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せいしゅん!  作者: もひぷる
第2章
35/45

第35話 チョコとファミレス!

GW。

ゴールデンウィークと言えば長い休みがあるって印象がある。

もちろん、休みと休みの間には学校があるんだけどこの日に関しては休む奴が大量にいる。

しかし、この長期休暇の中、やることがない俺にとっては暇つぶしの学校でもあるのだ。


前では教師がやる気の無さそうな顔で黒板に文字を書いていく。

うちのクラスは30人いるが、今日に限っては15人と学級閉鎖もありな登校人数だ。

もちろん、有希の姿はない。

あいつは確か海外に行っているはずだ。どこの国かは興味が無かったから覚えていないけど。


「はぁ、給料をもらっている俺が言うのもなんだけど、この人数だと教鞭を振るう気にならないな…」


黒板に文字を書き終えた教師がついに禁句の言葉を放つ。

その言葉はこの学校に来て、一生懸命勉強をしようと心に決めていた学生たちの士気を叩き落す。

ただでさえ、士気が低いというのに更に低くなる。

しかしまぁ…いつもなら若干ピリピリしている教室がここまで緩くなるっていうのは有希の影響だろうか。

あいつがいるだけで教師陣たちは緊張する。

ずっと一緒にいるクラスメイト達でさえ、有希が少しだけ不機嫌な顔すると影響しているのだから。

まぁ主にあいつの機嫌が悪くなるのは俺かチョコが原因なんだけど。


「ここ俊悟のおごり?」

「バカなのか?割り勘に決まってるだろ」

「女の子に払わせるとかどんだけ甲斐性無しなのさ」

「有希と来る時はいつも奢ってもらってるぞ」

「あ~、そういうことまだしてるんだ。というか、女子に奢ってもらってる男子ってすっごいダサいよね」

「男女差別だぞ、それ。それに俺は今、お前を女だと認識していない」

「そういうこと言う?そりゃ有希ちゃんに比べれば胸は無いけど、これでも一応あるんですけど。ほら」


チョコは胸を張り、胸ありますアピールをしてくるがそれは悲しい現実を見せているだけだ。

確かに有希には敵わない。敵ですらない。

俺の目があまりにも哀れな目をしていたのか、チョコは少しの間の後に大きくため息を吐いて、注文のボタンを押す。

店員さんが来ると適当に頼み、ドリンクバーでジュースを補充する。


「それにしてもさ、どうして俊悟は有希ちゃんの事好きになったの?」

「いきなりそれか?」

「だって、気になるし」

「まぁ普通に顔は良いだろ。スタイルも良いし」

「おっぱい?男はやっぱりおっぱい?」

「お前なぁ…まぁ否定はできないが」

「そこは否定しろよ。しろよ」

「安心しろ、お前みたいなやつでも需要はある」

「哀れな目で見るの止めてくれない?小さい事でのメリットもあるんだけど」

「どんな?」

「肩が凝らない。走っても揺れない」

「…言っていて悲しくならないのか?」

「ならない。有希ちゃんが中学の頃は凄かったもん。男の厭らしい視線を浴びてた」

「お前が一番厭らしい目で見てそうだな」

「勝負してるんだから、そんなの見てる暇無いよ。予選の走りとかは見てたけど」

「見てたのかよ…」


運ばれてきたパスタを食べながら、昔を思い出すような表情をする。

そういえば、有希も陸上で有名人なんだっけか。

つい金持ちって言うことが先行していたからあいつも陸上が凄い事を忘れていた。


「あれは反則だね、まぁあの重さが仇で私には勝てなかったみたいだけど」

「お前軽そうだもんな」

「中学の頃は成長すら見込めなかったからね…、高校に入ってやっと成長してくれてひと安心って何言わせてんのさ」

「勝手に自分で言ったんだろ」

「でもまぁ有希ちゃんはセンスもあって金持ちで顔も良くて、胸もあって…陸上に本気にならなくても生きていける。だから、あの程度で終わったのかもね」


チョコは冗談っぽく言うが、目が本気だ。

こいつが陸上に関して本気で取り組んでいるのは知っている。

もちろん、有希も本気で取り組んでいた。しかし、チョコとは本気度が違うと思ってしまう。

陸上に関しては素人な俺だけど、チョコはセンスもあるが本気で勝とうと思っている。

陸上部にいる友達は顧問の言われた事をこなしているだけだが、こいつは違うらしい。

自分の走り方に合った練習を自ら作り、それを確実に実行しているらしい。

そのせいで他の部員から反感を買っているらしいが、そんな事をいう人間は本気でやっていないだろうし、チョコの実力と成績の前では無意味に近い。


「お前から見て有希はどうだったんだ?中学は戦って、高校は一時的に仲間だったんだろ?」

「中学は良いライバルだった。最後の決勝まではね。高校ではライバルでもなかった。ただの部員」

「最後の決勝まで?」

「3年の全国ね。あの子、最後の最後で手を抜いたんだ」

「バテたんだろ?あーいうのって一日で何回も走るだろうし」

「有希ちゃんは後半で伸びるタイプ。私は先行タイプ」

「意味が分からん」

「私はスタートで差を付けて逃げ切るタイプ。有希ちゃんはスタートは遅いけど後半に伸びるタイプ。

だから、最後に並ばれると私は負けるの。でも、最後の決勝は私に並んだのに私が勝った。

それも3位まで下がるなんて考えられない。有希ちゃんは風で煽られたって言ってたけど、私は風を感じなかったし、そもそも私の方が体重が軽いんだからおかしい」

「どこか故障でもしてたんじゃね?」

「あり得ないね。故障していて3位に入れるほど、あの年の全国は甘くない」

「ふ~ん、で?高校でなんでただの部員になったんだ?仲よかったんだろ?お前ら」

「仲は良かったよ。タイムも近かったし。だけど、あの子から勝とうって気持ちが伝わらなかった。

いるんだよ、たまに。センスも努力も一流なのに、一度大きな世界に立ったらやる気をなくす人」

「あいつはそれだったと?」

「さぁ?もう興味無かったし。まぁ普通ならここまで言わないけどね。憧れだったんだよ、有希ちゃんは。1年の頃から全国区だったし、同年代では別格の速さとセンスを持ってたから。だからこそ、最後に手を抜かれたのは気に入らなかった。というか、今思いだすだけでむかむかしてくる。あー!ダメだ、イライラしてきた。俊悟、カラオケ行こう」

「お前なぁ…もう6時だぞ?」

「関係ない。どうせ明日は休みなんだから」

「はぁぁぁ…早く帰ってゲームしてぇ…」


チョコはテーブルに並んでいるポテトからパフェまで一気に口の中に運んでいく。

その姿は可愛いとは程遠く、こいつは本当に女って物を捨ててしまったんじゃないか?と思わせる。

しかしまぁ…今日ぐらいはこいつに付き合ってやるか、と思わせるような食べっぷりだったので財布の中身を確認して伝票を持った。


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