第42話 4継
梅雨も続き、そろそろ汗ばむ季節になり始めた頃。
スポーツ系の部活は青春の汗を飛ばしまくり、次に行われる大会に向けて頑張っていた。
もちろん、その中にはチョコもいる。
しかし、陸上部の部員から聞いた話では今年の女子陸上は厳しいらしい。
100m走に関しては、チョコがインターハイ確実だと言われているが、4継が厳しいらしい。
毎年、チョコ程の走り手はいなかったが、それなりの大会でも上位に食い込む選手が多くいたため、4継に関しては毎年インターハイに出場するという快挙を成し遂げていた。
しかし、今年の3年生は短距離に関しては不作の年であり、唯一1年で期待の星と思われていた選手は筋肉を痛めて出場できない。
そいつの話で知ったんだが、うちの学校はスプリンター王国と言われているらしく、短距離に関してはこの地域では無類の強さを誇っていたらしい。
そのスプリンター王国であるうちの学校が陸上競技の花形でもある4継で勝利を逃すとなると大ニュース確実だ。
「お前、今年厳しいらしいな」
「まぁね。でも、先輩たちも気合入ってるしバトンワークも良くなってるから勝てる」
「ふ~ん。まぁ応援は行ってやるよ」
帰りのバスの中、チョコの目は真剣そのもの。
陸上のことはよく知らないが、少しだけチョコの気合の入り方が気になった。
「なぁ気負いすぎじゃね?」
「私が?」
「ああ」
「別に普通。大会前はいつもこんな感じだし。俊悟には悪いけど」
「いや、別にいいんだけどさ。陸上の事はよく知らんけど、お前100mが本命だろ?」
「まぁ個人成績ではね。でも、4継は別格」
「他の人はお前より遅いんだろ?」
「そうやって人が言いにくい事をよく言えるね」
「癪に障ったか?」
「事実だし別に。でも、バトンがうまく渡らなければ加速できないし、個人能力だけが必要ってわけでもないんだよ」
「ふ~ん、よく分からんな」
「まぁ個人能力が高いことに越したことはないけどね」
「100mの方はどうなんだ?目標」
「ん~、まぁ目標は全国制覇だけど…今年は分からない」
「なんで?」
「金地彩芽って子が帰ってきた」
「誰それ」
「有希ちゃんに聞いてみなよ。行ってるんでしょファミレス」
「妬いてるのか?」
「別に。単純にこれから戦う人間を褒めるのが嫌なだけ」
「なんだそれ。まぁいいけど、それよりも今日お前の家行っていい?」
「また?……まぁいいけど」
チョコは呆れたような顔をしてバスからの風景に目を移す。
呆れるのも無理はないが、ここまで露骨な顔をしなくてもいいだろうに…。
最近、よくチョコの家に行っている。
目的はもちろんチョコのあの大きなTVと音響環境だ。
あの環境でゲームをした日には自分の部屋でゲームをするのが馬鹿らしくなってしまう。
一日中だってゲームができそうだ。
俺がワクワクしながらゲームをしている後ろで今日の授業の復習をするチョコに威圧感はものすごい物があるが…。




