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せいしゅん!  作者: もひぷる
第3章
45/45

第45話 夏合宿

 夏と言えば、俺にとって長期休暇であり、一日中ゲームができる日なのだ。

 例えば、レースゲームで24時間耐久をチャレンジしてみたり、RPGをクリアするまでやめない!と言った変な企画もできるゲーム三昧な休みが実行可能となる。

 しかし、部活をしている奴らにとっては夏は力をつけるために合宿をする季節なのだ。


「あっついのに頑張るなぁ・・・」


 山の上にある無駄に大きなグラウンド。

 陸上競技から野球、サッカーまで幅広いスポーツが可能な施設がある。

 夏はここに数多くの学校が合宿を行いにくるのだ。

 そして、チョコがいる陸上部もここに来ている。


 真夏の日差しの下、脱水やら熱中症にならないかと心配になりながらも一生懸命走っている部員たちを少し離れたクーラーの効いた下宿の部屋から見る。

 どうして、陸上部員でもない俺がこんな陸上部が使用している旅館の中にいるかというと、巻き込まれたのだ。

 久しぶりにデートをしようとチョコが言ってきたため、ウキウキしながら待ち合わせ場所に行くと学校の名前が入ったバンが2台止まっており、陸上部員たちが集まっていた。

 そして、俺を見つけたチョコは笑顔で「マネージャーが一人、体調を崩したから手伝って」と頼んでくる。

 もちろん、断るつもりだったが断る前に陸上部員の前でチョコに唇を奪われ、黄色い歓声と殺意のこもった視線を浴びた俺はバンの中に押し込まれた。


 まぁ陸上に関して素人な俺が、マネージャーの代わりをしてほしいと言われたところで俺に協力できるようなことは少なく、結局ダラダラと遠足気分で楽しんでたりするんだけど。


 日が傾き始めた頃、ようやく陸上部員たちが汗臭い状態で帰ってくる。

 さすが合宿だ。みんなが疲れきっている。


「彼氏さん、あの今大丈夫ですか?」


 宿のラウンジで小説を読んでいると1年生のマネージャーが話しかけてくる。

 彼氏さんって・・・まぁいいけど。


「ああ。何かな?」

「あの、チョコ先輩が呼んで来いって」

「チョコが?」

「はい。食堂で待ってると」

「りょーかい。ありがとう」


 パタンと小説を閉じ、本棚に戻してから、食堂の方へ歩く。

 ここは自分たちでご飯を作らなければならない宿だから、おそらく料理しろってことだろう。

 面倒だ・・・と思いながら廊下を歩き、呼ばれた食堂の中に入るとチョコがいた。


「呼ばれて来たけどなに?」

「俊悟、カレーを作って欲しい」

「俺が?別にいいけど、他のマネージャーは?」

「いるわけないでしょ。あんた、今日何もしてないじゃん」

「まぁそうだけど。つか、デートだから来たのにこれは無しじゃね?」

「それについてはごめん。でも、合宿に付いてきてほしいなんて言ったら来ないでしょ」

「まぁな。でもまぁ・・・キス一回分じゃ足りないからあとで追加要求してもいいか?」

「変態。私もこうやって練習が終わっても手伝おうとしてるんだから逆に感謝してほしい」

「それはどうも。他の部員は?」

「ぐったり。そもそも動けないぐらい練習するのが目的だし」

「お前動けるじゃん。ちゃんとしろ」

「してる。無理して手伝ってあげてる」


 それなら、本来こういう事を任されているマネージャー連中に任せればいいのに。

 俺を呼んだ1年生とかあと何人かいたはずだ。と言いたい感じだ。

 しかし、俺の横で疲労から人参を切るのも辛そうなチョコを見ていたら言うのも引ける。


「疲れてんなら、そこで座ってろ。別に一人でやろうと思えばできるし。会話の相手をしてくれたらいい」

「でも、あんたに頼んだの私だし」

「疲れてるお前を見てるとなんか指切りそうで怖い。ほら、座ってろ」


 チョコから包丁を取り上げ、近くにある椅子に座らせる。

 無理やり座らせたから抵抗があると思ったがすんなりと座った辺りを見ると抵抗する力も残っていないのだろう。

 そもそも、こいつが料理を手伝うのが意味が分からない。

 陸上部はマネージャーがあと2人いたはずだ。

 その2人と俺がやればいいのに、ここにはいない。

 あの俺を呼んできたマネージャーは何をしているんだろう?


「なぁ、他のマネージャーは?」

「私が休んでいいって言った」

「ふ~ん、どうしてだ?」

「・・・・この合宿中、あんたと一緒に入れるのはこの時間ぐらいだから」

「・・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・」

「・・・なんか言え」

「あ~・・・今すぐ抱きしめてキスしたいかも」


 力なくボソッと言ったチョコの言葉に俺の心が飛び跳ねる。

 普段のこいつなら口が裂けても言わないような言葉だ。

 というか、こんな嬉しい事を言ってくれるとは・・・。

 包丁を置き、椅子に座っているチョコに抱きつく。


「やめてほしいんだけど」

「もうちょい待って。お前は大変なモノを盗んだ、それは俺のときめき」

「バカじゃない?ほら、さっさと作りなさい。あと1時間と30分だから」

「チョコがトキメかせたんだろ?まぁいいけどさ、彼氏が作るカレー食ってよく寝て、頑張れよ」


 チョコはハイハイ、といったような感じで手を左右に振る。

 予想通りの態度だが、それが逆に可愛い。

 チョコの頭をポンポンと優しく触り終わったあと、カレーライスを作る作業に移った。



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