第31話 阿波踊り
「ということで、西条有希から神農千代子に変更となりました。すみません、前例がない事をしてしまって」
「いや、お気遣い感謝するよ。本当にありがとう」
「いえ、それじゃ失礼します」
ガラッとドアを開け、生徒会室から出る。
これでうちのクラスも普通に戻るだろう。
ただまぁ…結果はどうあれあの状況であんな強行をしたのだ。有希にはかなり悪い事をしたと思う。
これを埋め合わせするべきなのか悩むところだが、変に気を使うと面倒なことになりそうで嫌だ。
いろんな事を頭の中で考えながら靴を履き替え、校門へ向かっていると、一人でこちらに視線を送りながら立っているやつがいる。
「少しお話があります」
有希は真剣な顔をしながら俺にいう。
こいつから話しかけてくるのはあの会談の日以来だ。
俺が頷くと有希はいつも乗ってくる高級車の中へ促す。
今まで生きてきたけど、こんな車の空間は初めてだ。
エンジン音も静かで乗り心地は素晴らしいの一言。
運転手の技術もすごいが、車自体の性能もかなりのものだろう。
「それで話は?」
「今日のことです」
「あぁ、その前にその変な話し方やめろ。気になる」
「わかった。それで今日の事なんだけど、なにあれ?私に命令?」
「まぁな」
「この西条有希に対して?」
「ただの西条有希だろ。世間じゃお前の方が地位は高いかもしれないが、あの教室では俺の方が上だ。そもそも、お前を特別扱いする気もない」
「……怖くないの?私がお父様にこのことを言えば」
「言わないだろ?お前。そもそもあの人がお前の学校での出来事をいちいち気にしている風にも見えん」
「確かにそうだけど…」
「それで?お前の話ってこれだけ?」
「……そうだけど」
立場が悪くなった有希は少し困ったような顔をして、窓から外を見る。
こいつはよくわからないな…。特別扱いをしてほしいのか、してほしくないのか…。
「お前、特別扱いされたいの?されたくないの?」
「へ?」
「どっちなのかなぁと思って」
「えっと…ど、どういう意味かな?」
「西条家の有希として見て欲しいのか、2年A組の有希として見て欲しいのか」
「…そりゃ後者のほうだけど」
「なら、クラス委員の件は忘れろ。お前にゃ無理だ」
「どうしてさ」
「チョコも言ってただろ。お前の影は大きすぎる。普通なら目立つ行為もお前の後ろだと目立たないんだよ」
「それは西条家としてのでしょ?」
「2年A組の西条有希の前に西条家の有希だろ。俺やチョコは同級生として見てるが、他の奴らは違うだろ」
「どうして俊悟くんやチョコちゃんは違うの?」
「俺は1年の時に迷惑掛けられたから特別扱いするのは癪。チョコは知らん」
「あ……あれはその…」
「別に気にすんな。お前がどういう考えで俺に接触してきたかなんて聞きたくもない。俺の中ではもう済んだことだし」
「ごめん」
「次謝ったら全裸で阿波踊りさせんぞ」
「ちょ、それは鬼畜すぎるよ!」
「で?これどこ向かってんの?」
「あのビルの中にあるお寿司屋さん」
有希が指差したビルは超高級ビルで、その中にある店は超一流ばかり。それもその中のお寿司屋といえばTVでも特集された超一流御用達のお寿司屋さんだ。
「なにそれ?」
「この前のおわ……この前の出来事で少しお世話になったから」
「これはあれかお詫びに入ってるのか?」
「入ってない!絶対入ってない!」
「なら、そこら辺のファミレスでいいよ。俺の口にはファミレスの方が親しみあるし」
「でも、もう食べられないかもしれないよ?」
「それこそ知らない方がいい味だろ」
「…確かに。わかった、それじゃあの時のお詫びもしたいし、俊吾くんの言うとおりファミレスでいっか」
有希は席の横にある電話を取ると、ファミレスに行ってもらおうようにお願いする。
この車、電話なんてついてるのか…と驚きながらも、電話を置いた有希に指を指して言う。
「全裸阿波踊りコース行きだぞ、お前」




