第37話 付き合う?
カラオケからの帰り道。
普段ならバカな話をしながらタラタラとバス停へ向かい、バスを待つ時間も内容の薄い話を話している所だ。
しかし、今日ばかりは俺もチョコも気まずい雰囲気になっている。
そりゃそうだろう。もし、俺達が20歳を超えていて、お酒を飲んだいたなら笑い話で済んだかもしれないが、俺達が飲んでいたのはビールでも日本酒でも無ければ、ただのオレンジジュースかアップルジュース、お茶。炭酸水ですらない。
そんな酔うとはかけ離れた状況の中であんなことをしてしまったのだ。それも迫ったチョコの立場だったら俺はこの場から逃げ去りたいとさえ思う。それをしないこいつは大した根性だ。
この気まずい雰囲気を作りあげたのはチョコではあるが、ここまで続けてるのは俺の責任だろう。
そもそも、俺が有希に告白をした日からまた一カ月も経っていない。
それも今日、こいつに俺が有希に告白をしたと言うことがバレたばかりなのに、こんな急展開は予想もしなかった。
いや、今はそんなことはどうでも良い。
俺はコッソリと横にいるチョコの様子を窺うと、俯きながら頬を赤くしている。
ホント…こいつはズルい…。
こういう手口は普通男がやる手口だろ…。
思わず深いため息を吐いてしまうと、横にいたチョコがビクっと反応する。
やっぱりこいつはアレだ、ズルい。
「なぁ」
「…なに」
「付き合おうっか」
「………は?」
「付き合うか、って言ってんだよ」
「有希ちゃんは」
「あ~、まぁ正直なところ諦めは付いてない。でも、確かに世界が違うってのは理解してるし、たぶん今の俺はお前と居る方が楽しいんじゃないかなって思ってる。こんなこと言うの最低だけど」
「…私にも有希ちゃんにも失礼だね」
「まぁな。でもまぁ、俺はそういう人間なのかもしれん。高校2年っていう青春の間に彼女ってのが欲しかっただけかもしれない。だから、お前が俺の事を好きって言ってくれた時は単純に嬉しかった」
「このタイミングでそれ言われても嬉しくないんだけど」
「悪いな。でも、今の俺はお前と付き合ってみたいと思ってる。だけど、信頼できるお前だから言う。
俺の中にはまだ有希が居る。たぶん、まだあいつの事が好きだな。でもそれと同じぐらいか、少し少ないぐらいでチョコの事も好きになりつつある」
「そういう正直な事言わなくて良いんじゃない?」
「そうだろうな。でも、お前には言っておきたい気がした。他のやつなら言わない。有希が相手なら絶対に言わない。でもお前なら言える。そう言う意味では有希よりお前の方が信頼しているし、信じられるんだと思う。これが好きなのかは分からんが。でも、今はお前と付き合ってみたいし、キスもしたい」
「身体目的なの?男ってのは」
「男は女よりも純粋だぞ。好きな奴とやりたい」
「それは女も同じだっての」
「俺じゃまだそこまで行ってないか?」
「はぁぁぁ………あんた、ズルイわ。あ~惚れた弱みって奴かなぁ…」
チョコは頭を掻きながら、照れくさそうに俺との距離を詰め、軽く口をを合わせる。
ホント…可愛い奴だ。
「これでいいでしょ」
「ああ、満足」
「満足すんな」
「ほら、バス来たぞ。衆人環視の前でやるのは勘弁してくれ」
「絶対いつか殴る。本気で殴る」
「そんときはちゃんと受け止めてやるよ。ほら、行くぞ」
バスがバス停に停まり、入口が開く。
俺が先に一段乗り、ムッとした表情をしつつも顔を赤く染めているチョコに手を差し出す。
チョコはその手を取り、俺に引っ張られるようにバスの中へと入った。




