第24話 このために、
「やぁ、君が川島家次期当主の俊悟くんだね」
あぁぁ…新年早々、最悪な出来事が起きてしまってるじゃないか…。
朝までゲームをしてしまい、充実した冬休みを送っていた。
今日も朝までゲームをした。そして、朝風呂という深夜の疲れをぶっ飛ばして、夜まで寝るぞー!って勢いだったのに…。
風呂場から出て、濡れた髪をタオルで拭きながら廊下を歩いていると高そうな、いや確実に高価なスーツを身に付けた男性がこちらを笑顔で迎える。
TVでみたことがある。
あれは西条統二。有希の父親だ。
西条さんの横には俺の父親が人をも殺しそうなオーラを放ちながらこちらに目を向ける。
「俊悟、大切なお客様の前だ」
「あ、ああ」
「いやいや、彼もここに在席させましょう」
「こいつはまだ若い」
「しかし、次期当主である事には変わりはないですよね」
「いや、俺は」
「ちょうど娘も来ているんだ」
うわぁ…最悪だ…。
西条統二の後ろには無表情な顔をしている有希がいる。
学校で見ている有希とは思えないな…。しかし…なんというか……気まずい…。
俺以外の3人は正装しているというのに、俺だけ上下スウェット。ドン○ホーテにいそうなネズミ色。
明らかに浮いてる。非常に浮いてる。
というか、俺の頭は濡れてる。
「さて、主役もそろった所で話を始めましょうか」
「西条さん、そちらの時間は少ないのでしょう?」
「おや、お気づかいありがとうございます。それでは単刀直入に言いましょう。
こちらの土地を買わせていただきたい」
この雰囲気の中、自分で自分の格好を見ると笑いのツボにストライクしそうだ…。
なんだよ、この真剣な雰囲気でなんでスウェットなんだよ…バカかよ、いや面白過ぎるだろ。
こんな面白い格好なのになんで誰も指摘しないんだよ…、それも面白いじゃないか。
「この土地の伝説を知っていますか?」
「ええ。実に興味深い」
「興味だけでこの土地に手を出すのは止した方が良いですよ」
「私、禁忌ってのに興味があるんですよ」
「あなただけで済むならそれでいいでしょう。しかし、娘さんまで巻き込むのはどうかと思います」
「それはどういうことでしょう?」
「……いや、この話はやめましょう。俊悟、西条さんの娘さんを案内してあげなさい」
「何を」
「この村をだ」
勘弁してくれ………。
これからふかふかのベッドで心地よい眠りをしようとしていたのだ。
こんな寒い外を歩かせるなんてふざけている。
俺が明らかに嫌な顔をしてもこの状況は変わらない。
というか、父はこの雰囲気から逃げ出すキッカケをくれているのではないだろうか…。
「わかった。えっと、西条有希さん、行きましょうか」
「有希、是非案内してもらいなさい」
「わかりました。ぜひよろしくお願いします」
「よし。着替えてくる」
面倒くさそうな顔をしながら、立ち上がり、客間から出る。
ニヤついてたりしなかっただろうか…。あの空間に居るぐらいなら外に出た方が良い。
それにほんの少しだけ出て、戻ってくればいいだけの話だ。
こんな村の案内なんてあいつも面白くないだろう。
自室に戻り、コートを取って、家の外に出る。
「さてっと、適当にぶらついて戻ってくるか。寒いし」
「………」
「この村を案内なんて言われても特に案内するところなんて無いからな」
「………」
「…なんだよ、さっきから黙って」
「いえ、何もありません」
「………」
「………」
なんだろう…、この気まずさは。
そりゃ有希からすれば今までの俺に対する行動はこの会談のためだと知られたから気まずいのもわかる。
だからといって、ここまで冷たい感じにされるのも何と言うかムカつく。
ぷらぷらと村の中を歩きながら会話の無い時間が過ぎていく。
その間、何も考えなかったわけじゃない。
西条有希って人間について少しだけ考えていた。
俺の知っている西条有希はバカで無駄に明るい奴だ。
しかし、今のこいつは特に感情も無く、何を考えているか良く分からない。
本当の西条有希はどっちなのか。俺的にはどっちでも良いという結果は出ている。
もちろん、俺の知っている有希と今の有希とはかけ離れ過ぎているため、違和感は感じるが。
それもこいつの一部だと思えば納得する部分もある。
そもそも意味の分からない行動をする人間が金持ちの世界で生きていけるとは思えない。
勝手なイメージだけど。
「なぁ一つだけ聞いていいか?」
「なんですか?」
「お前の父親は本当にこの土地を狙ってるのか?」
「…私は知りません」
「あっそ。それじゃもう一つ聞いていいか?これは答えても答えなくても良いけど」
「なんでしょう?」
これを聞くのは意地悪なんだろう。
いや、単純に性格が悪いって言われても良いだろう。
有希が負い目を感じているであろう部分に刃を向けるのだから。
「お前が俺に関わってきたのはこの話のためか?」
真剣な雰囲気で聞くのはさすがの俺でもできない。
歩きながら、先ほどの会話の延長上で聞く。
しかし、俺の後ろを歩いていた有希の足跡が止まる。
ここで振り向いたらあいつはどんな顔をしているのだろう。
無表情のままだろうか…。
興味はあるけど、ここで振りむくことはしない。それが今の俺にできる有希に対する優しさだと思うから。
「……その」
「悪かったな。なんかキツイ事を言わせようとした。気にするな」
「………」
「帰るぞ。西条家の御令……学校のアイドルのお前に風邪でも掛かれたら大変だからな」
どうして俺は答えを聞くのを止めたんだろう。
後ろを付いてくる気配を感じながら、そんな疑問が頭の中を駆け巡った。




