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せいしゅん!  作者: もひぷる
第2章
36/45

第36話 急展開!?

「おいこらー!人が歌ってる時にスマホいじってんじゃねー!」


 こいつは酔ってるのか?と思いたくなるほど上機嫌なチョコに睨みを効かせ、スマホを触る。

 こいつのせいで夕飯の時間に間に合わなくなるからそのメールをしているのだ。


「ふぅ、それにしてもカラオケなんて凄く久しぶりかも」

「お前、部活してるもんな。帰るついでに寄るなんてことできないだろ」

「まぁね。それに友達もほとんど寮生だから門限あるし。部活終わった後じゃファミレスすら寄れない」

「大変だな、お前ら部活勢も」

「好きでやってるんだし良いでしょ。まぁ私は寮生じゃないから門限なんて無いけど。帰る時間が遅くなるのは精神的にダメージあるけど」

「佳之木町だからな、おまえ。朝練も相当キツイだろ」

「朝連はやってないよ。朝は走って通うから、それが朝練っちゃ朝練だけど」

「…は?」


 佳之木町からここまでだいたい20キロ近くはある。

 自転車で通っても1時間以上の道のりだ。

 それを走る?この短距離ランナーが?

 チョコはまるで当然かのように乾いた喉をオレンジジュースで潤し、次の曲を選択するため機械をいじる。

 そういえば、よく考えてみればインターハイに出て上位入賞するほどの実力者であるこいつが寮生じゃないのが不思議で仕方がない。

 それも、確かこいつは孤児だ。

 うちの学校は特待生には学費免除、寮使用料免除と太っ腹な待遇をしている。

 だから、スポーツで特待生枠に入っている人間はほとんど寮生なわけだけど、こいつは違う。

 佳之木町っていう神農村並みの田舎に住んでいる。


「お前、佳之木町のどこに住んでんだ?」

「何?藪から棒に」

「こういう言い方はダメかもしれんが、お前孤児だし。部活してるからバイトもしてる暇ないだろ」

「そうだけど?」

「どうやって暮らしてんだ?金は?」

「あぁ、あれ、足長おじさんが」

「ふざけるなよ?」

「はぁぁ…それを言うほどの信頼関係あるの?私とあんたに」

「いや。ただ気になっただけだ。言いたくないなら言わなくていい」

「まぁ俊悟なら別に良いけどさ。言いふらすとかしなさそうだし。でも、これを聞いたら軽蔑するよ?」

「お前をか?」

「まぁいろんな人を」

「は?」

「これ以上言う義理ないでしょ。でも本当に聞きたいなら聞かせて上げても良い。あ、そうだ、今ここで私にキスしたら教えてあげよう。ほら、やってみな」


 チョコはそういうと俺の横に移動し、目を瞑る。

 こいつ、本当にあり得ないな…と思いながらも、目を瞑るチョコの顔は贔屓目無しで可愛いと思えてくる。

 しかし、そんなことでキスをするほど俺の自制心が崩壊しているわけでもなく、いつこいつが目を開けるのかとじっくりと待つ。

 30秒間ぐらい、チョコは目を瞑り続けた後、呆れたような顔をして目を開ける。


「はぁぁ、面白くない」

「別にそれほど知りたいと思ってない。つか、そんな簡単にキスさせるなよ」

「悟ってほしいね。女の子がキスをさせるなんて普通あり得ないでしょ」

「はぁ?」

「鈍感だね。少なからず私も俊悟に好意を抱いてるって事だよ。そうじゃなきゃこんなことしない」

「……それ告白か?」

「まぁね。付き合いたいとかまでは思ってないけど。でもまぁ…そうだね、とりあえず私に恥をかかせたお詫びとしてっと」

「ちょ、まっ!」


 チョコは俺の顔を両手で押さえ、逃げないようにするとあっという間に距離を縮める。

 そして、俺の人生最初のファーストキスを奪い去った。

 ファーストキスはレモンの味がするって聞いていたがそんなのは一切無い。

 ただ柔らかいって感触しか感じない。いや、ファーストキスでよくそんな感触を楽しんだな!と褒めたくなる。いや、そんなことを考えている暇じゃない。


 実際の時間では一瞬だったろうが、俺の体内時計では30分ぐらい経ったようなぐらい長く感じる。

 チョコが離れ、少しだけ頬を赤らめる。


「ちょっと強引だったかも」

「………強引すぎるぞ」

「アハハ………ごめん」

「…………」

「……………あーー!もう!今のは無し!忘れなさい」

「無理だろ…一応、俺のファーストキスだったんだからな」

「私もそうだよ…。よし、もう一回しよっか」

「…アホか。だれがや」

「………うん、やっぱり私、あんたのこと好きかも。付き合おっか」


 セカンドキスを奪われ、軽く放心状態になってしまう。

 俺の顔が大噴火しそうなほど、赤く染まる中、目の前にいるチョコの顔も普段では想像もできないほど顔を赤く染める。

 その顔は俺の中にある有希に対する気持ちをどこかに隠してしまいそうな衝撃があった。



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