは寝てても家に着くんだから」
「俊吾君と別れるのが寂しいよぉ。ずっと一緒にいたいもん」
「その大宇宙クラスの頭の悪さをどうにかしたら1cmだけ近付いてもいいぞ?」
「これ以上、頭を賢くしたら大変なことになっちゃう。もうね、世界の理を数値化しちゃうよ」
「その発想がすでに頭の悪さを露呈しているな」
「有希お嬢様、お疲れ様でした」
校門を抜けると奇麗な女性が頭を下げる。
こういうのを見ると本当にあの西条家のご令嬢なのだと思わせる。
本当に大丈夫か?西条家の今後。
ほんの少しの心配も3歩歩けば消え去り、高級車に背を向けながらバス停へと向かう。
その間後ろからは叫び声のようなものが飛んできていた。
「また明日ね~、しゅんごくーーーーん!」