第33話 FX?誘拐?
いつものファミレス。いつものメニューがテーブルの上に広がっている。
俺もそうだけど、こいつも相当神経が図太い気がする。
「今日の小テストは簡単だったね」
「あれを簡単と言えるお前を恨む」
「どうして?ちゃんと勉強していればわかる問題だもん」
「それでもわからないから俺はバカだと。お前はそう言いたいのか?」
「うわ~、ネガティブモードに入った俊吾くん、ちょーうざーい」
「お前、それやめろ。無性に叩きたくなる」
こんなしょうもない会話を続けながら、ポテトに手を伸ばす。
それにしても、週に2回程度ファミレスに来ているがすべて有希のおごりだ。
こいつがファミレスの金額なんて気にしない人間だと知っているが、おごらせ続けるのも気持ちがいいものではない。
しかし、俺の財布もさみしいのは真実だ。
「なんか奢らせてばっかで悪いな」
「別に。大した金額じゃないし」
「それでも月に1万ぐらい使わせてる気がする」
「一回が1200円ぐらいだからそうだね」
「やっぱり半分俺が持つよ」
「いいよいいよ。私、これでもお金持ちだし」
「親の金だろ?」
「お小遣いのこと?ううん、もらってないよ。自分で稼いでるの、FXで」
「FX?なんだそれ」
なんだかどこぞの最新ゲームのような名前が出てくる。
有希はオレンジジュースとメロンソーダを混ぜたジュースを飲んで説明してくれた。
「外国為替証拠金取引だよ」
「魔法の呪文か?」
「ん~、簡単に言えば海外の通貨を買ったり売ったりするのかなぁ。ゲームみたいなものだよ」
「お前、すごいことしてるな」
「準備金で300万円もらったけど、今じゃ多分これぐらい」
そう言って、両手をパーにする。
10本の指。つまり…1000万か?それとも10倍の3000万か?
しかし、こいつがあえて言葉にしない辺りを見ると相当な額な気がしなくもない。
10億とか…いや、さすがにそれはない。現実的でないし、そこまで膨れ上がるモノでもないだろう。
俺が頭をものすごく回転させて有希の意図を読み取ろうとしていると、答えが出た。
「100万円になっちゃった」
「失敗の方かよ!」
「そんな簡単じゃないからね~、つい最近失敗したし。それまでは1000万ぐらいあったよ。やっぱり大きく出るとダメだね。小さなことからコツコツと!が大切かも」
「いや、その金額の時点で小さなって枠超えてるし…」
「俊吾くんもコツコツとやればお金貯まるよ」
「やらん。体を動かして稼いだ方が楽そうだし。パソコンとにらめっこなんて俺に合わない」
「テレビゲームならできるのにね」
「うっさいだまれ」
「でもまぁお金はいろんな稼ぎ方があるんだよ~ってことは知っておいた方がいいよ」
「ご忠告どうも」
「いいえ~。はい、次は何が欲しい?」
「メロンジュース」
「またぁ?好きだね、それじゃオレンジジュースも混ぜておいてあげる」
「ぶん殴るぞ」
本当に世界が違う人のように感じる。
高校生が300万だの1000万だの100万だの軽々しく言える金額じゃない。夢を語る際に出てくるような金額だ。
しかし、こいつは違う。現実的な話でこの金額が普通に出てくる。
それは世界が違う事を証明しているし、有希が大人になれば更に大きな金額が出てくるだろう。
ホント…すごいと思う。西条家っていうのは。
変な色のジュースを持ってきた有希の頭を一発叩いてから、ポテトに手を伸ばす。
そして、ふと気になる事を聞いてみた。
「お前って誘拐とかされたことあんの?」
「誘拐?」
「お金持ちの子どもって誘拐されるってイメージあるんだけど」
「そりゃあるけど」
「へぇ。拳銃とか突きつけられたのか?」
「ん~まぁあるね。こう、静かにしろ!撃たれたいのか!って言われた事ある」
「それかなりやばいだろ…」
「大丈夫だよ。人を撃てる人はそんなことを言う前に撃つし。最初に恐怖感を身体に覚えさせたほうが口でいうより楽だしね」
「そのセリフ悪役っぽいな。で?身代金とかいくらぐらいなんだ?」
「さぁ?渡したことないし、聞いたこともないなぁ」
「ふ~ん、1億とか2億とかなんだろうな」
「それはないと思うよ。1億だと10キロ超えるし、アタッシュケースぐらいの箱いるし」
「持ち運ぶぐらいなら十分だろ?車があればそれぐらい」
「そのお金を持ち運ぶことはできるかもしれないけど、使えないようにしたらただの紙だよ?
ケースを開けたら特殊な塗料が付くように細工でもされてたら失敗だし」
「なるほど…でも人質を渡す前に確認すればよくないか?」
「それこそ同時交換を要求するよ。お金を渡す側にメリットがないもん、そうじゃないと」
「人質を取られてる時点で不利だろ」
「逆だよ。人質がいるから不利なの。動きにくいし、監視する人を最低1人でも必要になるし。
お金を渡す側は人数に関してかなり有利だからね。まぁ本当に殺す気でいるなら要求側の方が有利なんだけどね。私が経験してきた中にそんな人いなかったから」
「お前…修羅場経験しすぎだろ…」
「小学生の頃だけだよ。それ以降はもう無いもん、吹っ切れちゃった」
「やっぱりお前、おかしいわ…」
普通、そんな怖い経験をしてきたら外に出るのも嫌になるだろうに…。
俺だったら確実に引きこもる自信がある。
塩気の効いたポテトを美味しそうに食べている有希を見て改めてこいつの凄さってのを思い知ったような気がした。




