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せいしゅん!  作者: もひぷる
第3章
44/45

第44話 高校総体

「はぁ~・・・すげぇな。さすが各都道府県の代表だけあるなぁ」


 真っ青な晴天の空の下、大歓声の会場の中、いろんな競技が行われている。


「そんなところで立ってると他の人に邪魔になるから座れば?」

「ああ。それにしてもすげぇな。去年はチョコもあそこに走ってたんだろ?」

「まぁね」


 硬い椅子に座り、いろんな競技に目を移す。

 インターハイ。もしくは高校総体。

 全国の高校生たちがこの大会を目指して努力をしている高校生の大舞台だ。

 そんな大舞台に俺とチョコは観戦者として来ている。

 チョコ自体はあまり来たくないと言っていたが、暇を持て余している俺のわがままで今日は来てもらっていた。

 まぁ本当の目的はあの出来事以降、陸上の熱が冷めてしまったチョコに熱を入れてくれ!と陸上部員と監督さんに言われたからなんだけど。


「今日は最高のコンディションだね。風もそこまで強くないし、追い風だし」

「風って影響あるのか?走るだけだろ?」

「ある。あと、2m以上の風になると追い風参考になって公式記録にならない」

「ふ~ん。影響あるとは思えないけどなぁ」

「私は体が軽いからかなり影響ある。向かい風の突風なんてシャレにならない」

「そういや、有希から聞いたけどお前のスタートって全国でも屈指らしいな」

「後半伸ばせないから最初に差をつけないと勝てないだけ」

「なんかコツがあるわけ?飛び出すタイミングとか」

「そりゃあることにはあるけど。でも、言葉では説明できない」

「感覚か?」

「そう。あとは体幹と筋肉の瞬発力」

「そういや、お前の身体すごいもんな。腹割れてるし」

「こんなところでそんな事言うな。変態」


 ほんのりと頬を赤く染めたチョコを見て、こっちまで赤くしてしまう。

 しかし、そんな気まずい状態はすぎに打ち消される。


「あ、100mの予選が始まった」


 チョコの視線の先には100mの選手たちがいる。

 やっぱりこの会場に連れてきてよかったかもしれない。

 走る選手たちを見る目は真剣そのものだ。


「俊悟、あの子」

「んあ?」


 チョコが指差したところを見ると、この観客席からでも異常な雰囲気が感じられる奴がいる。

 先ほどまでざわざわしていた観客席がシーンと静まり返る。

 あれがチョコや有希が言っていた金地彩芽か。

 スタートの合図と共に一番早く飛び出し、ゴールまで半分以上残しているというのに圧倒的な差が生まれ、そのまま一人だけ余裕な顔でゴールする。


「速いなぁ」

「40m付近で流してるから本当はもっと速い」

「流すって力抜いてんのか?」

「そう。まぁ予選だし、スタートであれだけの差ができれば十分」

「いや、予選ってこれ一応高校総体だぞ?」

「それだけ実力差があるって事」

「・・・お前、あんなのと戦ってんのか?ってもしかしてお前も去年あんなことしてたのか?」

「あそこまで露骨に流さないけど」

「・・・お前をちょっと舐めてた」


 いろんな奴から速い速いとは聞いていたし、実際に記録もあるから速いと思っていたが・・・ここまですごいとは思わなかった。

 というか、女子がこんなに早く走るとは思わなかった。

 チョコは何言ってんの?と言いたげな顔をしながら、100mの選手を見る。


「私もあそこで走りたかったなぁ」

「・・・」

「そんな顔しなくていいよ。俊悟のせいじゃないし。むしろ、感謝してる。あそこで止められなかったらもっと酷くなってた」

「そう言ってもらえると助かる。さてっと、次の100mはいつ頃?」

「14時頃だから時間はあるね」

「昼にはまだ早いし・・・とりあえず飲み物買ってくる。何がいい?」

「オレンジ。おごり?」

「奢ってやろうと思ったけど」

「ケチだねぇ」


 チョコに手を差し出し、小銭を出すのを待つ。

 ジュースぐらいなら奢るが、一瞬だけ待ってました!みたいな顔をしたため、奢るのは止める。

 チョコから小銭を受け取り、近くの自動販売機でジュースを買う。

 そして、元の席に戻るとチョコに話しかけている女の子がいる。

 遠くから眺めていると握手を求められているらしい。

 チョコに握手をしてもらった女の子は嬉しそうな顔をしながら小走りに俺の横を通った。


「ほら、オレンジ。誰?さっきの」

「ありがと。ファンだってさ」

「へぇ~」

「来年は絶対に走ってくださいね!って応援された」

「そりゃこの舞台に来ないと罰が当たるな」

「そうだね。はぁぁ~」

「なんだよ、ため息吐いて」

「いや。・・・ありがとう、俊悟」


 若干照れくさそうな顔をしながらお礼を言うチョコはあまりにも可愛く、抱きしめたくなったがそこは自分を抑える。

 その代わり、チョコの余っている手を繋ぎ、頑張っている選手たちを眺めた。



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