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せいしゅん!  作者: もひぷる
第2章
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第27話 チョコ

 なんだ、この会議。


 クラス委員の会議ってのはこんなにも緊張感があるのか。

 ピリピリとキリキリとバリバリと、3年生の生徒会長まで緊張の色が見られる。

 どうして、各クラスのクラス委員の顔合わせでこんな状態なのかというと、そりゃ当り前のように俺の隣に座っている西条有希のせいだ。


「西条有希です。2年A組です」

「川島俊悟です。同じくA組です。よろしくお願いします」


 ピリピリ、ピリピリ、ピリピリ。

 終始ピリピリ空間の中、各クラスの委員が紹介されていく。

 これからこんなピリピリした会議を何回もしないといけないのかと思うと気が重くなってくる。


「はぁぁぁ……疲れた……」


 カバンを持って、校門へ歩く。

 精神的に疲れるってのは久しぶりだな…。

 とろとろと歩いていると、校門から学校へ入ってくる集団が走ってくる。


「あ、川島じゃん」

「あ?ああ、チョコか」

「チョコ言うな。あ、そっか。今日は会議か。おつかれ」

「お前は部活か?」

「まぁね。今帰り?」

「お前の了解を得ないといけないのか?」

「あんた、そういう事言う奴なんだ。そうだ、聞きたいことあったんだ。そこで15分ぐらい待っててよ。一緒に帰ろうよ。川島、神農村でしょ?私、佳之木町なんだ」

「一つ手前か」

「そ。だから、待っててよ。可愛い女の子と帰られるんだからありがたく思いなよ」

「お前のギャグ笑えね~」

「とにかく、15分間待ってなさい」


 チョコはそう言って俺を睨みつけ、部室棟の方へ走っていく。

 相変わらずあいつは…元気だな…。

 チョコ。美濃千代子でチョコ。

 1年の時に同じクラス達が皆「チョコ」と言っていたため、今のクラスでもあいつはチョコという呼び方になっている。

 しかしまぁ、今のクラスの中で気軽に話せる人間の一人だ。

 それに有希に対して俺以外で反論できる人間でもある。


 ぼけ~っと、校門付近で立ちながらチョコを待っていると15分ピッタリに俺の前に立った。


「おまたせ。あんま近寄んな」

「はぁ?」

「汗臭いし」

「お前の汗の臭いで欲情するほど欲求不満じゃねぇよ」

「なら、いいや。それよりも早く帰ろう。あんたには色々聞きたい事あったんだ」


 こいつ自由だなぁ…。

 前を歩くチョコについて行きながらそんなことを思う。

 こいつは俺に似てる気がする。田舎者って皆こんな奴なんだろうか…自分の態度を少しだけ改めないといけない気がしてくる。

 バス停で適当な話をしながら時間を潰し、バスに乗るとちょうど席が空いていたため座る。


「私さ、川島の事興味あるんだよね」

「彼女いないぞ」

「そんなことこれっぽっちも興味無い」

「じゃなんだよ」

「有希ちゃんだよ」

「有希?あぁ西条有希か」

「あんたら、1年の時にすっごい仲よかったでしょ。有希ちゃん、休み時間になったらいつもあんたの所行ってたし」

「そうだな」

「でも3学期ぐらいから一切そういうの無くなったから気になってたんだよね。私だけじゃなく、皆」

「お前が聞き役なのか?」

「別に大した内容じゃなかったら言いふらすけど、重要なら私で止める」

「別に大したことじゃねぇよ。佳之木町なら知ってるだろ、神農村の伝説ぐらい」

「あぁ、土地に住む神様の話?」

「そう。それに興味を持ったのが有希の父親だ」

「ふ~ん、あんな土地に?」

「色々あるんだろ。大人には」

「まぁどうでもいいや。それよりもその話がどう関係あるのよ」

「神農村を手っ取り早く取るならその村で権力のある奴を丸めこめばいい」

「あぁ、なるほどね。だから有希ちゃんはあんたに夢中だったわけか。大変だねぇ、名家も」

「な、大した事じゃないだろ」

「まぁね。でもそれを言いふらすつもりはないなぁ…。有希ちゃんの評価落ちちゃうし」

「あいつに評価なんて関係ないだろ」


 あいつは常に100点満点のように扱われている。

 本当の点数が何点か知らないが、表は100点なのだ。

 それも落ちようがない点数。


「川島、あんたももう少し周りに目を向ければ?有希ちゃんは今のところ30点が良い所だよ」

「どういう基準で点数つけてんだよ…」

「知らない。だって、私が付けたわけじゃないもん。とにかく、有希ちゃんは絡みにくいからねぇ。

 お金持ちってのもあるけど、何事にもパーフェクトに近いじゃん?隙が無いし、何より皆に対して優しいし、平等に扱うし」

「それの何が悪いんだ?良いことだろ」

「普通なら親しい人を優先するよ。嫌いな人なら会いたくないし、話したくもない。でも、有希ちゃんにはそれがない。皆、平等。常に平等。それじゃ友達はできないよ」

「まぁ言いたいことはわかる。でもそれを俺に言う意味が分からない」

「だって、あんた唯一有希ちゃんの中で一歩抜けてるじゃん」

「それは俺じゃなくて川島って家だろ」

「それでも抜けてる。だから、皆からの嫉妬を結構買ってるよ、あんた」

「売った覚えは無い」

「そういう態度はますます買うだろうね。まぁ私はそういうの嫌いじゃないけど」

「お前も似たようなもんだろ」

「あんたと一緒にしないでよ。私は相手によって態度は変えるわ」

「ますます性質が悪いわ。でもまぁ…今はあいつの中での俺はお前らと同じだろ」

「はぁ?そんなわけないでしょ。有希ちゃん舐めんな、あの子はそんな単純な子じゃないわよ」

「そりゃ単純だったらあの世界は生きて来れないだろ」


 チョコは呆れたように大きくため息を吐いてから、バスの停止ボタンを押す。

 気が付けばもうすぐ佳之木町。乗客は俺達と数人程度まで減っていた。


「よいっしょっと。まぁなんというかこれからよろしく」

「こちらこそ、チョコ」


 手を上げて降りていくチョコに振り返し、バスから降りたのを確認してポケットの中からイヤホンを取り出す。

 そして、お気に入りの曲を聞きながら、次の神農村の停車地点で停止ボタンを押した。



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