第39話 チョコのお家
いつもの定位置である座席に2人で座り、バスに揺られながらチョコの家がある佳之木町へと向かっている。
佳之木町に着くまでの間、特に意味もない会話を続けているが俺の頭の中ではそりゃもう男子高校生らしい妄想劇が繰り広げられていた。
もちろん、そんな妄想劇を顔に出さないようにしていたがチョコの表情からは軽く呆れているようなものを感じ取れる。
俺は案外顔に出やすいのかもしれない。
「変態、降りるよ」
「変態言うなし」
佳之木町に付く手前で下車ボタンを押し、止まったところで一緒に降りる。
それからはしばらく歩いていると、俺の予想を超えるような物が前に現れる。
チョコの親はすでに居ないことは知っている。孤児だって言っていたから。
だから、資金提供をするとなると親戚関係になると予想していた。
それに、なんとなくだが佳之木町という田舎町だし、家賃も比較的安めの場所に住んでいると勝手に予想していた。
しかし、現実は違ったらしい。
最近できたような綺麗な近代風のマンション。マンションの出入り口はセキュリティ万全なのか、部屋番号を押し、インターホンを押して中の人に開けてもらうか、鍵を使うかという物。
チョコは鍵を使い、出入口を開けるとエレベーターのボタンを押す。
そして、中に入ると再び俺の予想を超える行動に出る。
最上階のボタンを押したのだ。
更に驚くべきことに、最上階に着き、ドアが開くとそこは既に玄関。
この階に他の部屋は存在しない。
「マジかよ…」
「ほら、早くしないと閉まる」
「あ、ああ」
チョコに促されるまま、家の中に入り、奥へと進む。
とてもじゃないが学生のひとり暮らしで住むような家ではない。
一般家庭でも住むような家ではないだろう。
俺が呆気に取られていると、チョコは「着替えてくる」と言って奥の部屋へ入っていく。
普通に考えて、チョコが入った部屋があいつの私室だろうか。
それにしても……無駄に大きいTVがあるし、音響環境もいくら掛けているか想像もつかない。
そして、何よりも天井に四角の枠があるのが気になって仕方がない。
あれはもしかするとプロジェクターではないだろうか…。
「何してんの?あぁ、それ動かないよ。リモコンどこか行ったし」
私室から出てきたチョコは特別なことなんて無いかのように言って冷蔵庫を開け、水の入ったペットボトルを2本取り、1本を俺に渡すとソファに座る。
「お前……色々つっこみたいことはあるんだけど、そのジャージはどうなの?私服だろ?」
「別にほかにあるけど、家ではこれが一番動きやすいし」
「彼氏が来てるんだから、そこはミニスカートとかして欲しかった」
「はぁ?バカじゃないの。そもそも服なんか興味もそんなにないし」
「まぁ俺もそうだけど。そういや、化粧とかもしないよな」
「面倒だからね。肌の衰えを感じた時からする」
「健全だな。それにしても、この家なんだよ。予想を超えすぎて呆れてるぞ」
「…まぁそこらへんを説明したいから来てもらったわけだけど。とりあえず座れば?」
「ああ」
これまた高そうなソファに腰を掛け、もらった水を一口飲む。
さて…この家のことを色々聞きたいところだけど、チョコのペースで聞いた方が良さそうな気がする。こいつもそっちのほうが話しやすいだろうし。
チョコが話し始めるまで俺は黙っていると、話す覚悟ができたのかチョコが口を開く。
「どういう順番で話せばいいのか分からないから先に核心を言う」
「ああ」
「でも、この話は絶対に他の人には言って欲しくない。言ったら私は死ぬ」
「お前がか?逆じゃね?…まぁそれぐらいの覚悟をして聞けってことか?」
「そう。だって、あんた殺すことできないし」
「わかった。お前を死なせないように他のやつには言わない」
お前を殺すって言葉以上に信ぴょう性があるな…自分が死ぬってのは…と思いながら頷く。
「私の親が死んだってのは言ったよね」
「母親だっけか?」
「そう。2年前に病気で亡くなった」
「そっか」
「で、お母さんが死ぬ前に教えてくれた事なんだけど、私の父親は……西条統二。有希ちゃんの父親」
「……は?」
「お母さんの美濃清子と西条統二の子供が私。まぁ隠し子ってやつ」
「………」
空いた口が塞がらないっていうのは今の状況のことを言うのだろうか…。
あまりにも衝撃的すぎて俺の頭の回転が止まってしまった。




