第30話 緊急会議
「早く帰りたいんだけどーー」
「部活がー」
クラスメイトたちが苛立ちながら言葉を放つ。
今は、ホームルーム。
いつもなら報告もせずに解散という形だが、今日は違う。
先生に事前に頼み、時間を作ってもらった。
ちなみに、先生は居ようと居まいと一緒なので、すでに職員室へ引き上げている。
クラスメイトたちからの苛立ちボイスを受けながら、黒板に大きく「緊急会議」と書いていく。
「えー、とりあえず黙れ。早く帰りたいなら黙れ」
がやがやとしているクラスメイトたちに対して威圧的な態度を取り、この緊急会議は重要なものだと理解させる。
「黙ったな。さて、今日は緊急会議する。テーマはこのクラスについてだ」
緊急会議という文字のしたに「西条有希」という文字を書き、再びクラスメイトたちの方を向く。
俺の横では有希が?マークを頭の上に浮かべながら俺の方を見る。
「まず初めに。お前らやりたい放題しすぎ。髪は染めるわ、お菓子や雑誌は持ってくるわ、全部やるなとは言わないが限度ってものがある。お前らそれを超えすぎ。他の連中に影響出る。
というか、生徒会に要注意クラスとして見られてるから自覚持て。
これ以上、面倒な事をしたら生徒会も先生も容赦しないように言ってある。
あと、ここからが本番。有希、お前も黙ってないで言いたいことを言え。
お前、どうしてこいつらが校則違反しているのに怒られないか気が付いてて見ないふりしてきたな。
このクラスにあって他のクラスに無いモノはお前、西条有希って存在だ。
自分の存在の大きさを改めて自覚しろ。お前は見て見ぬふりをしちゃいけない人間だぞ」
「……」
「優しさか何か知らんが、お前の身内贔屓のせいで生徒会も先生も頭を悩ませてんだよ。
今ここで言え。この校則違反してる奴らに注意しろ。それが出来なきゃクラス委員辞めろ」
「私は別になりたくてなってるわけじゃ」
「それじゃ辞めろ。チョコ、お前代わりにやれ。クラス委員命令」
「えぇ~…部活あるんだけど」
「支障がでない程度に手伝え、後は俺がやる」
「川島がそういうなら良いけどさ~。有希ちゃん、私代わりにやるよ。確かに、有希ちゃんは向いてないよ。有希ちゃんの影は大きすぎる」
「……」
「決定。生徒会長には俺から言っておく。明日から先生も生徒会も容赦なく言ってくるだろうから嫌なら元に戻しとけよ。解散!」
ぶーぶーとブーイングを受けると思いきや、校則違反をしている連中は不満そうな顔をしながらも渋々「染め直すかぁ…」と呟きながら教室を出ていく。
ここに通っている連中は根は真面目なのだ。
俺も教科書をカバンの中に入れ、教室を出る。
生徒会長に報告をしなければならない。
「川島、ちょっといい?」
生徒会室の方へ歩いて行こうとすると後ろからチョコが呼びとめる。
さっきの件で話すことがあるのだろう。
「なんだ?」
「さっきの本気?」
「あぁ、まぁ一応。悪いな、巻き込んで」
「それは良いけど。本当に私、部活で手伝えないかもしれないよ?」
「いいよ。名前だけ貸してくれれば」
「そこまで普通やる?あんなのほっておけばいいのに」
「俺もあの程度なら別に良いと思ってる。だけど、有希の態度が気にくわない」
「厳しいねぇ、有希ちゃんの方が一般人に見えてくる」
「そりゃいい事だろ。とにかく、名前借りるぞ?」
「いいよ。これは貸しね」
「お前に貸しを作るの嫌だな…」
後で何を要求されるか予想もできない…。
嬉しそうな顔をしながら廊下を走っていったチョコの背中を見ながら少しだけ後悔した。




