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せいしゅん!  作者: もひぷる
第3章
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第40話 西条統二という男

 チョコの突然の言葉に少しの間、頭の電気信号が止まったように感じる。

 いつの間にか乾いてしまっていた喉を潤し、回転が止まってしまっている頭を再起動させた。


「どういうことだ?」


 俺の問いに対して、予想していたかのような反応をしながらチョコは喉を潤すために水の飲む。


「西条統二の娘。ちなみに戸籍上は別の男性になってるけどね」

「は?」

「私っていう存在は一応認められてるけど、本当は違うってこと」

「いや、意味がわからん」

「まぁ難しい事だから理解できないのも無理ないね。私がこのまま話してもいいけど、俊悟の聞きたい事を答えたほうがわかるかも。何が聞きたい?」

「聞きたいって…なんで西条統二とお前が関係してんだよ」

「娘だから」

「いや、戸籍上は違うんだろ?」

「西条統二はいろんなところに人脈があるからね。それぐらいは出来ると思う」

「…いや、否定したい気持ちでいっぱいだけど。それよりも、どうしてそこまでして隠したい存在のお前にここまでするんだ?」


 戸籍まで改ざんしてチョコを隠したいはずなのに、ここまでこいつに援助する意味が分からない。

 というか、こいつがどうしてこんな淡々と重大な話をしているのかすら理解できない。


「これ聞くと本気で軽蔑するけどいいの?」

「既に西条統二に対しては底に落ちてる」

「そう。ん~、どう説明すればいいかな…。有希ちゃんの母親のことは知ってる?」

「いや、知らん」

「有希ちゃんの母親はもう子どもを産めない身体なんだよ。病気か何かで」

「…それで?」

「もし、有希ちゃんに何かあった時どうなる?西条家はそこで途絶える」

「は?……最低だな」


 自分の血を途絶えさせないために他の女性に手を出すとか…考えただけで吐き気がする。


「でも、おかしいだろ。有希には悪いが離婚も考えるだろ?そういう事をする奴なら」

「イメージが悪くなるでしょ。今みたいな権力は確立できていないし、マスコミも好きそうなネタだからね。出る杭は打たれるけど、西条統二はすでに打つ側に立っている」

「えげつないな…」

「こんな急激に成長企業なんて裏で何かをやってるもんでしょ。まぁ私が西条統二の隠し子って知るまでは微塵も思わなかったけど」

「でも、今も援助する理由が分からない。有希はもう大きくなっただろ」

「さぁ?それは私も知らない。でも、月に家賃以外に100万入ってきてるのは真実。まぁ何かしらに利用ができると思ってるんじゃない」

「お前はそれでいいのか?」

「そこまで考えてない。何かあればその時対処すればいいし」

「……よくわからんな。ただ、無性に腹が立つ」

「言っておくけど、これをバラしたら私死ぬから」

「言えるわけないだろ」

「あっそ。でもまぁ…どうしてあの人が援助を続けているのかは少しわかる気がする」

「どういうことだ?」

「あの人は神農村に興味を持ってる。実際に有希ちゃんを差し出す程に」

「だから?」

「もし、それぐらい興味があるなら今の状況はあの人にとって嬉しい状況だね」

「あぁ…なるほどな」


 有希が無理だったから次は隠し子であるチョコか。

 でも、それはないだろう。

 一度だけ会ったぐらいだが、そこまでする人間とは思えない。

 というか、どうしてあの村を手に入れたいぐらいで有希をけし掛けたのか、ようやくわかった。

 チョコという後釜がいるからだ。戸籍上は別だが、今のDNA鑑定を行えばチョコが西条統二の娘であることは証明できる。

 いつかこの方法を使うために今でも援助を続けていると考えれば、援助をする理由もわかる。

 そう考えると…チョコ以外にもいそうだな…。


「俊悟が考えてる内容は私も同意見ね。有希ちゃんもその辺は理解してると思うよ」

「よく平然としていられるな。お前も有希も」

「知った時は本気で死のうと思ったけどね。でも、死んでたらあんたとは会えなかったし、まぁ生きてればいいことあるもんだよ」

「さりげなく嬉しい事を言うな…。ドキっとしただろ」

「あはは、私も言って恥ずかしくなった」

「バカか…なぁそっちに座っていいか?なんか抱きしめたくなった」

「いいよ。いやらしい事考えてないなら」


 こんな状況でそんな事を考える程、俺は腐ってはない。

 しかし、そんなことを言われると少しだけ頭の端っこに浮かんでくる。

 俺はチョコの横に座り、チョコの頭を包むように抱きしめる。

 そして、しばらく沈黙のあと、目と目が合い、自然と唇を合わせる。

 なんというか…これは恐ろしく良いムードなのかもしれない。

 しかし、チョコはそんな恐ろしく良いムードなのに何か面白い事を思いついたのかクスッと笑った。


「もし、私があんたの子を産んだらあいつの思い通りになるのかな」

「この状況でそれ言うか?」

「あんたが変な事を考えたから」

「そりゃお前…男だし」

「女の弱みにつけ込む奴は信用しないんだけど」

「はいはい。でも、人を辱めたから罰を与える」


 俺はチョコの頭を自分の胸に押し付けるようにきつく抱きしめる。

 急に抱きしめられ、バタバタ手足を暴れだすチョコを抱きしめながら、しんみりとした雰囲気が変わっていくのを感じた。




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